アメリカに生息するあらゆる野生動物の中で、ワニはもっとも恐ろしいものの1つでしょう。ゴワゴワした皮膚、爬虫類特有の目、鋭い歯、まるでこの世の怪物のようです。「デスロール」と呼ばれる必殺技も恐怖心を煽ります。でも、ほんの少しワニに関する知識があれば、ワニの餌食にならずにすみます。もっとも、ワニに襲われることはめったにありませんが。

米国ではワニに関連した事故のほとんどがフロリダで発生しており、毎年12件程度は報告されています。フロリダでは1948年から2004年の間にワニに襲われる事故が330件報告されており、他州をはるかに上回っています。テキサス州、ジョージア州、サウスカロライナ州、アラバマ州、ルイジアナ州でもワニに襲撃されたという事故が報告されていますが、その件数はフロリダの足元にも及びません(テキサス州の15件がフロリダに次ぐ数字です)。幸いにして、ワニの襲撃が死亡につながった事件はほとんどなく、命に関わる攻撃の被害者はほとんどの場合、高齢者、ペット、小さな子どもです。ディズニー・グランド・フロリディアン・リゾート&スパで2歳の男の子がワニに飛びかかられたという悲惨な事故はその一例です。


ほとんどの動物による死傷事故と同様に、ワニに襲われるのは「ワニが人間を獲物だと誤認すること」が原因です。セント・オーガスティン・アリゲーターファームで爬虫類キュレーターを務めるJim Darlingtonさんによれば、濁った水の中でパシャパシャしているものなら何であれワニは噛みついてしまい、何に噛みついたかはその後の話なのだそうです。ワニは何でも捕まえられるものは食べてしまう習性があるからです。

ワニは周囲の背景にうまく紛れて奇襲する性質があるので、とにかく襲われないようにすることが一番です。ワニがいることで知られている地域にいるときは、ワニがもっとも活発になり餌を探す夜明けや夕暮れに泳がないようにすることだとDarlingtonさんは言います。フロリダ大学フォートデール研究教育センターのワニの専門家であるFrank Mazzottiさんは、最近降った雨のせいでワニは普段より活発になっているので人間と遭遇する可能性が高くなっていると指摘しています。子どもをしっかり見守ることも大切です。子どもは体が小さいのでワニが誤って獲物とみなしてしまいがちだからです。

ワニに遭遇したら、餌をやらないでください。ワニは一般に人間を恐れますが、餌をやるとその恐怖心が薄れますし、そもそも米国では違法行為です。人里離れた場所でワニが陸地にいるのを見つけたら、ワニのテリトリーに侵入してしまっているのかもしれません。

Mazzottiさんは、とにかく「一直線に」走って逃げることを勧めています。ワニはあまり早く走れませんがジグザグに走っている人間を見るとますます攻撃の対象にします。ワニは自分のテリトリーを侵した人間しか追いかけませんから、こちらが立ち去ればすぐに興味を失います。

ワニはいったん噛みつくと離そうとせず、水中に引きずり込んで溺れさせようとします。しかし、無理にワニの口をこじ開けようとしてはいけません。あごの力がはるかに強くてますます強く噛んできます。この世で噛む力がもっとも強い生き物がワニなのです。命を守るには、足をすくわれることなくしっかりと立ったままで、ワニを殴ることです。ワニが欲しいのは簡単に食べられる餌であって、戦いたいわけではないので、できるだけワニにとって不都合な状況にすることです。目や鼻先を狙って殴打しましょう。ワニは噛みついた獲物をいったん離して何度か噛み直す習性があるので、そのときが逃げるチャンスです。


Patrick Allan(原文/訳:春野ユリ)
Illustration by Sam Woolley.