2011年創設の日本医療小説大賞はもとより、医療小説はフィクションの世界で確固とした地位を築いてきました。とくにテレビドラマや映画にもなった作品は、多くの読者に親しまれています。今回は、「破裂」「無痛」「聖なる怪物たち」の3作品を紹介します。

「破裂」久坂部羊(幻冬舎)

あの「白い巨塔」の現代版とも評された「破裂」は、新たな医療小説の世界を切り開いた作品です。大学病院の実態を描きながら、日本社会のあらゆる問題点を浮かび上がらせる複雑なストーリーの絡まり合いがミステリーファンからも高い評価を得ています。
元新聞記者の松野は医療過誤によって妻を失ってしまい、ペンの力でその真相を究明しようと取材をスタートします。協力者として江崎という若い麻酔科医とともに、発展した医療の裏側で被害に泣く患者たちの実態に迫っていきます。そんな中、父親を医療ミスで失ったのではないかと不信に感じた人妻の枝利子が起こした裁判がなぜか難航します。
作者はデビュー作「廃用身」以来、高齢化社会の問題を常に問い続けてきた執筆姿勢を続けてきました。本作品にも高齢化問題と医療が社会問題としていかに重たく私たちの将来にのしかかっているかを描き切っています。2015年NHKにてテレビドラマ化されました。

「無痛」久坂部羊(幻冬舎)

作者の特徴であるいくつもの医学や社会問題がモチーフとして複雑に使われ、壮大な構成力が遺憾なく発揮されています。医学サスペンスと犯罪小説の要素によって見事に日本の暗部をあぶり出しています。
主人公・為類は患者を一目見ただけで病気や症状をすべて言い当てる超人的な観察眼を持つドクターです。一家四人の殺害事件の犯人として精神障害児童施設の少女が罪を告白するものの、その真実とは!?
精神疾患を真正面から描きながら心神喪失の場合、無罪になるという刑法39条もテーマの一つに含まれます。病気で苦しむ患者だけでなく異常ともいえる健常者の言動も人間の心理を考えさせる作品です。2015年フジテレビ系でテレビドラマ化されました。

「聖なる怪物たち」河原れん(幻冬舎)

2012年にドラマ化された「聖なる怪物たち」。本格医療サスペンスとして話題を呼びました。
舞台はとある病院。嵐の夜、1人の妊婦の臨時出産があった?。その日当直だった外科医・司馬は、看護師・春日井の指示により帝王切開によって男の子を無事に出産させるも、母親は大量出血で命を落としてしまう。母親の命を救えなかったことを悔やむ司馬に、不敵な笑みを浮かべる春日井。母親の死は単なる偶然か? それとも仕組まれた事件だったのか?
「この命は誰のものか?」をテーマに、代理出産をめぐる問題を痛切に表現した作品です。

医療小説は社会の問題を複雑に扱って読む者に深い考察を迫る作品が揃っています。読後にはどっと疲れてしまう、けれど社会の見方が変わる。そんな魅力が医療小説にはあるようです。