熊本地震から初めて秋の彼岸を迎えたが、被災した墓地の復旧は進んでいない。被災者は墓石の修復まで手が回らず、石材業者には修復依頼が相次ぎ、所有者不明の墓も多い。そんな三重苦の中、熊本市営墓地を管理する市は将来の災害に備え、災害時に所有者の同意を得なくても墓を移動できるように墓地条例の改正を検討している。

 熊本市が地震後、市営墓地7カ所の計約1万8000基を目視調査したところ、約6割の約1万300基で被害を受けていた。ただし、墓石は個人財産にあたり、倒れた墓石が周囲に大きな危険を及ぼさなければ、市も無断で移動できない。所有者の事前承認を取る必要がある他、所有者が不明で無縁化した墓もあり、全国の石材店などで作る業界団体が墓地内の通路確保のために移動した墓石は一部にとどまった。

 同市には所有者から「隣の墓石が倒れてきている。どうすればよいか」などの問い合わせが約300件ある一方、「墓石が地震で倒れているか確認してほしい」という電話も多い。海外在住者もおり、市は墓石の現状を撮影して所有者に伝えている。市の昨年の目視調査では所有者不明の可能性がある墓は882基に上り、被災して連絡のつかない人も多いとみている。所有者不明の墓は墓地埋葬法に基づき撤去できるが、手続きに1年以上かかるという。

 市は今後、所有者の同意がなくても災害で墓地内の通路に倒れた墓石などを移動できる条項を墓地条例に盛り込むことを視野に発災後の早期復旧を図る考え。墓石の管理料を年1回や数年に1回など定期的に徴収し、所有者の連絡先を把握することも検討している。

 石材業者20社で作る熊本市石材商工業組合の橋口武弘組合長(52)によると、県内では墓数十万基が被災した。修復の依頼も相次ぎ、橋口組合長の会社にも約800件の注文や相談が殺到。「『お参りができない』との声もあるが、対応には物理的限界があり、墓地全体が元に戻るには2、3年はかかる」とみている。【吉川雄策、中里顕】

 ◇「手が回らない」 被災者がお参り…益城

 震度7の激震に2度見舞われた益城町木山の墓地には100基以上の墓が並んでいるが、墓石が立っているのは1割ほど。墓室まで完全にバラバラになってしまった墓も多く、骨つぼが雨ざらしにならないようブルーシートで覆われたものもある。22日は午前中から近くで暮らす被災した人たちが三々五々、お参りに訪れた。

 半壊と判定された自宅を改修して暮らす同町宮園の腰尾轉(うたた)さん(91)、和子さん(87)夫婦は先祖の墓に花を手向け、「うちは何年か前に作り直したから、墓誌と灯籠(とうろう)が倒れただけで済みましたが、隣は墓室まで全壊。よく知っている人のお墓だから、最初に見た時は涙が出ました」と話した。

 妻子と3人で墓石が後に倒れたままのお墓に手を合わせていた同町辻の城の舛田豊規さん(75)は「家の修理で手いっぱいで、お墓まで手が回らない。骨つぼも父のだけは残っていましたが、あとは全部割れて下に落ちていました。ビニール袋に入れて段ボール箱に納めていますが、どうしたものか」と顔を曇らせた。【福岡賢正】