◇15日で1年

 長野県軽井沢町で2016年1月、スキーツアーバスが転落、乗客・乗員15人が死亡した事故から15日で1年を迎える。犠牲になったさいたま市の早稲田大国際教養学部4年、阿部真理絵さん(当時22歳)の父知和さん(57)は毎日新聞の取材に、親思いだった娘をしのび、事故の再発防止への願いを語った。

 「『生んでくれて 育ててくれて 早稲田までの教育を受けさせてくれて』 いいところに就職して恩返しする」。知和さんは事故後、手元に戻った遺品のスケジュール帳に、一片の付箋を見つけた。就職活動に臨む真理絵さんの決意と両親への感謝がつづられていた。「素直に育ってくれていたんだな。志望通りのメーカーに内定していたのに……」

 知和さんは自動車メーカーの技術者。真理絵さんは事故前、大手重工の内定を得ていた。文系の学部に進みながら志望を製造業に絞ったのは「メーカーは技術者のひのき舞台というイメージがあるが、事務職がきちっと仕事を回すことで成り立っている」という父の助言があったからだ。

 真理絵さんは中学時代の2年半、父の転勤に伴い英国に居住。「事故後、娘は希望通り海外事業を手がける部署への配属が決まっていたことを知った」。知和さんは目を伏せた。

 昨年1月15日午前、知和さんは出張先の群馬県高崎市で、真理絵さんが事故に巻き込まれたと知った。安否不明のまま軽井沢に向かい、遺体と対面したのは夕方のことだった。真理絵さんはゼミ仲間に誘われ、久しぶりのスキーのために長野県の斑尾高原へ向かう途中だった。「氷のように冷たくなっており、じっくり向き合うこともできないまま自宅に連れ帰った」

 事故を巡っては、大型バスのハンドルを握った経験が少ない運転手による運転ミスの可能性が指摘されている。知和さんは通夜のあいさつで「今の日本が抱える、労働力の不足や過度の利益追求などによって生じたひずみが起こした事故と思えてならない」と訴えた。胸中には「娘を静かに送り出したら、再発防止に向けて動き出さないと」との思いがあった。

 昨春、遺族会に参加し、国土交通省や観光庁に対し、安全規制について要望を伝えてきた。安全対策の監視は、長い道のりになると覚悟している。「終わらないし、やり続けなければいけない。家族を失い傷ついた被害者の務めだから」【花牟礼紀仁】