英ロンドン動物園のゴリラが脱走したというニュースに、街は一時パニックになった。ソーシャルメディア上では、ロンドン内外の多くの人々が、ゴリラを殺さないでと訴えた。今年5月に射殺された米国シンシナティ動物園のゴリラ「ハランベ」の悲劇を繰り返してはいけないと思ったのだ。

 ロンドン動物園の広報担当者ニコラ・ケリー氏によると、18歳のニシローランドゴリラ「クンブカ」は、10月13日午後5時13分(現地時間)頃に獣舎から逃げ出した。動物園はただちに閉鎖され、クンブカが展示エリア内にとどまったまま、園内にいた客と鉢合わせすることないよう隔離された。

麻酔銃ですぐさま捕獲

「スタッフはすぐさま対応しました」とケリー氏。ロンドン警視庁に通報し、獣医がクンブカに麻酔銃を打ち込んで、おとなしくなったところを速やかに捕獲した。ゴリラが人を攻撃することはめったにない。最初に矢が当たったときには激怒しているようだったとする目撃証言もあるが、クンブカはほんの数分で静かになったという。

 ケリー氏は騒動のすぐ後に、「クンブカは獣舎に戻りました。目は覚めていて、元気にしています」と報告した。

 クンブカがどのようにして獣舎から脱走したかはまだ明らかになっておらず、動物園は詳しい調査をする予定だ。ケリー氏によると、この施設からゴリラが脱走したことはなかったという。

 クンブカは、ニシローランドゴリラの群れを展示するロンドン動物園の「ゴリラの王国」のスターだ。動物園のウェブサイトによれば、「当園のゴリラたちは自然で魅力的な環境で暮らしています。広々とした草地と、彼らだけの島のほか、屋内運動場もあります」という。

 この群れのリーダーが、2013年に英ペイントン動物園からやってきたクンブカだ。飼育係の期待に応え、2014年にはムジュクーとの間に第1子が誕生した。赤ちゃんはメスで、「最も美しい」という意味のアリカと名付けられた。2015年にはオスの赤ちゃんが生まれ、ジャーノットと名付けられた。群れにはほかにメスのエフィーとザイールがいる。

 2013年の時点で、クンブカの体長は2m強、体重は180kg近くあり、ニシローランドゴリラとしてはかなり大きい。

 ニシローランドゴリラは絶滅の危機に瀕している。野生での個体数は9万5000頭未満で、過去20〜25年間に60%以上減少している。野生のゴリラは食用に狩猟されるほか、エボラ出血熱の流行もあり、その個体数は1980年代から激減している。動物園で飼育されているゴリラは約765頭だ。

 一部のアフリカ諸国に生息するニシローランドゴリラは、マウンテンゴリラよりも若干小さい。ローランドゴリラは熱帯雨林で30頭ほどのコミュニティーを作って暮らしている。

もしも人を引きずり回したら

 クンブカ脱走のニュースを聞いた人々の多くが米国のハランベの事故を思い出し、麻酔銃を使って眠らせるようツイッターに書き込みをした。ハランベは、自分の囲いの中に転落した男の子の体をつかんで引きずり回したため、動物園スタッフによって射殺された。

 ハランベの事故でも、当局は麻酔銃の使用を考えたが、薬物の効果が生じるまでにある程度の時間がかかるため、その間にハランベが男の子に大怪我を負わせたり、最悪の場合、殺してしまったりすることを恐れたのだ(故意か事故か、おとなのゴリラは赤ちゃんゴリラを荒っぽく扱う場合があることが知られている)。幸い、男の子は無事だったが、多くの市民はシンシナティ動物園の決定を厳しい言葉で批判した。

 飼育下にある動物の心理の専門家で、アトランタ動物園の元園長であるテリー・メープル氏は、以前、ナショナル ジオグラフィックの取材に対して、ゴリラが脱走したときや、ゴリラの囲いの中に間違って人間が入ってしまったときには、「それが複雑で困難な事態であることを市民が理解する必要があります」と語った。

 ゴリラは基本的に人間を避けようとするが、体が大きく、力も強いため、取り扱いには配慮が必要だ、とメープル氏は言う。鎮静剤が効く場合もあるが、十分な効果が生じるまでに数分かかることもあり、その間、危険な状態になるおそれがある。