声優として数多くの作品に出演して人気を博し、今年3月には「リアル-REAL-」でアーティストデビューも果たした下野紘のスペシャル・プログラム“PONYCANYON創立50周年・下野紘スペシャルステージ「ONE CHANCE」”が、10月9日に横浜パシフィコ国立大ホールにて開催された。

■“PONYCANYON創立50周年・下野紘スペシャルステージ「ONE CHANCE」”オフィシャルレポート

今年3月にメジャー・デビューを果たし、2枚のシングル「リアル-REAL-」「ONE CHANCE」をリリースしたばかりの彼が、早くもホール規模でのイベントを実施。昼と夜の二部公演に、8,000人以上もの観客が集まった。

この日披露されたのは、いわゆる“声優イベント”とも違う、“音楽ライブ”とも違う、“下野流”なエンターテインメント・ステージだった。歌、芝居、トーク、コントなど、今の彼ができることすべてが詰め込まれたプログラムは、まさに出し惜しみナシ。いかなるときも全力がモットーの下野 紘らしい、欲張りな内容となっていた。結局、この日はその多岐にわたる企画の数々を、「昼公演」と「夜公演」それぞれにまったく違う演目として実施。表現者としての可能性に貪欲に挑む姿に、客席は多くの笑いと感動に包まれた。

本稿では少しだけ、各公演でどの様なことが行われたのかを、企画ごとに紹介していこう。

ドラマチックなOPムービーとMC伊達忠智との軽快なトークから幕を開けた「昼公演」は、下野 紘が様々な世界記録に挑む「ギネスにONE CHANCE!!」からスタート。リンボーダンスを踊ったり、トイレットペーパーを積み上げたり、梅干しの種を遠くに飛ばしたり等。計10個の難問に挑むたびに、客席から大きな歓声が上がる。特に「1分間でバナナを何本食べられるか」では5本半の記録をマークし、世界記録である8本に接近。また「5色の傘30本を色ごとに仕分ける(※仕分けは1本ずつ、片手で色ごとの傘立てに移動させる)」でも、世界記録まであと10秒に迫る好タイムを記録し、これには下野も「また挑戦したら狙えるかも!」と興奮だった。

続いて披露されたのは、「ONE CHANCE!! スペシャルショートコント」。1本目の「ヒーロー下野紘のリアル」にはゲストの3人(飯田友子、岩澤俊樹、高城元気)も加わり、黄金マントに赤鉢巻をまとったヒーロー下野が、街の不良に絡まれた少女を救うというストーリーを展開した。タイトルにひっかけた自虐的な“アラフォー”ネタが飛び出すたびに客席は大爆笑。一方で早口言葉や即興ソングといった決めるべきシーンでは神業を披露し、本番にめっぽう強い下野の真価を見せつける。そして2本目「吸血鬼・ヒロキュラ」では、ファンに人気の“紘子”ネタや“からあげ”ネタを交えながら、女装したMC伊達子と丁々発止。「みんなに楽しんでもらうために全力を尽くしました。不安もあったけど、喜んでいただけたようで良かったです!」とあとから本人が語ったとおり、実にサービス精神溢れるパフォーマンスは、全観客を幸せいっぱいな笑顔にさせていた。

さて、このようにバラエティに染まった「昼公演」に対し、「夜公演」は下野紘の“アーティスト性”にフォーカスした内容となった。オープニングトーク後、まず始まったのは「下野紘?PONY CANYONヒットソングカバーLIVE」コーナーだ。「(他人の曲を)ステージ上で歌うことは初めて」と語ったとおり、THE ALFEEの名曲「星空のディスタンス」を歌い上げる下野の顔には緊張が浮かんでいた。それでも「高校時代にカラオケでよく歌っていた」という「今宵の月のように」(エレファントカシマシ)、そして「これも歌い慣れた曲」という「Another Orion」(藤井フミヤ)に入ると、堂々とした伸びやかな歌唱を聴かせる。この3曲で場を掴んだ下野は、続けて自身が出演したアニメのOPテーマ「紅蓮の弓矢」(進撃の巨人/Linked Horizon)、「疾走れ!ミライ」(ダイヤのA/GLAY)を熱唱し、客席を興奮の坩堝へと叩き込んだ。「まさかアニメの曲を自分で歌うとは。主人公でもないのに(笑)」と本人は笑ったが、実際にアニメの映像がモニターに映し出されたこともあり、観客はこの演出に大満足。「やっぱりみんなアニメが好きなんだよね。アニメの力を改めて感じました」という彼の感想は、“声優アーティスト”という自分の立場への期待にも繋がっていたはずだ。

そして「夜公演」では、歌に加えて芝居においても下野 紘の“アーティスト性”が強調される。朗読劇「ONE CHANCE」で、「昼公演」のバラエティ感や先ほどのショー的な雰囲気から一転、とある星に住む少年と地球の少女との物語をシリアスに演じていく。この物語にはタイトルにもなった「ONE CHANCE」だけでなく、自身がひとりで作詞した「beyond…」の世界観も色濃く反映されていた。「どんなに苦しいことがあっても、キミはひとりじゃない……」というメッセージを受け取った観客の目が、だんだんと潤んでいく。自分が歌に込めたテーマを、朗読劇という芝居においても表現できる下野は、やはり“声優アーティスト”なのだろう。「歌」と「アニメ」、そして「歌」と「芝居」。「夜公演」のカバーLIVEと朗読劇には、15年という長きキャリアを積んできた“声優”下野 紘と、歌い手としての“アーティスト”下野 紘が融合したときに生まれる、大きな可能性が示されていた。

唯一「昼公演」と「夜公演」で共通していたプログラムが、両公演のラストを飾ったライブパートだった。5人編成の生バンドを従えた、「リアル-REAL-」「約束」「ONE CHANCE」「beyond…」の激唱。開場時からステージ上には、ドラムセットやキーボード、DJブースが所狭しとセッティングされ、ギターやベース用のマーシャルアンプが無造作に積み上げられていたのだが、それを公演中ずっと見ていた観客たちはよほどの期待を溜め込んでいたのだろう。初めて鳴らされる“下野バンド”のド迫力によって、色とりどりのサイリュームの光が乱舞し、この日一番の歓声が巻き起こる。まだデビューしてから間がなく、持ち曲が少ない彼だからこそ生まれ得る濃密な空間。すべての観客が全曲の隅々まで知っている環境を、両公演4,000人という規模で共有できたのは、その場にいた人間すべてにとっての特別な経験になったはずだ。

そして下野 紘は、この日のためにとっておきのサプライズを用意していた。4曲だけと思われていたオリジナル曲に、「COLORS」という新曲が加わったのだ。同時に、2017年にミニ・アルバムをリリースすることを発表。客席にさらなる歓喜が広がる。90年代のJ-ROCKを思わせる「COLORS」は、エモーショナルなバンド・サウンドをバックに、下野の美しい高音域がフューチャーされた楽曲だ。疾走感があるのにどこか切なく響くこの曲は、聴く者の何かを突き動かす。「夜公演」にて、彼は「今日はまだ(ライブを)終わりたくないんだけど……始まりがあるからこそ終わりがあって、終わりがあるからこそ始まりがある。自分の色を持って、明日からまた頑張りましょう!」というスピーチでラストを締めたが、歌詞にもまたそんな、誰かの背中を押すような熱いメッセージが込められている。

メジャー・デビューから一貫して、下野 紘は自分自身を包み隠さず、やるからにはすべてをさらけ出す覚悟で“アーティスト”活動に臨んできた。この日のスペシャル・プログラムには、そんな彼の“全身全霊”が込められていたように思う。彼は決して、今できることを出し惜しみしない。では逆に、これから先ミニ・アルバムをリリースして曲数も揃っていって、やれることがもっと増えた下野 紘のライブは、どんなスタイルになるのだろう?  “声優イベント”でも“音楽ライブ”でもない、彼独自のエンターテインメントの探求は、まだ始まったばかりなのだ。この日集まった観客たちも筆者同様、「次はどんなステージを見せてくれるのか」という期待と興奮を胸に、帰路についたに違いない。

TEXT BY 西原史顕