日本の秋の風物詩のひとつに「アカトンボ」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。そんなアカトンボ、実はまだ解明されていない謎が多い昆虫なのだそうです。特に「なぜ赤くなるのか?」については未だに学説が分かれているとのこと。 メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』の著者で、早稲田大学教授・生物学者の池田先生は、そのうちの2つの学説を紹介。さらに、そのメカニズムが「人間の老化防止に役立つかもしれない」と、驚きの説を唱えています。

アカトンボはなぜ赤くなるのか

アカトンボの個体数が最近少し増えたような気がする。フィプロニル(商品名プリンス)という農薬が、アキアカネの個体数を激減させる原因であることは、このメルマガでも述べたが、多少とも使用を控えているのだろうか。

アキアカネは日本を代表するアカトンボで、種名としてのアカトンボは、アキアカネを指すが、広義にはアカネ属(アカトンボ属)の種全体を指すことが多い。専門的知識がない人は、アカネ属に属す個々の種を区別することは難しく、同じように見える種も多いはずだ。この属は世界に50種ほど産し、そのうちの21種が日本から記録されているので、日本はまさに秋津洲(あきつしま;トンボの国)と言うに相応しいアカトンボの国なのだ。

アカネ属以外にも赤くなるトンボがいて、別属のショウジョウトンボは、アカトンボ以上に赤くなり、このトンボもアカトンボと言って差し支えないと思う。反対に、アカネ属の中にも赤くならない種もいて、ナニワトンボやマダラナニワトンボの成熟したオスは、むしろ青くなってしまうので、アカトンボとは言い難い。多くのアカトンボは成熟したオスだけが赤くなり、メスや未熟なオスは赤くならない。

アキアカネは平地の田んぼで生まれ、夏は高原で避暑としゃれこみ、秋に大群で平地に戻ってくる頃には、オスは成熟して鮮やかな赤色になる。よく似たナツアカネは、生涯、平地に留まり移動しないが、成熟オスはアキアカネよりさらに赤くなる。アキアカネが避暑をするのは高温に弱く、摂氏30度以上になると生きられないからだと言われている。

ところで、アカトンボのオスは、なぜは赤くなるのだろう。

「なぜ」という問いには2通りの答えがあって、一つは進化論的、あるいは生態学的な答えで、もう一つは分子生物学的なメカニズムからの答えである。

オスのアカトンボは、体色が赤い方が、縄張り争いやメスの誘因に有利だ。あるいは日向で行動するオスは強い紫外線から体を守るために体が赤いのだ。すなわち、より赤いオスの方が、生存競争に強く、よりたくさんの子孫を残せたので、オスの体色は徐々に赤くなっていったという説である。

もう一つの分子生物学的な答えは、アカトンボの細胞に含まれるオモクローム系色素には、酸化型と還元型があり、還元型の割合が大きくなると体色が赤くなるという説だ。

たとえば、ナツアカネの未熟個体はオス、メスとも還元型の割合が60%程度であるが、成熟したオスでは90%になるという。メスは成熟しても65%程度にしかならず、その結果、オスは真っ赤になるが、メスは余り赤くならないのだという。還元剤(抗酸化物質)でもあるアスコルビン酸(ビタミンC)を直接、黄色のアカトンボ(メスや未成熟のオス)に注入すると、赤く変化することも分かり、この説は間違いないと思われる。さらには、アカトンボの体内に存在する抗酸化物質を調べたところ、還元型オモクローム系色素そのものであることも分かったという。

問題は、どのようなメカニズムで還元型オモクローム系色素が増えるかということだ。抗酸化物質は人間では老化の予防に有効だと考えられており、そのメカニズムが分かれば、人間の老化防止に役立つかもしれない。もっとも、アカトンボは赤いほど長生きするというわけではなさそうなので、難しいかもしれないけれどね。

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『池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋

著者/池田清彦(早稲田大学教授・生物学者)

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出典元:まぐまぐニュース!