1メートル近い毒ヘビ2匹が草むらで戦っている現場に遭遇したら、ほとんどの人は逃げ出すだろう。けれども、米アーカンソー州に住むドーン・ケリーさんはとっさにスマホを取り出した。

「農場育ちで、動物は大好きです。野外で過ごすことも多いですが、こんなふうに2匹のヘビが絡み合っているのは見たことがありません」。仕事は菓子職人、趣味は家庭菜園というケリーさんはそう語った。

 だが、専門家に動画を見せるまでは、これがどれほど珍しいものであるか考えてもみなかったという。米オーバーン大学野生生物生態学者のデビッド・スティーン氏は、「動画を見てすぐに、驚くべきことが起こっているとわかりました」と語る。

「ヘビが戦っている現場に遭遇するのもめったにありませんが、この動画を見て興奮したのは、戦っている2匹がヌママムシとカパーヘッドという異なる種だからです」

 そこで別の疑問が湧いてくる。この戦いの動画は、ヌママムシ(Agkistrodon piscivorus)とカパーヘッド(Agkistrodon contortrix)が野生で異種交配していることを示しているのだろうか。ヌママムシもカパーヘッドも、米国南東部原産の毒ヘビだ。どちらの種も、毎年この時期になるとメスをめぐってオス同士が戦うことで知られている。しかし、異種間で戦うというのは、過去に例がない。

 2種をかけ合わせたハイブリッドは、飼育下では生まれたことがあるが、自然界ではほとんど確認できていない。

「ヘビの異種間における関係について、従来の考え方を覆すことになりそうです」と、スティーン氏は言う。

なぜ噛みつかないのか

 繁殖期のヘビの戦いについて研究しているジョージア州立大学爬虫両生類学者のゴードン・シュート氏は、「オスとオスの戦いは、きわめて視覚的および触覚的な行動です」と説明する。

 2匹のヘビはリズミカルに身をよじらせながら互いの体にクルクルと巻き付いて、相手を地面に押し倒そうとする。交尾期になるとオスの体は成熟して戦闘モードに入り、別のオスヘビに似たものには何でも戦いを挑もうとする。シュート氏は、ほうきと格闘するオスヘビを見たこともあるという。

 この種の毒ヘビで特徴的なのは、上半身を起こして戦うことだ。他のキングヘビ、パインヘビ、ネズミヘビなどは地面に這うようにして戦うのに対して、ヌママムシとカパーヘッドは動画のように頭を上げて戦うので、はたから見るとダンスを踊っているようにも見える。

 一旦戦いが始まると、勝負がつくまで離れることはない。勝負がつくのは、どちらか一方があきらめて逃げた時だ。ケリーさんはヘビの戦いを6分ほど撮影していたが、飼い犬がすぐそばで吠えているにもかかわらず、どちらのヘビもまったく意に介す様子はなかったという(注意:戦っているヘビは放っておくのが一番)。

 シュート氏のこれまでの研究によれば、ほとんどの場合は体の大きなヘビが勝つという。勝った方はお目当てのメスに求愛し、敗者はその場を離れ、次の相手を探すまで24時間から1週間、またはそれ以上の間、どこかで傷を舐めながら身をひそめている。

 人間から見ればただ遊んでいるように見えるかもしれないが、実はヘビにとっては長く真剣な試練の道のりなのである。

 だが、そこまで本気なら、なぜ相手に噛みついてさっさと決着をつけようとしないのだろうか。

「マムシなどのクサリヘビ科のオス同士の戦いでは、相手を噛むことはまずありません」とシュート氏。ただ、毒を持たないヘビや、有毒でもコブラやマンバなど一部の種は、相手を噛むことがある。

 ヌママムシとカパーヘッドの牙はコブラやマンバよりも長く、その牙で噛みつけば相手の脳や心臓、その他重要な臓器にまで到達する恐れがある。そのため交尾期の戦いでは相手を噛まないように進化したに違いない。

 毒ヘビにしてもその他の動物にしても、交尾期の戦いで死ぬことはめったにない。

メスの種はどっち?

 ヌママムシとカパーヘッドは、どちらも同じアメリカマムシ属の近縁種だ。飼育下では、異種交配してハイブリッドベビーが誕生したこともある。

 シュート氏は、こうして生まれた赤ちゃんヘビを、ヌママムシの英名「cottonmouth」とカパーヘッドの英名「copperhead」を組み合わせて、カパーマウス(coppermouth)、コットンヘッド(cottonhead)などと呼んでいる。

 だがこの動画を見て、野生でも異種交配が起こっていると考えてよいのだろうか。

 それに答えるのは難しい。動画にはメスの姿が映っていないからだ。けれども、おかげで様々な興味深い疑問が湧いてきたとスティーン氏は言う。

 メスをめぐって戦っていたとしたら、メスの種はどちらだろう。それとも、それぞれの種が1匹ずつ近くにいたのだろうか。戦いが終わった後はどうなったのだろうか。

「ヘビはめったに姿を見せることがないので、観察や研究が難しいです。何か珍しい行動を見せている現場に遭遇すると、いつも興奮してしまいます」とスティーン氏。

 動画を撮影したケリーさんは、「月並みな言い方ですが、この動画を多くの人と共有できただけでとてもうれしいです」と語った。