CBCテレビ開局60周年記念スペシャルドラマ、斉藤由貴主演「ハートロス〜虹にふれたい女たち〜」が、10月2日(日)ひる2時からTBS系列で放送された。過不足のない平凡な生活を送る40代の主婦が、ひょんなことから若い男性に恋心を抱いてしまって……。脚本は内館牧子。

娘の追っかけ相手と恋に落ちてしまった!?

10代の女の子がアイドルグループに黄色い声援を飛ばす。時代を問わずにみられる光景だ。しかし、そんな女の子たちも、年齢を重ねていくに従ってそうした活動から遠ざかっていく。そして、ある日考えるようになるのだ。あの熱狂はなんだったのだろうと??。


結婚して20年。45歳になった。名古屋の老舗味噌鍋店「深や」に嫁いだ深谷桜子(斉藤由貴)は、家庭的で優しい夫・和久(宇梶剛士)と、短大生になる娘・佑子(川島海荷)に恵まれ、平凡ながらも何ひとつ不自由のない生活を送っている。

ときおり会う大学時代からの友人2人も、それほど特別ではないかもしれないが、それほど悪くもない人生を送っている。ただし心配事がひとつ。そのうちのひとり小野美咲(生田智子)が、アイドルに夢中になったばかりか、そのアイドルの結婚という報道を受けて、ショックのあまり失神してしまったのだ。担ぎ込まれた病院に駆け付けた桜子と、成田舞(堀内敬子)を前に、美咲は泣きながら喪失感を語る。桜子と舞はあきれ顔だ。45歳にもなってねぇ……。

桜子の娘・佑子も、地元名古屋を中心に活動するミュージシャン・シューゴ(七瀬公)の追っかけをしている。シューゴの魅力を力説する裕子。桜子は、はいはいとあしらうばかりだ。しかし、いったいどんな男の子なんだろうと、彼のSNSを開いてみる。陳腐な内容の歌詞が並んでいた。ちょっとしたいたずら心で、表現上の問題点を指摘した。彼女は若いころ、作詞の勉強をしていたのだ。

桜子の指摘に対して、シューゴは反発するのではなく「いいネ」と返した。意外な反応に気をよくした桜子は、その後もシューゴの歌詞に対して的確な指摘をしていく。そうしたやり取りを何度か繰り返すうちに、リプライを告げるスマホのバイブを心待ちにしている自分に気づく。桜子はSNS上の自分を、25歳の社会人女性ミチルと偽った。

そのころ佑子は、地元商店街の町おこしイベントを企画していた。人を集めるために目玉となる企画ができないだろうか。仲間のひとりが言った。シューゴに町の歌を作ってもらおう! シューゴの人気はすでに名古屋から全国レベルになっていた。無理とは思ったが、佑子はファンクラブを通じて依頼だけはしてみると約束する。

作詞指南をきっかけに徐々に距離を縮めていき……

SNSでのシューゴとのやり取りは意外な展開を見せる。桜子はシューゴから作詞ブレーンになってもらいたい、一度会えないかという誘いを受けたのだ。桜子は思い悩む。それは、もはや恋……だった。アドバイスを乞おうと追っかけの先輩・美咲を訪ねる。美咲はラガーシャツを着ていた。アイドルからラガーマンに乗り換えたのだ。そのバイタリティに圧倒され、相談事を言い出せない。相談相手を間違えたか……。桜子は高齢者施設で働く舞を訪ねる。舞は、高齢者たちが子ども返りすることを指摘したうえで「長い子ども時代が終わると、短い大人時代があって、また長い子ども時代に戻る。楽しいのは短い大人時代よ」と、桜子の背中を押す。

シューゴを訪ねる日が来た。桜子はドレスを新調し、美容院で髪の毛を整え、思いっきりオシャレする。夫と娘には同窓会があると告げていた。ライブ会場に到着する。通された控室でシューゴと対面する。ミチルです。本当は45歳のオバサンでしたと謝る桜子に対し、シューゴの反応は思いのほか温かい。年齢は問題ではなかったのだ。彼女は作詞ブレーンとして求められていたからである。彼女はその席でさらなる申し出を受ける。ブレーンとして東京に同行してもらえないかというのだ。

桜子には、ちょっとした落胆と、必要とされる喜び、ふたつの気持ちがあった。東京行きの答えは持ち帰らせてもらっていたが、心は東京行きに傾いていた。しかし、家族にはどう言い出せばいいのだろう。もとより家族と別れたいとは思っていない。仕事も手につかず、ミスを繰り返した。そんな桜子を冷ややかに見ている者がいた。佑子だった。彼女はライブ会場で桜子が中に入る姿、そしてシューゴらと一緒に出てきてバンに乗り込む姿を目撃していたのである。

私がはしゃいでいる姿を見てバカにしてたんでしょう。ショックを受けて母親を罵る佑子に対し、桜子は涙ながらにこれまでの経緯と東京行きを考えていることを告げる。

東京行きへの決意は固まった。シューゴの事務所を訪ねる桜子。しかし事務所社長からは、実績ある作詞家がつくことになったと告げられる。桜子は用済みになっていた。桜子はひとつだけお願いをし、社長から確約を得る。それは佑子が依頼したまま放置されていた町おこしソングへの協力についてだった。

いい夢を見られたからか。桜子は意外なほどサバサバした表情でいる。
後日譚。テレビ画面にはシューゴがいた。町おこしへの協力を、自らの好感度アップのために利用していた。

斉藤由貴の恋するオバサン姿が愚かしくも微笑ましい!

「スターは虹のようなもの。遠くから見てる方がいい」内館牧子が登場人物に言わせるセリフである。「近寄りすぎると虹は見えなくなる」そうした事実も、巧妙に忍び込ませる。たとえば、スタジオの出待ちで佑子がシューゴに手渡した手編みの毛糸帽子は、後日ライブ会場にそっと出入りする彼の妻の頭上にあった。さらに妻は子どもの手を引いている。もちろん世間一般には知らされていないことだ。そうした皮肉を交えながら45歳のオバサンたちの気持ちにも、そっと寄り添う。内館牧子が評価されるゆえんだろう。

ところで、このドラマを語るうえで斉藤由貴の存在感ははずせない。平凡で幸せな生活を送っている45歳の主婦が、思わず持ち上がってしまった恋心にあたふたする様は、愚かしくも微笑ましい。ドラマの内容は一種のファンタジーであり、皮肉の効いたコメディでもある。どちらの要素が強くなりすぎても、おそらく作者が意図したものとしては成立しない。その微妙なバランスは斉藤由貴だからこそ保てたのではないだろうか。

「ハートロス〜虹にふれたい女たち〜」公式サイト(http://hicbc.com/tv/heartloss/)