◇きょうから横浜で上映

 耳が不自由な映画監督、今村彩子さん(37)が自転車で日本縦断する自分を被写体にしたドキュメンタリー映画「Start Line(スタートライン)」が14日から、横浜市中区のシネマ・ジャック&ベティで上映される。健聴者との間に壁を感じていた監督が伴走者とぶつかり、落ち込み、涙しながらも前に進む姿は、人と人との関係について考えさせられる。【石塚淳子】

 今村監督は生まれつき耳が聞こえない。父親が借りてくれた字幕入りの映画を見て、小学生の頃から映画監督になりたいと思っていた。愛知教育大学在学中に米カリフォルニア州立大学ノースリッジ校に留学し、映画製作を学んだ。

 2011年にろう者のサーフショップ経営者を主人公にした「珈琲(コーヒー)とエンピツ」を、13年に東日本大震災で被災した耳に障害のある人たちを追った「架け橋 きこえなかった3・11」を製作した。

 スタートラインの製作は、母と祖父を次々に亡くしたことがきっかけだった。気力をなくし死んでもいいとまで思うようになっていた時、夢だった自転車での日本縦断を思い立った。旅を通し、苦手だったコミュニケーションと向き合う姿を映画にすることにした。

 手話の勉強を始めていた行きつけの自転車ショップのスタッフ、堀田哲生さん(40)に撮影と伴走者を依頼。出会った人との会話は通訳しない、道に迷っても教えない、などのルールを決めた。

 15年7月1日に沖縄県宜野湾市をスタート。ハンドサインがうまく出せなかったり、後ろを走る堀田さんのことを考えず黄信号を進んでしまったりして、堀田さんから厳しい言葉を投げかけられた。出会った人と堀田さんの会話が分からずにいら立ち、衝突もした。

 それでも、57日間かけて3824キロを走破。母親の命日の8月26日に北海道・宗谷岬に到着。北の大地では、自転車で旅する耳が不自由なオーストラリア人のウィルと出会い、日本語がわからなくても積極的に話しかける姿に刺激を受けた。

 今村監督は「旅を通して壁は自分がつくっているのだと感じた。この映画を見て『私なんて……』と思っている人に『私だって!』と思ってもらえたらうれしい」と話している。

 上映時間112分。14日午後1時25分からの上映後、今村監督と「ゆずり葉−君もまた次のきみへ−」の監督でろう者の早瀬憲太郎さんとのトークショーがある。問い合わせはジャック&ベティ(045・243・9800)。