サイの密猟は過去10年で急増している。南アフリカ共和国では密猟で殺されたサイが、2007年には13頭、翌2008年は83頭だったが、2015年には1175頭に達した。サイ9000頭が生息する同国のクルーガー国立公園では、平均2〜3日に1頭のペースでサイが殺されている。

「サイをめぐる闘いは、麻薬戦争のような状態です」と、同公園で主任レンジャーを務めるゾラニ・ニコラス・フンダは言う。「莫大な額の現金と賄賂が動き、司法制度は無力、裁判では負けてばかり。地元の警察も密猟者に協力しているありさまです」

1300頭を飼育、世界最大のサイ牧場

 密猟者の目当ては、サイの角だ。角の粉末は、がん、二日酔い、毒ヘビのかみ傷など万病に効くと信じられ、精力増強の薬としても使われる。闇取引される角のほとんどはベトナムと中国に輸出され、アジアでの取引価格は何倍にも跳ね上がるという。

 サイの角はケラチンというタンパク質でできていて、毛髪や爪と同じように、切ってもまた伸びてくる。南アフリカでは現在、サイの角を売ることは違法だが、許可を得れば角を切ることはできる。そこでサイを飼育して定期的に角を“収穫”するサイ牧場もある。南アフリカに世界最大のサイ牧場を所有するジョン・ヒュームは、1300頭のサイを飼育。1〜2年に1回、鎮静剤を投与して角を切り取っている。1頭から取れる量は2キロ程度。切った角は銀行の貸金庫などで厳重に保管され、売買解禁の日を待っている。

サイ殺しで起訴された男

 南アフリカには、サイの角の闇取引で世界的に知られる人物もいる。元警官で、サファリ経営で巨万の富を築いたダビ・グルネバルトだ。

 グルネバルトは、所有する私有地で多数のサイを殺したという評判がある。サイを違法に殺して角を切ったほか、角の取引、恐喝、資金洗浄など1739件に及ぶ違法行為の疑いで、南アフリカ当局から起訴されている。グルネバルトと弟のヤネマンは、10人前後の米国人をだまして南アフリカで違法にサイ狩りをさせた疑いで米国でも起訴され、身柄の引き渡しを要求されている。

サイの角、取引解禁へのシナリオ

 サイの角を違法に取引した容疑で起訴されたダビ・グルネバルトと、世界最大のサイ牧場を所有するジョン・ヒューム。互いをよく知る2人には、共通の目標がある。それは南アフリカで、さらには世界でも、サイの角の取引禁止を撤回させることだ。

 取材の時点で、南アフリカではある民事裁判が大詰めを迎えていた。原告はヨハン・クルーガーという牧場主で、サイの角の取引禁止は憲法違反だというのが訴えの内容だ。角の取引のほかにも、サイがらみのさまざまな犯罪行為が対象になっている。この訴訟に「金を出しているのは私だ」と、グルネバルトは断言した。

 同じ訴訟にその後、ヒュームも原告として参加した。ヒュームの主張は単純明快だった。世界最大のサイ牧場経営者(つまり自分のこと)に相談もなく、国が取引禁止に踏みきったのは、周知義務に違反しているというのである。審理は2015年9月22日、世界サイの日に始まり、ヒュームは勝利した。グルネバルトにとっては朗報だ。判決は2度の上訴審でも支持され、現在は国側が最終上訴を行っているため、禁止措置は今のところは続いている。

(ナショナル ジオグラフィック2016年10月号特集「血に染まるサイの角」より)