何らかの事情で芸術の教育を受けられなかった人による作品「アール・ブリュット」(アウトサイダー・アートとも言う)の作家として代表的なスイス人アーティスト、アドルフ・ヴェルフリの展覧会が、1月11日から、兵庫県立美術館(神戸市中央区)で開催中です。

その特徴は、既存の表現から影響を受けず、ひたすら自己の内的衝動に従って制作することです。日本では「アール・ブリュット=障害者アート」という偏った認識を持つ人がいますが、それは正しくありません。本展『アドルフ・ヴェルフリ 二萬五千頁の王国』を見れば、その意味が分かるでしょう。

作品を見ると、頭に十字架を乗せた人物(彼の分身)や、正体不明の生き物、線や渦巻きの模様、文字、数字、楽譜がびっしりと描き込まれており、雑誌や書籍から切り抜いたイメージをコラージュした作品もあります。物語の内容は一種の妄想ですが、圧倒的な強度を持つイマジネーションと執拗な繰り返しが見る者を捉えて離しません。「こいつはヤバい。でも魅力に抗し切れない」。彼の作品を前にした多くの人が、そんな二律背反的な気持ちを抱くのではないでしょうか。

ヴェルフリの作品には、彼の内面がむき出しで露出しています。つまり純粋なのです。しかし、そこには厄介な一面も。社会規範に照らして中和されるべき毒までもが、一切の加減なく盛り込まれているのです。アール・ブリュットには人間の創造性に対する新鮮な驚きや発見がある一方、ある種の副作用が潜んでいることも忘れてはいけません。

また、ヴェルフリにとって描くことと人生は不可分でした。その切迫感、没入ぶりが感動を呼びます。では、彼の経歴に精神病院の4文字がなかったら、作品の価値は下がるのでしょうか。そんな訳がありません。ヴェルフリの評価は、あくまでも芸術の領域でなされるべきなのです。展覧会は2月26日まで、一般1400円。

文・写真/小吹隆文(美術ライター)