キャラ弁を超えたリアル地形メシ! 渾身のマイ「暗渠カレー」コレクレション

わたしは暗渠(あんきょ)が好きだ。暗渠とは、簡単に言ってしまえば、もと川や水路だった場所のこと。時間があれば、暗渠を歩きに行ったり、調べに行ったりして過ごしている。

仕事が忙しくて暗渠に行けない時に、ふと思った。家にいても、暗渠をたのしむ工夫はできないものだろうか。夏の昼間や真冬はもちろん、体調が優れないときだってあるし、暗渠さんぽが厳しい日はいつだってある。

また別なある日、ふとこう思った。

ダムカレーがあるのなら、谷戸カレーがあったっていいじゃないか。


※ダムカレーとはをモチーフにしたカレーのことで、ごはんは堰堤(えんてい)、カレールーは貯水池を表現している。2009年頃から全国的に増え始めている(日本ダムカレー協会公式ウェブサイトより)

谷戸というのは、東京周辺で用いられる、谷地形を表す言葉である。谷底には川か川跡があるわけで、暗渠探索とは切っても切れない言葉だ。水をせき止めるダムと、水が流れる谷戸。これらをコメとカレーで表現しようとすることは、人として自然なのではないだろうか?

そこからわたしの、暗渠とカレーと結びつける行為が始まった。

暗渠カレーをつくってみる【基本編】

まずは谷から水が流れてくるさまを頭に描く。そこで浮かんできた、町田市にある鶴見川の源流で見た壮大で典型的な谷をつくってみることにした。

キャラ弁を超えたリアル地形メシ! 渾身のマイ「暗渠カレー」コレクレション

最もシンプルな型が、これ。

玄米を混ぜれば地面感がより出る。谷の最深部を頭に描きながら、コメを成形していく。そして山肌から湧き出る水をイメージしながら、カレールウを注いでいく。

このときは、前日の肉じゃがの残りを使った肉じゃがカレーに、鶏挽肉と豆腐と春菊のハンバーグを添えた。日本の谷川なので、和の味で。

想像しながら歩くことは、暗渠探索に欠かせない。その想像力を高めるため、わたしは時々現役の川や湧水も見に行く。このカレーは、そういった現役の湧水からなる川のはじまりであり、想像上の川のはじまりでもある。

じゅんさい池カレー【アレンジ編①】

基本型を何度かつくると、応用したくなるというもの。何度か調べに行ったことのある、特徴的な谷に思いをはせてみた。

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これは、千葉県市川市を流れている国分川の支流暗渠の途中にある、じゅんさい池を模したもの。じゅんさい池公園、として近隣の人々の憩いの場となっている。

キャラ弁を超えたリアル地形メシ! 渾身のマイ「暗渠カレー」コレクレション©Google,ZENRIN

じゅんさい池公園は、谷底にある細長い池をそのまま活用していて、谷地形を満喫できる場所だ。航空写真で形をとらえ、皿の上にその特徴を復元する。なんだか「料理」以外の要素も入ってきてワクワクする。

ごはんは玄米、東側に偏って茂る緑はカイワレ大根で表現し、谷間にミックスビーンズ入りキーマカレーを漂わせた。

鳥久保カレー【アレンジ編②】

あるとき、どうしてもチキンカレーが食べたくなった。なので手羽元をゴロゴロと買ってきて、じっくりと煮込んだ。さて、カレーを作ったら、暗渠にするしかない。どこの谷にしようかな……。

そういえば「鳥」の名のついた谷戸が五反田のほうにあった。谷を成形し、台地にはパセリをきざんでのせる。鶏肉はごろりと、多摩川岸に打ち上げられる大きな石のように、置く。

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スーパーでナンを売っていたので横に置いたが、これには特に意味はない。

実際の鳥久保はどんな形だったかしら。見てみよう。

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東京時層地図/一般財団法人日本地図センター、「関東地震直前」より

地名の由来は動物の鳥ではなく、土地の形状からきているそうだ。

目黒駅から降りて東進し、五反田側に意識を向けると、急崖に出会う。そこが鳥久保であり、下ってゆけば家の隙間や駐車場の隣に、今も名残の空間がある。以前歩いた時は、暗渠上にごろりとベッドが捨ててあり、驚いたのだった。

へび道カレー【アレンジ編③】

お次は、最初からどの暗渠にするか決めてから料理するパターンでいこう。

近年は外国人観光客にも人気のスポット「谷根千エリア」の暗渠といえばここ。「へび道」である。

地図中央、くねくねとした道があるのが分かるだろうか。もともとここは藍染川という川であるため、その形が道にもそのまま残された。へびのような形なので「へび道」と呼ばれ、ここを歩くためにわざわざ迂回してくるというファンまでいる。

この愛され暗渠、へび道カレーを作ってみよう。

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クネクネをそのまま再現するのにはなかなか骨が折れた。蛇行が作りやすいよう、チキンキーマにした。

むかし近くに金魚屋さんがあり、大雨になるとたちまちあふれ出して、藍染川を泳いでいたそうだ。そのことを思い出してパプリカで金魚をつくり、泳がせてみた。

松庵川カレー(ふたがけ)【アレンジ編④】

ここまではほぼ、暗渠になる前の川の姿を想像してカレーをつくってきた。そろそろ、現在の暗渠の外観も模してみたくなってくる。

東京・西荻窪には通をうならせる、実に個性的な暗渠がある。松庵川という。

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その中流部に、写真のようにボコボコと梁が浮き出た「ゆるアスファルト暗渠」と呼ぶ形状がある。アスファルトがゆるいから、経年変化でこうなったのではないか、とわたしが勝手に名づけたものであるが、真相はわからない。

真相はわからないが、ゆるアスファルト暗渠も、つくることはできる。コメで形成した護岸のすきまに、キーマカレーを流し込む。ここまでは、素朴な小川の姿。

その上に、ファストフード店で買ってきたポテトを配置すると、一気に近代化する。

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コンクリートの隙間を流れる水路となった。

さて、次はふたがけの工程だ。

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この「ゆるアスファルト」を何で表現すればいいのか、ということは難しかった。試行錯誤の末、友人の提案で採用したとけるチーズは、いささかゆるすぎるような気もするが、カレーと好相性である。

イカ墨入りの灰色のチーズでも発売されればいいのに。

ちなみに、ふたがけはジャガイモを短冊に切り固めに茹でたものを、コンクリート蓋に見立てておこなうこともできる。

モデルはこれ。

キャラ弁を超えたリアル地形メシ! 渾身のマイ「暗渠カレー」コレクレション

模してつくってみたのがこれ。

キャラ弁を超えたリアル地形メシ! 渾身のマイ「暗渠カレー」コレクレション

ふたがけ工事完了後の暗渠カレーは、全体に白っぽく、やたらと地味である。まずカレールウが完全に隠れてしまうため「今日はカレーだよ!」といわれたときのあの高揚感は、ほぼ打ち消される地味さである。

しかし、考えてみてほしい。暗渠好きとは、あのコンクリートふたかアスファルトしか見えない、一見ただの道、地味な地面が好きなはずではないか。したがってこの地味なふたがけ暗渠カレーこそが、最も暗渠らしい雰囲気をまとったカレーだということもできるだろう。

このように、暗渠カレーをつくる際には、あらかじめどの暗渠(谷戸)かを決め、古地図や航空写真を参照してつくるのでもよい。あるいは食べたいカレーの具を先に決め、副菜などとのバランスからイメージされる暗渠をつくるのでもよい。谷戸を成形するためにコメに手を触れた時の、インスピレーションでつくるのもいいかもしれない。

そう、暗渠カレーに必要なのは想像力とコメとカレーだけ。あとは自由なのだ。

暗渠カレーの食し方

これは基本タイプを装飾し、具材でその谷らしさを演出した「我善坊谷カレー」。

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我善坊谷は、東京・六本木にある谷のことである。谷頭部分を道路が被さるように走っているため、それをゆで卵で表現した。また、六本木周辺の賑やかさとごっちゃりした感じをさまざまな具で表した。ラム肉のスパイス炒めや、ベジタブルカレーと豆カレー、およびその上に乗せたベジタブルチップスやパクチーは、周辺の雰囲気を。ブロッコリーとスプラウトを横に置き、崖際にはまだ木々も残っていることも示す。

漂う空気が実に暗渠的で独特、非常に良い谷なのであるが、再開発寸前でもあり、時折谷が谷であることを確認しに行っている。

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▲カシミール3Dを用いて作製した我善坊谷周辺地形図(凹凸は2倍に設定)

さて、実食。コメという擁壁を崩し、ルーという水あるいは土と混ぜ、口に運ぶ。

崩すとき、その土地のことを思う。

これは、まさに再開発なのだ。

我善坊谷は、そこにあった家屋も地面も、自然物も人工物も混沌となって、口の中に消える。

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▲また別に、中世の東京の谷戸カレーもつくってみた。その後、江戸の土地改変を
イメージしながら食べているところ

すべての土地にドラマがあるように、すべての暗渠カレーにも、ドラマがある。埋められてしまった水路のこと、失われてしまった土地のことを考えると、悲しくなるときもあるけれど、せめてカレーはおいしく仕上げたい。

カレーじゃないけど暗渠【番外編】

カレーをつくる暇もないときは、こんな献立はどうだろう。食パンでサンドイッチをつくり、1枚を3等分し、横に並べれば、みごとふた暗渠となる。ハムとチーズでも挟めば、お手軽に暗渠で朝を迎えられるというわけ。

キャラ弁を超えたリアル地形メシ! 渾身のマイ「暗渠カレー」コレクレション

ちなみに、おやつも考案中である。江戸時代の玉川上水と桜をイメージしたゼリー。

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自宅で暗渠。さまざまな可能性を持っている食べものだ、と思う。何度でも、その暗渠のことを思いながら、おいしくいただこう。

INFORMATION

以下の展示を開催予定です。興味のある方はぜひお越しください。
日時:平成28年9月17日(土)〜11月27日(日)
会場:杉並区立郷土博物館分館
展示名:荻窪暗渠展〜街を見る新しい装置としての「暗渠」

書いた人:吉村生

キャラ弁を超えたリアル地形メシ! 渾身のマイ「暗渠カレー」コレクレション

東京・杉並区を中心に、縁のある土地の暗渠について掘り下げたり、暗渠のほとりで飲み食いをしたり、ひたすら暗渠蓋の写真を集めたり、銭湯やラムネ工場と暗渠を関連づけるなど、好奇心の赴くままに活動している。 『暗渠マニアック!』(柏書房)著者、『地形を楽しむ東京「暗渠」散歩』(洋泉社)分担執筆。