中国政府が原子力発電施設の輸出に力を入れている。原発利用の拡大を続ける中国は、国内で培った技術を新たな輸出の柱に据え、先進国が独占してきた原発市場の切り崩しを狙う戦略だ。【北京・赤間清広、ロンドン坂井隆之】

 「英国政府の決定を歓迎する。ウィンウィンの関係実現を期待したい」。中国外務省の華春瑩副報道局長は今月15日、中国企業が出資する原発新設計画を承認した英政府の判断を評価した。

 英政府が承認したのは、英南西部ヒンクリーポイントで計画されている原発整備事業だ。事業主体はフランス電力公社だが総事業費の3分の1を中国企業が出資する。

 同原発は昨年秋、習近平国家主席が訪英した際、中国企業の参画で合意。しかし、7月に就任したメイ首相は最終契約寸前で「待った」をかけた。「メイ氏は前政権の親中外交を好ましく思っていなかった」(ビンス・ケーブル元英民間企業相)といわれる。

 これに中国側は強く反発。劉暁明駐英大使が8月9日付英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)に寄稿し「中英関係は重大な歴史的岐路にある」と揺さぶりをかけると、9月の英中首脳会談でも習主席がメイ首相に早期承認を暗に迫った。

 結局、メイ政権は今後の監視強化など一定の条件を付けた上で最終的に事業を承認。欧州連合(EU)からの離脱を控え、重要な貿易パートナーである中国との関係悪化は避ける必要があるとの判断が働いたとみられる。

 ヒンクリー原発の前進で、昨年の習主席の訪英時に合意されたもう一つの原発事業、英南東部ブラッドウェル原発の整備計画にも道が開かれた。同原発は先進国で初めて、中国製の原子炉を導入する見込みになっており、英国の原発事業への中国の関与は一層深まることになる。

 中国は国内で30基以上の原発を稼働させているが、輸出実績に乏しく、日本勢や仏アレバなど先進国の原発大手に大きく後れをとっており、英国での導入実績をてこにセールス拡大を加速したい考えだ。既にパキスタンでは中国製原発の新設が決定、ルーマニア、アルゼンチンなどでも中国企業の原発事業参入が決まり、原発市場における中国の存在感が増している。

 背景には、政府の影響力とチャイナマネーを最大限に活用する中国特有の手法がある。英国のようにトップセールスで相手国から原子力分野での協力を引き出す一方、新興国に対しては経済援助などの名目で事業費の多くを中国側が負担することで採用を働きかけるケースが目立つ。

 習主席は中国を起点にアジア、欧州にまたがる巨大経済圏「一帯一路」構想を掲げる。電力インフラの整備が遅れた同構想圏内の新興国との関係を深めるうえで、原発輸出は有力な武器ともなっている。中国国営新華社通信によると、中国の原発大手、中国核工業集団の孫勤会長は「2030年までに一帯一路関係国に約30基の原発を建設する」と意欲を示す。

 ただ、海外の導入実績が少ない中国製原発の安全性への不安は根強く、国の基幹であるエネルギー事業に中国企業が参入することへの警戒感もくすぶる。メイ首相が原発承認を渋ったのも安全保障上の懸念があったためとの見方が有力だ。原発輸出を先進国などに拡大するには、「中国恐怖症」(新華社通信)を払拭(ふっしょく)できるかも課題となる。

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 ◇中国の原発

 中国国内では今年3月末時点で30基の原発が商業運転を開始しており、24基の新設事業が始まっている。さらに40基を超える原発建設計画が始動しており、2030年までに米国を抜き世界最大の「原発大国」となる見通しだ。中国の原発開発は1950年代に軍事利用を目的に始まり、64年に原爆実験に初成功すると民間転用に向けた研究が本格化した。主に米、仏、ロシアから技術を導入し、91年、自主設計した初の原発「秦山原発1号機」(浙江省)が試験運転を開始し、94年に本格稼働した。2011年には北京郊外に高速実験炉を稼働させている。輸出面ではパキスタンで2基の中国製原発が稼働、さらに2基の新設事業が始まっている。