ジャカルタ中心部で約30人が死傷した過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロから14日で1年。ウイグル人を東南アジアのテロ組織に送り込むISの戦略が現地の裁判や当局者の話などで判明した。一方、インドネシアではIS系の地元過激派によるテロが頻発しており「テロとの戦い」は終わりが見えない状態だ。【サマリンダ(インドネシア・カリマンタン島東部)で平野光芳】

 ◇過激派、各地に浸透

 2015年10月初旬、シンガポールの対岸約20キロにあるインドネシア・バタム島。密航船でマレーシアから上陸した2人のウイグル人の前に、マスク姿のIS支持者2人が現れた。「迎えに来た」

 渡航を差配したのはシリアにいるインドネシア人IS戦士、バールン・ナイム元受刑者(33)。「ウイグル人の爆破テロ志願者を送る」。捜査関係者によるとスマートフォンのメッセージアプリでインドネシアのIS傘下組織に指示を出し、資金も一部提供していた。

 密入国した2人のうち1人はスマトラ島アチェ州で足取りが途絶えた。もう1人の男(30)は警察庁長官襲撃などの計画に加わったが、警察の事前摘発を受けて15年12月に逮捕。昨年11月に禁錮6年の実刑判決を受け「服役後はインドネシアに永住する。中国にはもう帰りたくない」と訴えた。

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 インドネシアではこの1年、過激派に感化されたインドネシア人による小規模のテロ事件が各地で相次いだ。カリマンタン島サマリンダのディアナ・シナガさん(33)は昨年11月、長女インタンちゃん(当時2歳)を失った。「歌と踊りが大好きで活発な子だった。なぜテロの犠牲になってしまったのか」。自宅の壁の遺影を見つめ、涙をこらえる。

 事件は同13日午前に起きた。夫アンギアットさん(34)と家族3人で毎週通っている近所の教会で日曜礼拝に参加していた。祈りの最中、突然、爆発音と共に炎が室内に入って来た。火炎瓶によるテロだった。教会の玄関先で遊んでいた幼い子供ら4人が炎に巻き込まれた。インタンちゃんもその一人。病院に運んだが最後に「お父さんはどこ?」と言葉を発し、亡くなった。

 実行犯として逮捕されたのは、教会近所のモスクの管理人をしていたジュハンダ容疑者(33)だ。ジャワ島のイスラム過激派組織で活動し、11年に爆発物を送りつけるテロ事件に関わって服役。14年の出所後は獄中で知り合った過激派人脈を頼りにサマリンダに移住した。地元のIS支持組織の根城となっていたモスクに住み込み、一層過激化したとみられる。ほかに6人が共犯容疑で逮捕された。

 今月6日、このモスクを訪れると住民ら100人ほどが金曜礼拝に集まっていた。最後列では制服姿の警察官が目を光らせ、「この中に3人、過激派グループのメンバーがいる」と声を潜めた。事件後、過激派はモスクから追い出されたが、逮捕されなかったメンバーもおり、金曜礼拝への参加まで拒むことはできない。

 インドネシアのテロ対策専門家、ワワン・プルワント氏は過激派の現状について「1年前より状況は悪化している。シリアから一部のインドネシア人IS兵が帰還しており、国内でテロを引き起こす恐れがある」と危惧する。

 ◇フィリピンにも有力者

 「イスラム国」(IS)の東南アジアでの拠点として注目されているのが、フィリピンの過激派組織アブサヤフの分派組織。中でも有力なのがミンダナオ島南方のバシラン島を拠点とするイスニロン・ハピロン容疑者(50)だ。「東南アジアのISのリーダー」とも言われ、インドネシア人やマレーシア人の一部からも支持を集め始めている。

 ハピロン容疑者は2014年7月ごろ、いち早くISに忠誠を誓うビデオを公表した。東南アジアのイスラム過激派に詳しい「紛争政策分析研究所」(ジャカルタ)によると、宗教的な知識は乏しいが、島の一部地域を支配下に置いていることなどが強みで、グループにはマレーシアやモロッコなどの出身者もいるという。

 フィリピン、インドネシア、マレーシアにまたがる海域は小さな島が連なり、元々、国境に関係なく人の交流が盛んな地域。ISを支持する過激派もその流れに乗って移動を繰り返す。また従来、関係が良好とは言えなかったフィリピン南部の過激派間で、親ISで連携する動きも出ている。