岩手県釜石市の室浜漁港で養殖したカキを振る舞う「釜石食材フェア」が今春、宇都宮市二荒町の宇都宮屋台横丁で開かれる。室浜漁港は東日本大震災で大きな被害を受けたこともあり、この地区の漁師は現在2人のみ。昨年8月には、台風10号の影響で水揚げ前の多くのカキを失うなど厳しい状況が続く。それでも、震災を機に始まった交流の継続を目指し、宇都宮にカキを届ける。【野田樹】

 カキの養殖を担うのは、室浜漁港の漁師、佐々木健一さん(44)と佐々新一さん(50)。震災後にカキ養殖を再開した2人だが、昨夏はまたも自然災害に見舞われた。8月末、岩手県に台風が上陸。地元の鵜住居(うのすまい)川から大量の流木が押し寄せ、震災後に作った養殖場に流れ込んだ。1カ月後に水揚げ予定だった養殖カキ約12万個のうち、約8割も出荷できなくなった。

 佐々木さんは「今年は(カキの)種自体が良くて期待していたけれど」と嘆いた。新しい養殖場の整備費は、まだ返済途中という。「悲しい現実だけど、ずっと(眺めて)見ているわけにはいかない」。震災を機に生まれた、屋台横丁をはじめとした交流を、途切れさせたくはなかった。

 「釜石食材フェア」は昨年1月に初めて行われ、今年で2回目。屋台横丁を運営する村上龍也さん(52)が、釜石市などで復興屋台村の建設に関わったことがきっかけだった。村上さんは「地域おこしをしたいという同じ思いを持っていた」と共感し、イベントを企画した。

 佐々木さんたちは2010年から、釜石市や地元の仲買人の協力もあり、養殖カキの他県への普及を図ってきた。消費者と直接会話することで信用が生まれることに気づき、震災後も消費者との触れ合いにこだわった。佐々さんは人と接するのが得意ではなかったが、「(消費者の)喜ぶ姿を見て、交流が楽しめるようになった」という。台風の被害を受けた養殖場は、今月4日に完全復旧した。2人は「次のカキを無事に育て、また宇都宮に届けたい。継続して、つないでいくことに意味がある」と語る。

 ◇屋台横丁でPR、タラ汁振る舞う 客たち大喜び

 今月6日夜、食材フェアを周知するため、佐々木さんと佐々さんは、宇都宮屋台横丁で、タラ汁を振る舞った。屋台を一軒ずつ訪ねて回ると、店内に広がるダシの香りに客たちは大喜び。宇都宮市の整体師、相川真愉美さん(58)は「タラ汁は初めて食べた。このような交流は大切だと思う」と話すなど、評判は上々のようだ。

 「釜石食材フェア」の開催時期はカキの生育状況次第だが、3月上旬ごろの見通し。カキの試食のほか、室浜漁港でとれた食材を使った料理を、各屋台で1品追加し、提供するという。