プロジェクトをやり遂げたいが作業を先延ばししてしまう、というのは、誰もが経験していることですね。プロジェクトを重視していないことが原因でやらない、というパターンもあれば、非常に大切だと思っていながらつい他のことをしてしまう、というパターンもあります。かくいう私も、採点する論文を山ほど抱えている時に限って、家の掃除をしてしまったりします。採点をしなければならないことは頭ではわかっているのですが。

では、私たちが先延ばしをするのはなぜなのでしょう? 人間は、時おりこういうことをするようにできているのでしょうか? それとも作業に対する心構えか何かが間違っているのでしょうか?

これらは、目標追求に関する私の研究の中核をなす疑問であり、ここに、人が先延ばしをする理由とその克服法のヒントが隠れているかもしれなのです。

やるか、やるまいか


先延ばしは、今そのプロジェクトに取り組むか、他のこと――別のプロジェクト、別の楽しいことをするか、あるいは何もしない――という、単純な選択から始まります。

何かに取り組もうという意思決定は、その時、その人がプロジェクトの遂行にどれだけの価値を置いているかによって促されます。心理学者たちはこれを主観的価値と呼んでいます。心理学的には、先延ばしとは、今作業に取り組む価値よりも、他のことをする価値のほうが大きくなった状態を指すのです。

このように考えると、先延ばしグセを克服する簡単な方法のヒントが見えてきます。なんらかの方法で、今やることの主観的価値を、他のことをする価値よりも大きくしてやればいいのです。プロジェクトの価値を高くしたり、他のことをする価値を低くしたり、また両方を組み合わせるのもいいでしょう。

たとえば、私の例ですと、家の掃除よりも、採点のほうが重要な理由を考えるようにするとか、「掃除はやってみるとたいへんだ。特にうちには小さい子がいるのだから」と考えるようにすれば良いということです。

これは単純なアドバイスですが、この方法を実践するのはかなり難しいかもしれません。というのは、今やる価値を削ごうとする多くの誘惑が働くからです。


先の締め切り


人は、必ずしも合理的な考えで、何にどのような価値を置くかを決めているわけではありません。たとえば、1ドル札の価値は、今日も1週間後もまったく同じです。しかし、1ドル札に対する私たちの主観的価値――すなわち1ドルをもっていることがどれだけうれしいか――は、たとえば、それをもらうタイミングなど、額面とは違った要因に左右されるのです。

人は、将来もらえる大きな報酬よりも、今もらえる小さな報酬を選択する傾向にあり、これを遅延割引(delay discounting)と言います。ある研究では、人は、平均して、3カ月後にもらえる100ドルと、今すぐもらえる83ドルを同等の価値と見なすことが示されています。つまり、3カ月待ってより大きな報酬を得るより、17ドル損をしてでも今もらいたいということです。

またこの他に、その人が最近もらったりなくしたりした金額によっても、お金に対する主観的価値は左右されます。要は、客観的価値と主観的価値がぴったり一致することはないということです。

遅延割引も、先延ばし要因の1つです。それはプロジェクトの完了が将来に起きることだからです。物事の完了は遅延報酬(=将来のご褒美)にあたるので、現在感じられる価値が低いのです。そして、締め切りが遠ければ遠いほど、今プロジェクトに取り組む価値は低く感じられます。

先延ばし傾向が遅延割引の経済モデルによく似たものであることは、複数の研究で繰り返し示されています。また、自分の先延ばしグセを自覚している人ほど、この割引率が高いこともわかっています。先延ばしをする人のほうが、そうでない人よりも、将来報酬のために今やる価値を大きく割り引くということです。

タスクを終わらせる価値を高める方法として有効なのが、ゴールが間近だと自分に感じさせることです。報酬にありついている将来の自分をありありと思い浮かべることで、遅延による価値の割引を少なくすることができます。


「楽な」仕事はない


プロジェクトを完成させる価値が割り引かれる理由は、それが将来だからというだけではありません。プロジェクトに取り組む作業そのものが厄介だからという理由もあります。仕事はたいへんなもの、という単純な事実が要因になっているのです。

最近の研究でも証明されているとおり、精神的努力は本質的に負担が大きいため、人は、往々にして、難しいタスクよりも簡単なタスクを選びがちです。また、難しそうな仕事ほど、主観的負担(大変に感じてしまう度合い)が大きいのです(ただ実際に作業を始めてみるとさほどでもないことが多いのですが)。

これが、大変そうな作業だと考えれば考えるほど、先延ばししてしまうという、興味深い予測につながります。その作業が大きな努力を要するほど、その努力を何か他のことに注いだほうが得だと感じてしまうのです(この現象を経済学者たちは機会費用と呼んでいます)。機会費用とは、言い換えれば、大変そうな作業に取り組むことが損失のように感じられることを指します。

案の定、負担の大きいタスクのほうが先延ばしされやすいことは、多くの研究で示されています。この研究結果が示唆するのは、大きな仕事は慣れていてやりやすいタスクに細分化するなどして、プロジェクトに取り組む苦痛を減らせば、先延ばしを効果的に減らせるということです。


仕事=あなたのアイデンティティ


先延ばしが、私たちの価値づけの副作用だとすると、タスクの遂行は、能力というよりも、モチベーションの産物であると言えるでしょう。

つまり、あること――たとえばグルメ料理や物語を書くことなど――にどんなに長けていても、意欲や重要性を感じていなければ、先延ばしをする可能性が高いということです。

作家のロバート・ハンクスが、イギリスの書評誌『London Review of Books』に寄稿した最近のエッセーで 「先延ばしは意欲の欠落だ」と言っているのも、そのためです。

その「意欲」の源というのがまた厄介な問題なのですが、意欲は、食欲同様、私たちの日常生活や文化、自身のあり方と密接に絡み合っていると言えます。

では、どうやって、プロジェクトの主観的価値を高めればよいのでしょうか? 私が大学院の学生とともに論文に書いた、パワフルな方法をお教えしましょう。それは、プロジェクトをあなた自身の自己概念に結びつけることです。自分の自己概念に重要であると見られるプロジェクトのほうが、その人にとっての主観的価値が高くなるであろう、というのがわれわれの仮説です。

ですからハンクス氏も、先延ばしは「未来の自分をうまくイメージする」ことができないことからくるのではないかと述べています。未来の自分とはすなわち、目的を達成する自分です。

人は、ポジティブな自己概念を維持しようとするので、自分の自我やアイデンティティと密接に結びついたゴールに、より高い価値を置きます。

プロジェクトを、人生の目標や基本的価値観といった、より直接的な価値の源泉に結びつければ、主観的価値の低さを埋めることができるはずです。


The psychological origins of procrastination - and how we can stop putting things off | The Conversation

Elliot Berkman & Jordan Miller-Ziegler(原文/訳:和田美樹)
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