【バンコク岩佐淳士】フィリピンのドゥテルテ大統領が米国と距離を置く発言を連発している。オバマ米大統領への暴言が明るみに出て、米側から今月6日に予定されていた初会談中止を通告されてからも、その勢いは止まらない。南シナ海問題を抱えるフィリピンにとって最大の後ろ盾であるはずの米国との同盟関係が、ドゥテルテ氏の言動で揺れている。

 ドゥテルテ氏は12日、イスラム過激派対策で南部ミンダナオ島に駐留するとされる米軍特殊部隊に対し「撤退すべきだ」と発言。翌13日にはアキノ前政権が4月に米国と合意した南シナ海での合同パトロールについて「他国のいかなる軍とも合同パトロールは行いたくない」と不参加を示唆した。

 発言の背景にあるのは根深い対米不信だ。8日にラオスで開催された東アジアサミット後、フィリピン外務省関係者が「当惑している」と愚痴をこぼした。日米中の首脳らが顔をそろえたサミットで、ドゥテルテ氏は突然、米兵が植民地統治時代にフィリピンで行った殺人を批判し始めた。6月末の就任後から実施する過激な麻薬取り締まり作戦に米国などから人権上の懸念が示されていることへの反論だった。

 フィリピン外務省が事前に準備していた演説原稿は「(南シナ海を巡る中国の権益主張を退けた7月の)仲裁判決の尊重」を強調し、判決支持を訴える米国や日本と歩調を合わせる内容だった。ドゥテルテ氏はそれを完全に無視し、持論を展開した。

 ドゥテルテ氏は米国との同盟関係を強化したアキノ前政権とは異なるスタンスを取っている。特に中国との関係では、仲裁判決をテコにして経済援助を引き出す方針とみられている。ただ、そのためには中国に「法の支配」を求める米国との協力は欠かせない。そもそも、フィリピンで裁判を経ずに殺害された麻薬犯罪の容疑者は3000人以上とされ、中国に「法の支配」を求める状況ではなくなっている。

 国際社会から人権問題を批判され、ドゥテルテ氏が物議を醸す発言をするたびに、外交、国防当局者が米国などとの関係修復を図ってきた。

 ところが、関係修復役だったヤサイ外相が15日、ワシントンでの講演で「我々はずっと『米国の茶色い弟』でいるわけではない」とドゥテルテ氏の口調を思わせる発言をし、米側を驚かせた。

 民間調査機関パルス・アジアが7月に実施した世論調査では、ドゥテルテ氏の支持率は91%に。国内で高い支持率を誇るドゥテルテ氏の「方針」が外交・国防当局にも浸透し始めたとの懸念も出ている。

 【ことば】米比同盟

 米比相互防衛条約に基づく安全保障同盟。両軍は大規模な共同軍事演習を毎年開催している。2014年に両国が締結した協定に基づき、今年3月には、防衛協力の拠点として比国内の5基地を充てることで合意。今後、施設整備などを進めていく。米軍は短期間で部隊が入れ替わるローテーション(巡回)配置の形式で5基地に駐留を進める方針。