「イチジクはとにかく特別。熱帯雨林にはいつでも、実をつけたイチジクがあるのです」と、ナショナル ジオグラフィックで活躍する写真家のクリスチャン・ツィーグラー氏は語る。熱帯生態学を学んだ彼は、パナマの熱帯雨林の端に暮らし、今、イチジクに夢中だ。

「たいていの木は実をつける季節が決まっているのに、イチジクは、いつでも森のどこかになっています」。熱帯雨林とはいえ乾期もあるので、食物の乏しい時期には、実をつけたイチジクの木の周りに生き物たちが群がってくる。鳥、サル、コウモリ、昆虫など数十種の生物が1本の木に集まり、騒々しいパーティーを繰り広げる様子は、アフリカのサバンナにある水場のようだ。

 こうした「イチジクの宴」の起源は、7500万年前にさかのぼる。イチジクが進化したのはおそらくユーラシア大陸のどこかで、受粉に小さなハチが関与してきたことは間違いない。以来、世界中に広がったイチジクは750〜1000種に枝分かれし、それに伴ってハチも多様化した。現在、イチジク1種につき、受粉を担うハチは1〜2種しかいない。

 イチジクの木と、イチジクコバチと総称されるハチは完全に相互依存関係にある。ペルーからガボン、インドネシア、オーストラリアに至るまで、無数のコバチとイチジクとは、ライフサイクルが不思議と重なっている。

「イチジクの木は、神出鬼没のレストランのようなものです」と話すのは、イチジクの木にまつわる科学と文化史を紹介した書籍『Ladders to Heaven(天国へのはしご)』を出版したマイケル・シャナハン氏だ。「3〜4日の間、あらゆる生物がやってきて腹ごしらえをします。1〜2日後に再び訪れると、何事もなかったかのように静かになっているのです」

写真家、パーティー会場を目指して

 写真家ツィーグラー氏は、イチジクの木で開かれる宴が最高潮のときに、その様子を撮影したいと考えた。そして、突飛なアイデアを思いついた。9万ドルもする金属製の足場をペルー・アマゾンに持ち込み、モーター付きのカヌーで川を300キロ移動。そして世界屈指の多様性を誇る地、マヌー国立公園のコチャ・カシュ生物学研究拠点に行こうというのだ。

 そこは面積10平方キロほどの森に、鳥類が500種以上、哺乳類が70種以上も生息し、その多くがイチジクを食べる。動物たちの多くは高い林冠にすむため、足場を組んで、その高さに到達しようと考えたのだ。

「1本の木に100匹ほどのサルが群がっているのを見たことがあります」と、米デューク大学の生態学者ジョン・ターボー氏。氏はコチャ・カシュで、ペルー・アマゾンの複雑な生態系を40年以上にわたり研究している。「月の出ている夜には、サルたちはお腹が空いていれば午前2時に目を覚まし、午前4時には木に集合しています」

 コチャ・カシュに到着すると、ツィーグラー氏は実のなったイチジクを探し始めた。木を見つけたら、時間との競争だ。動物たちの宴が終わらないうちに撮影を始めたい。

 ペルーの首都リマから派遣されたコチャ・カシュの職員、アントニオ・ゲッラ氏の指揮の下、マヌーの先住民であるマチゲンガ族の青年8人が作業し、あっという間に足場が組み上がった。作業チームはほぼ素足。森で生まれ育った彼らは、技術も度胸もあるクライマーなのだ。

 イチジクの実の数が減ってくると、ツィーグラー氏は次の木を探した。チームは足場を全て解体し、ジャングルの中を苦心して運びながら、思い描く写真が再び撮れそうな場所を目指した。

 足場が組まれれば、当然上まで登らねばならない。ツィーグラー氏は仕事熱心でいつも笑顔を絶やさないが、実は高所恐怖症。何とか1段1段上っていくものの、2回目に作った足場では、10段目でイチジクの太い枝にしばらくしがみつくはめになった。

 苦労しながらも最上段である12段目に立つと、ツィーグラー氏は自分が別世界にいるのに気付いた。木が跳ねている。お腹を空かせたホエザル、クモザル、フサオマキザルが目に入った。3種が同時にいるときもある。綿のような毛に覆われたシロガオオマキザルが、小さな実を指で器用にもいで、ポップコーンのように口に放り込む。

 アノールトカゲが、ライバルのオスに向かって喉の派手な袋を誇示している。決して低い位置に下りてこないチョウやトンボ、ハチも観察できる。さらに、鳥も数十種確認できた。つがいで訪れたゴシキドリ、ナナイロフウキンチョウ、コンゴウインコ。丸々としたシャクケイがさえずる様子は、上品な七面鳥のようだ。さらに彼は、17種もの虫に噛まれたり刺されたりしたと記録している。「ここにくれば、食物連鎖の一部に取り込まれてしまう」

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