「フランス人は10着しか服を持たない」は、日本では2014年に発売されるとすぐにベストセラーとなり、シリーズ続編が2016年には発売されました。日本人の多くを動かし話題になったこの本は何が魅力だったのでしょう。

フランス人は本当に10着しか服を持っていないのか?

この本は若いアメリカ女性がフランスのマダムの家で暮らして、その暮らしぶりに驚愕した話です。オシャレなマダムは持ち物が少なく、間食をせず、ディナーは毎日豪華に手作りし、心豊かに生活しています。「10着しか持たない」という言葉に驚いて本を買う人がいそうですが、実は10着しか持っていないのではありません。ワンシーズンに10着、プラス靴やバッグです。オールシーズン合わせると40着は持っていることになります。それでも日本の服が好きな女性にとっては少ないでしょう。では、その中身はどんなだろう? と興味を持って読んでみたくなる人が多かったのです。

日本の断捨離ブームやときめく片付けブーム

ちょうどこの本が出版された頃、日本では断捨離ブーム、ときめく片付けブームの真っ最中でした。物が多すぎて片付けられない人が多く、少ない物で心豊かに暮らすことに憧れて本を手に取った人が多かったと思います。バラエティー番組では「汚部屋」といわれるような、グチャグチャに散らかった部屋で暮らす芸能人がプロの手を借りて片付ける、という企画がよくありました。オシャレをしようとすれば簡単に物が増えていくのに、なぜたった10着の服でオシャレができるのか? そんな好奇心で本を買った人が多かったことでしょう。また、この本には服のことだけではなく、食生活や化粧についてなど、ミニマムでシックな暮らしについても書かれています。生活全体、生き方そのものを問われるような内容であることも、読者に刺激を与えました。

マダム・シックのこだわりの生活

この本が出る前にも、似たような趣旨の本がたくさん売れていました。スーパーモデルだったイネスが書いた『世界一の美女の創り方』には、美を追求する人のための美容法やダイエット法などがストイックに書かれています。マダム・シックと同様、間食はしない、お腹がすいたらナッツを食べてまぎらわせるなど、今ではよく知られている事柄です。他にも物を減らすための方法について書かれた本がたくさん出版されています。『フランス人は10着しか服を持たない』は、服を減らすことだけではなく、美しい暮らしのために総合的な方法が書かれています。マダム・シックのこだわりの生活を知れば、読者は自分の生活を全般的に見直すことができるのです。

アメリカとフランスの違い

この本の面白いところは、現代的で自由奔放な若いアメリカ女性が、シックなフランスマダムの生活に仰天して、自分の生き方を見直していくところです。ファーストフード食べ放題、気に入った服は買い放題、物にあふれ、好きなように暮らして自由を楽しんでいたつもりが、気がついたら肌は荒れ、だらしない生活になっていた。これは日本女性にもよくあることでしょう。アメリカとフランスの極端な違いを見せられてインパクトが大きく、自分の生活を改めて見直していくきっかけになったでしょう。たとえ実践する覚悟がなかったとしても、物をあまり持たずに美しく生きることに憧れてこの本を買った人は多いのです。

美の追求ということ

人は誰でも永久に美しくいられたらと願うものですが、いつまでも美しくいるということは、簡単なことではありません。日々の努力の積み重ねです。努力を習慣にして長く続けている人と、努力しない人とでは、結果はおのずと違ってきます。では、どんな努力をすれば美しく生きられるのか? その具体的な方法がこの本に紹介されているので、よく売れました。全部は無理でも、少しずつ生活に取り入れていくことはできます。「気づいた」時から、変化は始まるのです。それを知っている人が、この本を買って実践しているのでしょう。

上質なものを少しだけ持ち、大切に上手に使い回して生活すること。日々の生活において小さな喜びを見つけること。美しく生きる習慣を身につけること。この本に書かれているこのような事柄が、読者の心を動かし、ベストセラーにつながったのでしょう。1作目がフランスで著者が学んだ価値観の「紹介編」なのです。そして、2冊目は「実践編」と言える内容なのです。読んでみたくなってもしょうがないですね。