新種の発見に挑む科学者と聞くと、地面に残された正体不明の足跡をたどったり、密林を切り開いて進んだりといった光景を想像する人もいるだろう。しかし発見は、時としてもっと身近な場所に潜んでいる。

 新種の熱帯アリLenomyrmex hoelldobleriは、エクアドル産の毒ガエルの腹の中から発見され、2016年9月に学術誌『ZooKeys』に発表された。

「小さな悪魔」が食べていた

 論文を執筆した米ロチェスター大学のアリ研究者クリスチャン・レイベリング氏によると、鮮やかなオレンジ色をしたこの毒ガエルは、通称ディアブリート(スペイン語で小さな悪魔の意、学名Oophaga sylvatica)と呼ばれ、アリを好んで食べることで知られる。

 アリを餌とするカエルは、獲物をとるために狭い場所に入り込む。人間の手が届かない場所を調査したいときには、こうしたカエルが役に立つ。野生のカエルを捕まえて胃を洗浄すると、カエルは腹の中にあるものをすべて吐き出す。そうして出てきたものの中には、今回の新種アリのようなお宝が混ざっていることもある。

「この世界はすでに隅から隅まで調べ尽くされたと思っている人もいるようですが、それはまったくの間違いです」とレイベリング氏は語る。

 新種アリ、L. hoelldoblerの実物は、カエルの胃から見つかった死んだ個体しか見つかっていないため、その生態はほとんどわかっていない。

 それでも高倍率の実体顕微鏡を使った観察により、いくつかのヒントが見えてきた。

 レイベリング氏によると、下アゴの形は、手術などで物をはさむのに使う鉗子に似ているという。つまり体長6ミリほどのこのアリは、自分よりもさらに小さなシロアリなどの獲物を、狭い隙間からアゴを使って引っ張り出しているのかもしれない。「単なる推測ですが」とレイベリング氏。

 もしエクアドルの雨林で生きた個体を見つけることができれば、さまざまな餌を用意して、どれが好みかを判断する実験を行うことができるだろう。「まずアリを見つけることが、いちばんやっかいなのです」とレイベリング氏は言う。

アリは小さな化学工場

 小さな悪魔ディアブリートなら当然、このアリをどこで見つければいいかを知っているだろう。毒ガエルにとって、アリは欠かせない存在だ。

 毒ガエルが自衛のために体内にもつ化学物質の由来となっているのは、彼らが餌として摂取するアリなどの体内にあるアルカロイドであると、ホンジュラス両生類救済・保護センター長で、ナショナル ジオグラフィックが支援しているジョナサン・コルビー氏は言う。

「生理学者はアリのことを、小さな化学工場と呼びます」とレイベリング氏は言う。彼らは化学物質を利用して、複雑なアリ社会の中で他の個体とのコミュニケーションをとっていると考えられる。

 それではアリたちは、そのアルカロイドをどこから得ているのだろうか。一部の種は、餌となる植物から摂取しているのではないかとコルビー氏は言う。いずれにしろ今回のアリと毒の役割については想像の域を出ない。

胃の中の宝物

 両生類はその多くが絶滅の危機に瀕しているため(国際自然保護連合(IUCN)はディアブリートを近危急種(near threatened)に指定している)、野生のカエルに関する調査は、必ず専門家の手によって、細心の注意のもとに行われなければならないとレイベリング氏は警告する。

 カエルの胃を洗浄する際には、やわらかい管を口に差し入れて、そこにゆっくりと水を流し込む。するとカエルが食べたものが口から流れ出て、トレーの上に落ちてくる。作業が終われば、カエルは自然の中に戻される。

 ちなみに新種の生物が他の生物の胃から発見されたケースは、今回が初めてではない。1932年にはニカラグアで、チュウベイサンゴヘビ(Micrurus nigrocinctus)の胃の中からダンズ・アース・スネーク(Geophis dunni)が見つかっている。

 またL. hoelldobleriを吐き出したディアブリートの胃の中からは、他にも未記載種の昆虫がいくつか見つかっているという。

 小さな悪魔の胃はこの先、さらに多くの宝物を授けてくれるかもしれない。