新入社員を迎え入れることは、「教えることの手間」以上に組織にプラスの影響があるかもしれません。以下、サイボウズ株式会社のオウンドメディア「サイボウズ式」のこちらの記事より転載いたします。


僕がまだ会社員をしていたころ、先輩社員から言われたことでひとつ忘れられないことがあります。新人研修の最終日、研修内容を総括する場で、研修担当だったその先輩社員はこう言い放ちました。

「みなさんは、新人研修を終えてこれから現場に配属されることになるわけですが、ひとつ覚えておいてほしいことがあります。それは、みなさんはコストだということです。みなさんは会社にまだ利益をもたらしません。それなのにお給料をもらうわけです。一刻も早くコストを脱するよう努力してください」

仮にあなたがその場にいて、これを聞いたらどう思うでしょうか?「本当にそのとおりだ、一刻も早くコスト状態を脱するように頑張ろう」とやる気を出しますか? それとも「なんでこんなこと言っちゃうんだろうこの人...」とやる気がなくなりますか?

ちなみに、僕は後者でした。「早くもこの会社で働くのが嫌になったぞ」と思う程度には気持ちが萎えてしまったのを覚えています(結局、2年で辞めたわけですが)。僕に限らず、同期の8割ぐらいはモチベーションダウンしていました。たぶん、この先輩社員は新人にハッパをかけたかったのだと思うのですが、残念ながら逆効果だったと言わざるをえません。

新卒社員がすぐに会社に利益をもたらさないことはあたりまえ


そもそも、新卒社員がすぐに会社に利益をもたらさないというのは当然のことで、それがどうしても嫌だというのであれば最初から新卒など採用すべきではないのです。そんなに即戦力が欲しいのであれば、既に他社で業務経験がある中途だけ採用すればいいのではないでしょうか。それでも新卒を採用するという選択をしている以上、期待の力点は即戦力とは別のところにあると考えるべきです。

もちろん、新人がなかなかチームの役に立てていないことについて無力感を覚えたり、落ち込んでしまうこと自体にまったく意味がないと言いたいわけではありません。そういう気持ちをバネにして仕事ができるようになっていく人も当然いるでしょう。ただ、僕自身はそういうのはあまり健全だとは思いません。下手に無力感にさいなまれて悩むよりは、新人という役割を全うすることに重きを置いたほうが自分に対してもチームに対しても有益です。


「即戦力」になれなくてもチームの役には立っている


意外と見落とされがちなこととして、新人は「いるだけ」である意味ではチームの役に立っているということがあります。

新人、特に大学を卒業したばかりで就労経験がない新人の場合、チームに配属された直後は右も左もわからないのが普通です。配属前の新人研修で学べることは仕事に必要なことのうちのほんの一部なので、実際には配属後も仕事をしながら学ぶ期間が続きます。

チームに仕事を学ぶ人がいるということは、裏を返せば仕事を教える人もいるということです。生半可な理解では、仕事をごまかしながらやることはできても、人に教えることまではできません。新人に仕事を教えられるようになるには、それだけ仕事に習熟している必要があります。つまり、チームに新人がいることで、新人だけでなく、教える側であるチームメンバーも一緒に学び、成長できるということです。

また、業界に染まっていない新人のフレッシュな視点が、時には重要な気づきを与えてくれることもあります。何年もずっと同じ業界にいると、普通に考えるとちょっとおかしいことや、無駄に思えることも「今までずっとそうやってきたから」ということで深く考えなくなってしまいますが、新人の様子を見ればそういった「マヒしてしまった感覚」を取り戻すことができる可能性があります。定期的に新人を受け入れることで、チームの中に「外部の視点」(あるいは、「素人の視点」)を入れることができるわけです。

これらはチームの目的達成(たとえば売り上げ)に短期的な貢献はしないかもしれませんが、チームの空気を変える大きな要因になるので、中長期的には大きな貢献をしているといえるでしょう。もし、これを読んでいるあなたが自分は無力で全然チームの役に立っていないと考えているのだとしたら、決してそんなことはないことに気づいてほしいと思います。


いまの無力感を忘れないことが大事


新人のあなたが自分がチームの役に立っていないと感じてへこんでいるとしたら、むやみに焦るよりも大事なことがあります。それは、いま感じている新人時代の無力感やつらさをよく覚えておくことです。そして、近い将来あなたが新人を抜けだして後輩を指導する立場になった時に、そのことをかならず思い出してください。

これはあくまで傾向の話ですが、新人時代にあっという間に仕事を覚えてしまい特に無力感で悩んだことがなかったという人は、後輩指導の際にあたりが強くなることが少なくありません。「そのぐらい新人でもできるでしょ。俺はできたぞ。なんで君はできないの?」といったようなことを平気で言うわけです。

こういったカルチャーは、面白いくらい下の世代へと広がっていきます。新人時代に、先輩から詰められて育った人は、今度は自分が先輩になって後輩を指導する立場になると、自分が受けたのと同じような教育を施しがちです。そうやって会社全体に「新人は、たたいて伸ばせ」的なカルチャーが広がった結果が、冒頭で紹介したような「新人はコスト。早く一人前になれ」という発言につながるのかもしれません。

自分がなかなかチームに貢献できないことで真剣に悩んだことがある人のほうが、あっという間に仕事を覚えてしまった人よりも「できない人の気持ち」はずっとよく理解できると思います。それを踏まえた指導を後輩に対してすることができれば、チームは今の何倍も強くなるでしょう。新人の無力感は、長い目で見ればそういった大躍進への大きな可能性を秘めているわけです。

もちろん、傲慢(ごうまん)になってはいけませんし、あからさまに手を抜くのを推奨しているわけではありません。当然ながら、与えられた仕事には誠実に取り組んだほうが得られるものは多いでしょう。ただ、やるべきことをしっかりやっているのであれば「自分はチームの足を引っ張っているのではないか」と自責しなくても大丈夫です。新人がその役割を全うすることで、会社やチームはあなたの想像以上にいろんな点でよくなっています。そのことを、ぜひ忘れないでいてください。


「新人はコスト」ではない──即戦力じゃない新人がいるチームほど強くなれる | サイボウズ式

(日野瑛太郎)