程度の差こそあれ、怒りを感じることは誰にでもあるもの。そこで読んでおきたいのが、きょうご紹介する『自分の「怒り」タイプを知ってコントロールする はじめての「アンガーマネジメント」実践ブック』(安藤俊介著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。

「アンガーマネジメントコンサルタント」である著者は、2003年に渡米してアンガーマネジメントを学び、日本に導入し第一人者になったという人物。「ナショナルアンガーマネジメント協会に在籍する1500名以上のアンガーマネジメントファシリテーターのうち、米国人以外では唯一、最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに選ばれているのだそうです。しかし、そもそもアンガーマネジメントとはなんなのでしょうか?

「アンガーマネジメント」は、1970年代にアメリカで始まったとされる、怒りの感情と上手につき合うための心理トレーニングです。
心理教育や心理トレーニングとして体系化されているので、老若男女を問わず、誰でも気軽に取り組めるものになっています。(「はじめに」より)

メソッドのわかりやすさ、内容のおもしろさに惹かれ、そんなアンガーマネジメントのトレーニングを重ねてきたという著者は、こうも明言しています。

自分の怒りの癖に気づくことができれば、自分や周りの人にマイナスの影響を与えている怒りの癖を変えることができます。
怒りの癖を変えることができれば、怒りの感情コントロールは簡単にできるようになります(逆に、怒りの感情を知らずに、怒りの感情をコントロールしようとするのは、航路図を持たずに出航するようなものです)。(「はじめに」より)

第1章「『怒りっぽい性格』は変えられる!」から、「怒り」についての基本的なことがらを抜き出してみましょう。

「怒りっぽい」のは性格だからなおらない?


本書には、「感情の癖」という言葉が頻繁に出てきます。著者によるとそれは、感情のなかにも選びやすいものと、そうでないものがあるということ。普段よく使う感情と、あまり使わない感情があるといいかえることもできるそうです。

しかし「感情の癖」は、一見してもわからず、本人も気づきにくいもの。本人が気づいていないばかりに、周囲にマイナスの影響を与え続けているとしたら、それはとてももったいない。でも感情の癖に気づくことができれば、それをなおせると著者は主張しているのです。

私たちは通常、まず感情表現を親から学ぶもの。子どもにとって親は世界のすべてなので、同じ世界に入りたいと考え、そのために親を真似ていくということです。子どものころから「怒り」という感情に触れていると、その子は大人になっても怒りという感情を選択しやすくなるのだそうです。逆に「喜ぶ」という感情にもっとも触れている子は、大人になっても喜ぶという感情が、なにかを伝える際に相手にもっとも伝わりやすい感情だと感じるのだといいます。

どちらがよくて、どちらが悪いという話ではなく、もっとも触れている感情が、もっとも使いやすいものだという刷り込みがされていくということ。そしてこのような段階を踏みながら、人の感情の癖は家庭のなかでついていくのだというわけです。

子どものころに親から怒られたり、あるいは親が怒っている姿を見て「自分はあんな風に怒らないようにしよう」と思ったにもかかわらず、いざ自分が大人になったら親とそっくりの怒り方をしていたー--。そんなこともありますが、まさにそれがいい例。(20ページより)


「感情の癖」は、すべて短所だからなおすべき?


癖というと悪いことのように感じますが、果たして感情の癖は、すべてなおしたほうがいいのでしょうか? この疑問に対して著者は、「その感情と上手につき合えるようであれば、それは長所なのでなおす必要はありません」と記しています。逆に上手につき合うことが難しいのであれば、それは短所になるということです。

たとえば怒りの感情の癖として、「正義感が強い」人がいたとします。一般的に考えれば、それは長所になるはず。マナー違反の人にイラッとしたり、政治家のだらしなさに腹を立てたりするのは、人として正しいわけです。でも正義感が強すぎて、なにかあったとき「きょうもこんなにマナーの悪い人がいた。頭にくる!」と一日中引きずってしまうようであれば、それは問題。それが大きなトラブルにつながることも考えられます。

つまり大切なのは、感情の癖とのつきあい方。だから著者は、うまくつき合えるようであれば長所、そうでないようなら短所だと考えているといいます。その短所は、なおすことができるのだとも。


怒りの感情をコントロールできることは、リーダーの必須条件


アンガーマネジメントは、怒りの感情と上手につき合うための心理トレーニング。当初はDVの加害者・被害者へのメンタルケアや、犯罪者に対する矯正プログラムとしての側面が大きかったものの、時代の変遷とともに一般化されていったのだそうです。そして現在では企業をはじめ、教育現場や中央省庁・地方公共団体、アスリートのメンタルトレーニングなどにも使われるようになっているとか。

アメリカでは、企業のエグゼクティブも積極的にアンガーマネジメントを取り入れているといいます。欧米では、人前で上手に感情をコントロールできない人は「大人として未熟」という評価になってしまうから。ひとたびそう評価されてしまうと、出世して高い地位につくこともできなくなる可能性があるわけです。どんなにプレッシャーのかかる状況でも、怒りの感情を上手にコントロールしていけることは、もはやリーダーに求められる条件だということ。

ちなみに、著者がここで引き合いに出しているのは、アメリカ大統領選で共和党の候補の座を射止めたドナルド・トランプ氏。たしかにテレビ、新聞などでトランプ氏は、感情のコントロール能力が足りないと酷評されてもいます。実業家としてどれだけ優れた能力を持っていたとしても、また実績があったとしても、怒りの感情をコントロールできないようでは「リーダーの資質が足りない」と判断されてしまうということです。(29ページより)


アンガーマネジメントの目的とは?


「怒り=なおすべきよくない感情」と思われがちですが、怒りにももちろんプラスの側面はあるもの。たとえば動物は、目の前に敵がいると、自分の命を守ろうとします。その際、怒りの感情が生まれ、脳内でアドレナリンが放出されることに。すると体が臨戦態勢になって、相手を襲うか逃げるかができるようになるわけです。

このように、アドレナリンを放出して体を臨戦態勢にさせることが、怒りという感情の本来の役割だったというのです。怒りという感情が湧かないと身を守れなくなってしまうということで、それは人間も同じなのだとか。

つまりアンガーマネジメントは、「怒らなくなる方法」「イライラしなくなる方法」ではないということ。怒らなくなることが目的ではなく、怒る必要のあることは上手に怒れるようになる一方で、怒る必要のないことについては「怒らなくてすむようになる」ことだというのです。

怒ったあげく、「こんなことで怒らなければよかった...」と後悔することがあります。怒らなかった結果、「やっぱり、あのときに怒っておけばよかった...」と後悔することもあります。怒っても怒らなくても後悔することはあるわけですが、「こういった後悔はなくしましょう」というのが、アンガーマネジメントの考え方。そしてアンガーマネジメントでは、次の2つの状態を目指しているそうです。

1. 怒りという感情で後悔しなくなる
「怒ることは問題ではない」と考えるのがアンガーマネジメント。同じ「怒る」でも、「怒ってしまった」ではなく、「怒ると決めて怒った」になることを目指すということです。「怒ると決めて怒った」ということは、「自分の感情に責任を持つ」ということ。「反射的に怒った」ではなく、「自らの選択で『怒る』を選んだ」になるだけで、ずいぶん気が楽になるといいます。

2. 怒りの感情を上手に伝えられるようになる
怒りの感情は、「他人」「自分」「モノ」の3方向のどこかに向かうもの。たとえば、怒ったとき誰かに「なんでできないんだ!?」と当たるのは、怒りが他人に向いている状態。「自分はなんてダメなんだろう」と自分を責めるのは、怒りが自分に向いているとき。乱暴にドアを閉めたり、モノを投げたりするのは、怒りがモノに向かっていることの証。

しかしアンガーマネジメントができるようになると、人を傷つけず、自分を傷つけず、モノに当たることなく「自分は怒っている」ということを上手に表現できるようになるのだそうです。

怒っていることをうまく表現できれば、こちらが怒ったとしても誰もつらい思いをしないし、嫌な気持ちになることもありません。だから、人間関係が壊れるようなことはなくなるというわけです。(31ページより)



こうした基本を軸として、以後の章では「自分の怒りの癖を知り」「怒りをコントロールする」ための方法が具体的に解説されています。試してみれば、怒りを感じる頻度を減らしていくことができるかもしれません。


(印南敦史)