餌を追いかけるホホジロザメが、ある水中写真家が入っていた檻のすき間をこじ開けて中に入り込み、ダイバーとサメの両者が危険にさらされる一部始終が動画にとらえられた。

 メキシコのグアダルーペ島で起こった突然の事故だった。サメの多いこの海域ではダイバーが頻繁に潜っており、同じような事故が年に数回発生しているという。さらに、こうした現象はサメにとって有益かもしれないというから驚きだ。

 何十年もサメのいる海に潜ってきた水中写真家のブライアン・スケリー氏は、この事故の原因は餌の使い方にあると推測する。

 ボートの乗員はマグロを結んだロープを水に投げ入れて、サメが近づくのを待っていた。

「繰り返し餌を与えていて、かつ、檻に大きなすき間があるとしたら、餌を追うサメがしまいにはパニックのようになって口を開け目を閉じて、檻の中に入り込んでしまうでしょうね」

 スケリー氏によると、ダイバーが噛まれる危険はそれほど大きくなかった。むしろ、檻のなかに残っていたら、900kgの魚に激しく叩きつけられて怪我をする可能性が高かったという。

 動画を撮影していたブライアン・アーンスト氏と乗員たちは、ダイバーの身の安全を心配した。

「サメは檻を出ようと必死でした。私たちは、誰かが死ぬのではないかと考えていました。幸運にも乗員が正しい判断をし、檻の上側を開けました。数秒後、ホホジロザメがそこから飛び出してきました」

 ダイバーが檻を出るには課題があった。ダイバーはエアーホースでボートにつながれており、檻の底部にとどまれるようにおもりが付けられている。檻を抜け出すには、おもりで海底まで沈んでしまわないようにするにはどうすべきなのか、素早い判断が必要だった。

 そこで、ダイバーはサメが開けた穴から檻を脱出し、沈まないように檻をつかんでいた。サメが逃げ出した後、ダイバーは同じ穴を通って水面に戻った。

 スケリー氏によると、サメは負傷していないようだが、動画からはっきりとはわからないという。血は餌のものかもしれないし、歯が欠けたか、ほかの軽い怪我によるものかもしれない。

 グアダルーペ島近くでは、やはり10月11日に同様の事故が発生している。サメが上部の開いた檻に入り込んで出られなくなり、ダイビング業者が尾にロープを巻き付けて檻から解放した。ダイバーは、サメにエアーホースを噛み切られた後、サメのそばを通って逃げ出さなければならなかった。この事故でも、サメは檻に付けられたマグロに惹きつけられたやってきたと考えられる。

「サメは、人間ではなくマグロの匂いに惹かれてやってきました。この事故によって、同じことを繰り返さないように、運用方法の変更、主に檻のデザインが変わるべきです」。このエリアでサメと泳ぐダイビングツアーを定期的に開催している旅行会社Bluewater Travelでオペレーション・ディレクターを務めるケイティ・ヨンカー氏はそう述べる。

 このような事故はそれでも比較的珍しいとスケリー氏は強調しつつ、シャーク・ダイビングが普及するにつれ、多かれ少なかれ避けることはできないだろうという。

サメへの関心はずっと高まっている

 サメの檻の事故がより一般的になる一方で、檻を使ったシャーク・ダイビングの増加自体はいいことだとスケリー氏。

「私がサメとのダイビングを始めた30年前は、誰もサメを見ることに興味がありませんでした。それが今では、世界中に“サメ大使”がいます。彼らのおかげで、サメは危険な悪役というレッテルが変わりつつあります」

 アーンスト氏も、サメの穏やかな性質を強調する。

「サメは本当に素晴らしい。彼らは檻を壊して中に入りたいわけではありません。ただエサを追いかけていただけです。人間を襲うつもりでもなかったのです」

 サメは危機に瀕してもいる。ヒレの採取のために殺される数は、1億から2億7300万頭と推定される。「年間1億頭ものサメが殺されて、海が健全なままでいられるはずがありません」とスケリー氏。

 スケリー氏は檻を使ったダイビングは、サメの減少や繊細な行動に対する認知を高めるのに役立っていると付け加えた。それに、世界中の保護運動のいい刺激にもなっている。