『ゆれる』(06)、『ディア・ドクター』(09)、『夢売るふたり』(12)など、胸をえぐるような人間ドラマを生み出してきた西川美和監督。最新監督作『永い言い訳』(10月14日公開)で主演を務めたのが、俳優として円熟味を増してきた本木雅弘だ。本木にインタビューしたら、いまやすっかりファンとなったという竹原ピストルとの共演秘話や、義母で女優の樹木希林との興味深いエピソードが飛び出した。

本作で本木が演じたのは、観光バスの交通事故で妻が他界したのに一滴の涙も流せない小説家の衣笠幸夫役。彼がひょんなことから、共に事故で妻を失った竹原演じる無骨な大宮陽一や彼の子どもたちと交流していく。

この日、竹原ピストルのTシャツを着て現れた本木。まずは、クランクイン前に行ったお祓いの場でのエピソードを教えてくれた。「監督や主要スタッフ、出演者たちが1人ずつ用意された神棚の前に出て行って、二礼二拍手一礼をするんですが、それぞれすごく個性が出るんです。無防備な状態で、体の形や歩き方、リズムの作り方や緊張の度合いが、背中から見てもわかるのですごく面白いんです」。

本木は、周りからどう見られているかという自意識がすごく強いと言う。「私の場合、みなさんから思われているであろうきちんとしたイメージに沿うべく、自然を装って姿勢を正してやります。でも、神の前でもそんなコントロールをしている自分が嫌になるんです」。

そんな中、竹原ピストルのやり方に感心したそうだ。「竹原さんはスタスタスタと出ていって、礼をしてパンパンとやったんです。その二拍手は、私がいままで聞いた二拍手のなかで一番テンポが早く、スコーンと響く清々しさがありました。その段階で、このキャスティングは大成功だなと思いました。こんなにウジウジとつまらないことを考えたり観察したりしている私と、何のてらいもなく、清々しい人間らしさを見せた竹原さんとの差は、まさに陽一と幸夫の差に他ならないなと」。

続いて、本木は竹原ピストルのもう1つのエピソードを饒舌に話していく。「実は、最初に竹原ピストルさんと聞いた時、名前を知らなかったんです。それでネットで調べたら、あの人懐っこさと野性味がある顔が出てきて、ずるいなと思い、まず『負けた』と感じました。さらにYouTubeで見てしまったのが、広島の原爆ドームの前で歌っている竹原さんの姿です。『女の子』という曲で、原爆ドームを切なく空を見上げる女の子にたとえているんですよ」。

本木は、その映像と音楽に心を奪われた。「彼は全国を行脚し、歌い続けているわけでしょ。多少エンターテインメントの脚色があったとしても、大地を踏みしめている感とピュアな魂はすごいなと。それに比べて海面にくらげのようにプカプカ浮いて、キャッチフレーズは『矛盾かな』と言っているような実のない私からしたら、あまりにも現実味のある存在でした。こりゃあもう絶対に食われる、全部彼にもっていかれるような感じがしました。西川監督にも『そのくらいの劣等感を感じられるキャスティングでうれしいです』といったメールを送りましたから」。

竹原が演じる陽一は、直情型で温かみのあるお父さんだ。「実際の竹原さんにもそういう部分はあるけど、思慮深くてすごく優しい方なので、私はいま勝手に熱を上げている状態です。TwitterにもUPされていましたが、実は富山までの新幹線のチケットを取ってライブに行き、おっかけをしてきたところです(笑)」。

巧みな話術でインタビュアーを笑わせてくれる本木。思えば本木は、舞台挨拶や会見でも常に場を盛り上げるムードメーカーという印象があるが、それは義母・樹木希林の助言に基づいているそうだ。「樹木さんから『芸事はたくさんの人に見てもらわなければもったいない』と言われて。それはCMの現場でも、舞台挨拶1つを取ってもそうだと。『同じ話をしていると、記者の人たちだけではなく宣伝部の人もつまらないと思うじゃない。その人たちが退屈な時間を過ごすのなら、ちょっと楽しませなきゃと思って、自分から面白がるの。そういう言葉の端々が記事にも出て行くでしょ。芸事は見られて何ぼ、聞かれて何ぼだから』と。でも、私はまだまだその域には達してないから、駆け出しのお笑い芸人みたいに必死にネタ作りの日々が続いて消耗しまくってますよ」。

そう言いながら楽しそうに笑う本木雅弘。演技力はもちろん、洞察力や観察力にも優れ、なおかつ人に敬意を持ち、いろんなものを吸収していくという謙虚さに、インタビューを通じて心が打たれた。【取材・文/山崎伸子】