22日に日本での配信から2カ月が過ぎたスマートフォン(スマホ)向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」。配信当初の爆発的な人気は落ち着いたとはいえ、愛好者は多く、今月上旬に世界累計5億ダウンロードを突破した。一方で、ゲームのプレーヤー(利用者)が深夜にたむろしてゴミをポイ捨てしたり、珍しいポケモンを求めた数百人が車道をふさいだりするなどの迷惑行為が後を絶たない。なぜ、今になってのマナーの悪化が目立つのか。背景には、ゲームを運営する会社が「不正ツール」と呼ぶサイトやアプリがある。国内で集められる142種類すべてを集めた愛好家の記者が「一斉移動」問題を探った。【大村健一/デジタル報道センター】

 ◇配信開始から2カ月 今も目立つマナー違反

 「ポケモンGO及びアプリ遊戯者の不敬行為が改善されず、警備員を配置しても収拾がつかなかった為(ため)、当境内地に於(お)ける遊戯はやむを得ず全面禁止となりました」。東京都台東区の不忍池(しのばずのいけ)ほとりにある寛永寺の弁天堂は、9月18日から境内でのスマホ向けアプリ全般の禁止を伝える立て看板を設置し、警備員が「この場所でアプリ使用は禁止です」と呼びかけている。

 寛永寺の担当者は「全員のマナーが悪いわけではないが、配信直後から改善の様子が見られず、むしろ最近になって如実に表れてきたような気がする」という。配信開始直後から珍しいポケモンの頻出スポットとして人が集まり、昼夜を問わずに境内に居座り続けるプレーヤーに対する参拝客からの苦情も後を絶たなかった。たばこの吸い殻や飲食物の包装などゴミのポイ捨てが増加し、「深夜に境内で集団がたむろしているのは、治安の面で不安」との苦情もあった。記者が9月中旬の夜に不忍池を取材した際も、弁天堂付近に待機し、珍しいポケモンが出現すると一斉に移動する集団を見ている。

 また、東京都港区のお台場で18日、「(珍しいポケモンの)ラプラスが出た」という情報が広まって、プレーヤーが一斉に移動し、「歩道に人があふれて危険だ」との110番通報が相次いだ。地域を管轄する警視庁東京湾岸署は20日、ゲームを運営するポケモン社と米ナイアンティック社と対策に向けた協議をした。

 お台場だけでなく、浜町公園(東京都中央区)、都立小山内裏公園(町田市、八王子市)などで、集団が「走る」「自転車で駆けつける」「自動車を路肩に駐車して向かう」などして一斉に移動する光景を記者は見てきた。夜にスマホを見ながらふらふらと走っている自転車にぶつかりそうになったことも数回あり、一般の通行者には危険だ。

 ◇マナー違反の根底にある「不正ツール」の存在

 ポケモンを捕まえるには、居場所を推理して歩き回りながら探し当てるか、歩行距離に応じて珍しいポケモンが生まれる「卵」をかえすため歩いて距離をかせぐことが必要。同じ場所にとどまり続けることは本来の遊び方とは違い、居場所に向かって正確に一直線に駆け出すことも不可能なはずだ。そのうえ、配信直後の爆発的なブームは一段落している。にもかかわらず、なぜ今になってプレーヤーの迷惑行為が目立っているのか。

 背景には、出現する場所と時間を秒単位でスマホの地図上に正確に示すサイトやアプリが普及し、遊び方がすっかり変わってしまったことがある。運営する両社が開発したものではなく、非公式のもので、両社はこれを「不正ツール」と断じている。

 過去の出現履歴を調べることが可能なものもあり、「お目当て」が頻出する場所を探して待機し、出現を確認したらスマホで不正ツールの地図を確認しつつ脇目もふらずに移動して「ゲット」する遊び方が主流となりつつある。一度出現すると、10分前後でその場所から消えてしまうケースが多いことも不正ツールを通じて広く知られており、慌ただしい一斉移動の一因となっている。それに加え、ゲームではポケモン同士を戦わせることもできるが、個々のポケモンの強さを正確に測定する不正ツールも存在。取捨選別ができるので、より強い個体を求めて一斉移動を繰り返す。

 お台場で22日に取材すると、前日に「ラプラス騒動」が話題となったばかりで、雨も時折、強く降っていた中、多くのプレーヤーがいた。午後4時前にラプラスと同様に珍しい「ラッキー」が潮風公園南の交差点付近に出現。元来、珍しいポケモンがよく出たスポットから500メートルほど離れており、間もなくプレーヤーが一斉に駆けつけ、歩道を埋めた。しかし、約20分後には、すでに周囲にプレーヤーはほぼおらず、元の場所に戻っていた。ほとんどが不正ツールを使って正確な場所と秒単位の出現時間を把握していたのだろう。「まだこの近くに珍しいポケモンがいるかも」と推理して歩き回る本来の遊び方は、もはやほとんど見なくなった。

 ◇場当たり的な対応ではなく、根本的な解決を

 22日に小山内裏公園でプレーしていた60代男性は「(不正ツールの)地図で珍しいポケモンが出現していたので散歩に来た」といい、子供を連れて訪れた40代女性は「1週間前に知ったが、今は正確に(ポケモンの)居場所が分かるんですね」と話し、「あと少しで消えちゃうよ」とスマホ片手に駆け出す男児をほほえみながら見守っていた。どちらも運営側が「不正」としている行為だという認識はなく、「便利な攻略ガイド」の位置づけだった。不正ツールを使えば、「珍しいポケモンを捕まえる」という醍醐味(だいごみ)が身近になる。しかし、大集団が同じタイミングで「われ先に」と移動すれば、周囲にさまざまな迷惑が掛かる。

 愛好家の一人として、駆けつけたくなる気持ちは記者も理解できる。しかし配信開始当初から2カ月たっても功罪の「罪」の部分ばかりクローズアップされるようでは、ゲームの存続さえ危ういと感じている。この記事を書くための調査として不正ツールを利用したことは忸怩(じくじ)たる思いがあるが、珍しいポケモンは不正なしで集めた。ラプラスは2匹、ラッキーと同様に珍しい「カビゴン」は各5匹ずつ、それぞれ10キロ歩いてふ化する卵から獲得した。歩いた距離は約440キロ。経験則で言えば、歩いて卵から得たポケモンの方が、頻出スポットなどで捕まえたポケモンよりも強い印象がある。

 ゲームの「功」の部分も小さくなく、ナイアンティック社は8月に東日本大震災と熊本地震で被災した岩手、宮城、福島、熊本の4県で観光を後押しする復興支援での提携を発表。「プレーヤーと地元の方々の交流を促進したい」といい、具体策を練っている。各地の商店街などでも、ゲームと連携したイベントも開催された。記者にとっても歩くことの「動機付け」になっており、100キロ超の体重が10キロ近く減り、体調もいい。部屋の中でプレーすることが主流だった従来のゲームと違い、現実の世界を人が移動するポケモンGOならではの効果だ。

 しかし、それに不正ツールが絡むと、迷惑行為につながってしまう。表面的にはマナーの問題だが、不正ツールの普及でゲームの仕組みそのものがトラブルを誘発するように変わってしまったことが根底にあると考えている。運営する両社は、毎日新聞の取材に対し、「不正ツール対策を進めると同時に、使わないように周知活動を続けていきたい」とコメントした。20日に両者と協議した東京湾岸署もすでに「不正ツール」の存在が問題の一因となっていることは把握しており、根本的な解決に向けた対応は進みそうだ。

 しかし現状は、運営側の対策が後手に回っている。まずプレーヤーが不正ツールを使わないことを解決の一歩目とするしかない。