温暖化の影響で地球の気温上昇はこれまでの予測をはるかに上回る規模になるだろうと予測する新たな研究結果が発表されたが、その内容には重大な欠陥があるという批判が相次いでいる。

 世界有数の科学誌「ネイチャー」に9月26日付で掲載された論文では、過去200万年に及ぶ世界の海面温度が示され、気候変動の記録の一部として高く評価されている。しかし、大気中の温室効果ガスの濃度が今以上に高くなるのを防いだとしても、地球の気温は最高7度まで上昇するという大胆な結論については、データによって裏付けられていないと一部の著名な科学者が反論している。

 論文の著者は、米スタンフォード大学の元博士研究員で現在は米環境保護局で気候問題に携わるキャロリン・スナイダー氏だ。氏は、研究の目的は詳細な気候変動の予測を立てることではないという。だが、過去の海面温度の変化と二酸化炭素の自然な排出量に密接な関係があることを調べ、それが地球の未来に何を意味するのかを示した。その結果、化石燃料による温室効果ガスの排出をいますぐ停止したとしても、数千年後には地球の気温がセ氏3〜7度上昇するとの結論に達した。

「海面温度と温室効果ガスには密接な関係があり、それが驚くほど安定していることがわかりました。研究では、この2つと関係があるものについて調べたのです」

 これに対して専門家らは、スナイダー氏が気候の全く違う現代に過去の関係性を当てはめようとしたために、著しく高い数字が導き出されてしまったと指摘する。

「この数字はいくらなんでも大きすぎます。スナイダー氏は将来の予測を立ててはいますが、論文のどこを見ても、なぜそのように予測できるのかが説明されていません」と米ワシントン大学の地球科学教授エリック・ステイグ氏は語る。

 NASAゴダード宇宙科学研究所のギャビン・シュミット氏によると、一般的な見解は、大気中の温室効果ガスの濃度がいまと同じであれば、地球の気温はあと0.5〜1度上昇するというものであり、中には2度まで上がるとしている研究もある。しかし、信頼できる研究の中で、7度も上昇すると予測しているものはないという。

研究はすばらしいが結論が悪い

 この200万年の間に長期的な氷期が何度も繰り返され、最後の氷期は1万1000年前に終了した。スナイダー氏の年表によって、120万年前にいちど最低点を記録して以降、長期的なトレンドとしては気温が徐々に低下していることが明らかになった。さらに、極地の気温が世界的な平均よりも激しく変動する「極域温暖化増幅」という現象が、過去80万年間は落ち着いていたこともわかった。

 現在は地球全体で温暖化が進んでいるが、北極圏の気温は平均を大きく上回る速度で上昇している。科学者の間では、現在の温暖化が主に人為的な二酸化炭素およびその他の温室効果ガスの排出によるものであるのは間違いないとされている。

 また、南極やグリーンランドの氷床コアに閉じ込められた古代の気泡を分析した結果、氷河期の間も大気に含まれる二酸化炭素濃度は自然に変動しており、それが氷の上の局所的な気温の変化に密接に関係していたことも、以前から知られている。そしてスナイダー氏の年表によって、地球規模で200万年にわたっても、同様に二酸化炭素と気温の間に関係性があることが改めて確かめられた。

 ところが、スナイダー氏はその関係性を単純化しすぎて、二酸化炭素へ対する地球の反応を過去においてだけでなく将来にまで同様に当てはめようとした点が間違いだったと、専門家らは指摘する。なぜなら、氷河期の気温の変化は主に地球の公転軌道や氷床面積の変化など、二酸化炭素以外の原因によって引き起こされたものだからだ。

「基本的には、地球の公転軌道の変化が氷期を終わらせ、それにともない海面温度も上昇します。すると、海から二酸化炭素が放出され、大気中の二酸化炭素濃度が高くなります」と、米サンディエゴにあるスクリップス海洋学研究所のジェフリー・セベリンガウス氏は説明する。

 すなわち、現在は二酸化炭素の増加が地球温暖化の主な原因となっているのに対し、過去には逆に気温が上昇した結果として二酸化炭素の量が増えていたのである。スナイダー氏は、当時の温暖化が全て温室効果ガスによるものだと言っているわけではないと主張するが、論文に批判的な専門家は、結果的にこの論文がそれを裏付けることとなり、さらに二酸化炭素が現在に及ぼす影響を著しく誇張してしまったと指摘する。

残念?それとも幸い?

 人為的な二酸化炭素の排出に地球の気候がどのような反応を示すのか、という問いに対する明確な答えはまだ出ていない。さまざまなフィードバックが働く可能性がある数千年という長期のほうが、温暖化はより加速するだろうという兆候はある。

 しかしスナイダー氏に批判的な専門家は、彼女の方式でもやはり回答は得られないとしている。シュミット氏は、氷河期の二酸化炭素と気温の関係だけで今後の未来を予測するのがなぜ不十分なのかを、ブログ記事の中で説明している。

「論文にはすばらしい点がいくつもあります。しかし、小さな誤りをひとつ犯してしまったおかげで、大変な未来予想図が描かれてしまいました。残念なことに、それは明らかに間違いです」

 シュミット氏は「残念なことに」というが、「幸いにも」といったほうが良いかもしれない。スナイダー氏の分析が正しいとすれば、私たちの子孫には、破壊的なまでに温暖化した地球に数十メートルの海面上昇という運命が待ち受けているかもしれないのだ。目下のところそのような事態は回避できそうだが。