●0.9ミリに凝縮されたApple Watchの進化
フリーランスに限った話ではないのだが、フリーランスにとって"健康"は資本である。風邪をこじらせたら確実に予定外の収入減に見舞われるし、大病を患ったら築いてきたものが台無しになりかねない。人生何が起こるか分からないけど、少なくとも自己管理ができていなくて、そんな事態に陥らないように健康維持には気をつけている。面倒くさくなったり、夜中のラーメンの誘惑に駆られたら、最近はイチローを思い出すようにしている。42歳、刈り込まれた頭髪はグレーなのにあのスピードで長打を積み重ね、日々の準備を怠っていないから不安定な出場でもハイアベレージをキープしている。そりゃ、まぁ、もちろんイチローに比べたら、自分はレシプロ練習機みたいなものだけど、ちゃんとメンテナンスし続けたら、それなりに長く飛び続けられると思うのだ。

そのためには、まず自分が毎日どれだけ体を動かしているかを知ること。Nike+iPod以来、アクティビティトラッカー、スマートフォン、フィットネストラッカー、スマートウォッチ等々、ワークアウトのコンパニオンを求めて散財を重ねてきた。そんな私にとって「Apple Watch Series 2」はエポックメイキングなデバイスの登場である。そう唱えると「GPSを搭載して防水になっただけでしょ」とクールに返されることが少なくないが、「なにをおっしゃるウサギさん」だ。Apple Watchの体験はそのままに、ほぼ同じサイズでGPS内蔵と防塵・防水を実現しているのがスゴいのだ。

どういうことかというと、今日の運動やアクティビティをトラッキングするデバイスは以下の3つに大別できる。

ディスプレイのないシンプルなトラッキングデバイス。Fitbit FlexやJawbone Upのようなブレスレット型、Misfit Shine/Flashのようなメダル型など。加速度計を使って歩数や動きを計測する。
心拍数計を備えたアクティビティトラッカー。個人的にお気に入りだったのはFitbit Charge HR。「心拍数って必要?」という人が少なくないが、心拍数によってカロリー消費が正確に測れるので、どれだけ運動しているかを知るという目的では重要。また、ウエイトトレーニングやヨガのような移動しない運動もちゃんと記録できるようになる。
GPS内蔵のフィットネストラッカー。走行ペースなどをきちんと把握するには位置を正確にトラッキングする必要がある。スマートフォンのGPS機能を利用するという方法もあるが、走行ペースまでしっかりと把握したい人=けっこう本気でワークアウトしている人にとって、最近の巨大化しているスマートフォンはワークアウトの邪魔になるのでGPS内蔵のトラッカーが求められる。また、トラッカーがGPS内蔵で防塵・防水だったら水泳やMTBのトレールランようなスマートフォンを携帯できない時でも運動を記録できる。

「2」と「3」の間には大きな隔たりがある。GPS内蔵のフィットネストラッカーやGPSウォッチは、サイズが大きくてフィットネス感の強いデザインのものが多く、スポーツウエアやアウトドアウエア以外の服装に合わせるのが難しい。手軽に使えて普段も常に身に付けていられるのは「2」まで、「3」の機能はフィットネスを本気で追求する人たちにユーザーが限られている。

でも、「3」の機能は普通の人たちのエクササイズやワークアウトにも大いに役立つのだ。ミラーレスカメラに使われていた1インチの大型センサーがコンパクトデジカメにも採用され始めてから普通の人たちが高品質な写真を気軽に楽しめるようになったように、もし「3」の機能が普通の人たちにもたらされたらワークアウトやエクササイズの楽しみ方が変わるはずだ。

初代Apple Watchは「2」のデバイスだ。私は発売と同時に入手し、アクティビティの目標の達成度をひと目で確認できる標準アプリ「アクティビティ」を気に入って、ずっと使い続けている。それ故にApple Watchが「2」のデバイスにとどまっているのが残念でもあった。10キロ・ランとかに出る前の準備で高いペースを維持しながら走りたい時や水泳の時などは別のデバイスを使っていて、付け替えたり、充電とか複数のデバイスの管理を面倒に感じていた。

そんな苦労がApple Watch Series 2で解消された。

Apple Watch Series 2に関してはすでに数多くのレビュー記事が書かれていて、GPS搭載に伴って内蔵バッテリーが大きくなり、ケースが0.9ミリ厚くなったのをがっかりな点に挙げるレビューが少なくない。私の見方は逆だ。比べるなら、GPSを内蔵した既存のゴツいフィットネストラッカーや大ぶりなGPSウォッチである。0.9ミリの厚み増しは、Apple Watchのデザイン性を損なうものではない。言われなければ、大きさの変化に気づかない人も多いと思う。その程度のサイズの変化でGPSと防塵・防水を実現した。注目すべきは、どんな時でも身に付けていられるデザインで「2」と「3」の隔たりを埋めていること。オリジナルApple Watchのファッション性のまま「3」の機能までカバーできる。だから、エポックメイキングなデバイスなのだ。

●手の動きで泳ぎを自動識別、賢くワークアウトをサポート
同じデザイン、サイズでGPS搭載を実現しても、Apple Watchの使用体験を損なうような実装だったら意味がない。

GPS機能はユーザーがオン/オフを切り替える必要はない。ワークアウト・アプリでランニングやサイクリング、オープンウォータースイミングなど、位置情報を必要とするワークアウトを開始すると自動的にGPSがオンになる。シンプルだ。スイミングのワークアウトを選ぶと、水泳中の誤タップを防ぐ防水ロックがかかる。ロックされたままだと操作できないので、水泳が終わった後にデジタルクラウンを2回転させてロックを解除すると、ブーブーブーという音が鳴ってスピーカーから排水が行われる。

GPSやスイミング対応など機能が増えた分、使いこなすためにユーザーがやらないといけないこと(GPSオン、排水など)が増えている……はずだが、オリジナルのApple Watchから変わっていない。ワークアウトを「開始」して終わったら「終了」させるだけである。あとは全てApple Watchがやってくれる。

Apple Watchの運動計測には驚かされることが多い。たとえば、水泳でキレイに泳げる得意なスタイルだと同じ距離でもカロリー消費が少なく、同じスタイルでも子供を背中に乗っけてばしゃばしゃと泳いだ時はカロリー消費が増えている。単純に泳いだ距離からではなく、しっかりと運動をチェックしている。スポーツプロファイルはシンプルで、たとえばウエイトトレーニングという項目はない。足りないものはサードパーティのアプリがあるし、ワークアウト・アプリでも「その他」のフリー設定で計測できる。実際、私は「その他」で自重トレーニングやウエイトトレーニングを記録しているが、Polarのデバイスで測るのとほぼ一致する。これだけ測れるならウエイトやヨガなど定番エクササイズの項目を設けてくれると便利なのに……と思うが、正確な計測にこだわるからこそ簡単にはスポーツプロファイルは増やさないということなのかもしれない。

最大1,000nitsと倍以上に明るい輝度になったディスプレイは、室内で使っている分にはあまり違いを感じない。でも、太陽の下に出たら快晴の屋外プールでもワークアウト画面を読み取れる。GPS、防水機能を付けたら、これまで以上に太陽の下で使われることが増える。それにしっかりと対応している。

●より使いやすくなったwatchOS 3に、日本でのブレイクが期待されるApple Pay
操作方法やユーザーインターフェイスが大きく変わったwatchOS 3も使いやすい。グランスがなくなって情報やよく使うアプリへのアクセスがどうなるか心配だったが、watchOS 3では文字盤を左右のスワイプで簡単に切り替えられる。ワークアウト・アプリや天気などを並べたワークアウト用の文字盤、世界時計やカレンダーなどを並べた仕事用の文字盤などを作っておき、シチュエーションに応じて文字盤を変えるようにしたら、以前よりも情報やよく使うアプリへのアクセスが向上した。さらにDockが、よく使うアプリへのアクセスを補ってくれる。

気になる点を挙げると、まずバッテリー動作時間だ。より大きなバッテリーで普段使いは余裕だが、GPSが動作するワークアウトだと約5時間である。サイズ/デザインとのバランスを図った結果の数字だと思うが、トレーニングによっては頼りない数字だ。ただ、私の場合だと1回のワークアウトが90分を超えることはないので十分である。Appleがアスリートもターゲットにしているかは分からないが、私の印象だとApple Watch Series 2は普通の人たちのためのフィットネス/アクティビティ・トラッカー、「The fitness tracker for the rest of us」という感じである。それが5時間という数字に現れており、Apple Watch Series 2が自分に適しているかどうかを判断する上で考慮するべき数字と言える。

もう一つは、水泳に適したバンドがスポーツバンドしかないこと、またはApple Watch Nike+になる。スポーツバンドは豊富なカラーが揃っていて、好きなバンドの1つではあるが、スイミング・プルーフなバンドの選択肢がもっと増えて欲しい。

GPS搭載でApple Watchとワイヤレスヘッドフォンだけを持ってワークアウトに出られるようになり、短い時間でも気軽に外で体を動かすようになった。HomeKitに対応するから、家のカギも持たずに出かけられるようにしてしまおうか、現在検討中である。私が住んでいる米国ではすでにApple Pay対応が進んでいて、Apple Watchだけを持って出かけてもいざという時にApple Payが使える安心感がある。日本モデルはFeliCaチップが搭載され、Suicaが使えるようになる。いつも同じコースばかりというのは飽きるものだ。iPhoneも持たない身軽な服装のまま地下鉄やバスに飛び乗って、違うコースに遠征できるのはうらやましい。