日本は踊らないと英語メディア、二大政党制を待ったからこそ厳しい目――ニュースな英語

gooニュース・ニュースな英語2009年8月31日(月)17:35

■本日の言葉「landslide」(地滑り、圧勝)■

 国際ニュースで使われる英語をご紹介するこの月曜コラム、今週は「日本で政権交代」という大きな国際ニュースについてです。「日本で野党が地滑り的勝利(Japan Opposition Wins a Landslide)」というような見出しがあちこちのニュース・サイトで掲載され、「オバマのように」という惹句も目につきますが、おおむねいよいよ政権与党になる民主党には与党らしく厳しい目を向けようという論調が目立ちました。それから「日本人は踊っていない」という、ある意味でかなり真実をついている指摘も。(gooニュース 加藤祐子)

○「オバマのような」とまずは注目させて

日本時間30日夜の開票段階から、英BBCや米CNNなどが発していたのは「オバマのような」というフレーズ。「民主党」という共通キーワードもあるからでしょうか(アメリカの民主党は「Democratic Party」、日本の民主党の英語名は「The Democratic Party of Japan (DPJ)」です)。鳩山由紀夫次期首相について「オバマのような」と説明した方が、当然のことながら英語読者・視聴者には理解しやすいということなのでしょう(仮に私が英語メディアの編集者だったら、やはりそういうフレーズを使いたくなると思います)。

CNNはこちらで、「オバマ式の『変化』のメッセージ(Obama-style message of change)を掲げていた鳩山氏は選挙戦中、あちこちの街頭演説会で支援者にもみくちゃにされていた。野党がこういう支持のされ方をしたことは、かつてなかった」と書いています。

そして日本の政権交代を昨年のオバマ・フィーバーに引きつけて、できるだけアメリカ人に分かりやすく伝えようとする試みの、その最たるものが、こちらのウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の論説でした。見出しがいきなり「Japan's Audacity of Yuai」。これは、オバマ大統領が上院議員時代に書いたマニフェスト本「The Audacity of Hope」(邦題「合衆国再生」)をもじったものです。「yuai」はそういう英語があるわけではなく、「友愛」のことです。

この「audacity of hope」というのは本当に訳しにくい表現なのですが、つまりオバマ氏は「希望というこの大胆・剛胆なるもの」を掲げて、新人上院議員から初の黒人大統領就任という大胆すぎることをやってのけた。そして日本では鳩山氏が、「希望」と同じくらい政治の世界ではある意味で「なんじゃそりゃ」な、大胆で剛胆な「友愛」などというものを掲げて政権交代をやってのけた——と、まず記事を読む前からそういうニュアンスが、この見出しから伝わってきます。というのもこれは、オバマ政権に批判的なウォールストリート・ジャーナルなので。

WSJはさらにサブ見出しで「民主党の鳩山由紀夫代表、変化とポピュリズムを約束」と。この「ポピュリズム」は「人民主義」ともとれるけれども「大衆迎合主義」ともとれるので、ここでやはりWSJらしい皮肉がちらりと。そして本文でも「これは政治の歴史的転換点だが、経済的には危ない時期に希望だのみでジャンプするに等しい」と釘を刺しています。「民主党が政権をとった今、具体的な政策や統治するという現実が焦点となる。そして1990年代にほんの一時期だけ政権内にいたことがある以外は未経験な鳩山氏にとって、これは大きな挑戦となるかもしれない」と。

○日米でポピュリズムが勝利したのか

さらに「改革を硬直させてきた官僚制度の障壁を突き崩すことに成功したとしても、自民党の前任者たちが好んできたケインズ流の経済政策を鳩山氏が実施する限り、たいした意味はない。鳩山氏が掲げてきた『変化』のスローガンがあやしくなってくるのは、この辺からだ」と。というのも「民主党は自民党と同じく、強力な農政ロビーを保護し、助成金の仕組みをシャッフルし直し、環境の名の下に課税し、自由市場の規律から労働者や中小企業を守ろうとしているからだ」といかにもウォールストリート・ジャーナルな批判ぶり。「選挙戦で鳩山氏はこうした使い古された考え方を、『友愛』精神に基づく新しい政府のビジョンだと売り込んだのだ。これは要するにポピュリズム」であって、巨額の財政赤字を抱える日本はそんなポピュリズムで国を動かしている余裕はないはずだと。そして鳩山氏は「起業家精神を奨励することの重要性、起業家精神がいかに経済成長を生み出すものか、基本的に理解していない」のだと。

まさにウォールストリート・ジャーナル。アメリカの経済保守が懸念することを、ズバズバっと言い切った感じです。しかも見出しには前述のように、オバマ大統領を連想させるフレーズを使って。つまりオバマ政権に批判的な読者に、「オバマみたいなのか、素晴らしい」ではなく、「オバマみたいなのか、やれやれ」と思わせる工夫だったわけです。

ウォールストリート・ジャーナルのこの論説が面白かったので、つい行数を割いてしまいました。ほかに米世論や政策に大きな影響を与える二大紙はどうかというと、ニューヨーク・タイムズは「大胆に挑戦し、日本の野党が地滑り勝利」という記事で、前文からいきなり「長年の経済衰退を反転させ、米政府との関係を定義し直すと約束して選挙戦を戦った野党」が勝利したと解説。本文でも米軍再編やインド洋給油活動に言及した上で、ホワイトハウスが「強力な日米同盟と両国の緊密な関係が栄え続けると確信している。オバマ大統領は日本の新首相と共に、世界や地域や二国間の多岐にわたる課題について緊密に協力していくことを期待している」と声明を発表したと伝えています。

ワシントン・ポストは、「日本の与党が失墜、54年の一党支配を終わらせたのは経済停滞が原因と」という見出しの記事で、やはり前文からいきなり、民主党が「日本の停滞する経済を再生させ、アメリカ依存を減らした外交政策」を約束してきたと説明。その上で「しかし約54年に至る自民党の長期政権を終わらせたのは、こうした選挙公約ではなく、有権者の間にたまっていた(自民党への)怒りだった」として、民主党を支持しているから民主党に投票したというよりも「変化を求めている」という有権者の声を紹介しています。また民主党勝利の「grand strategist (大戦略家、参謀、知恵袋、ブレーン)」は、小沢一郎氏だったとも指摘しています。

○日本は踊らない

日米関係や市場経済への影響を大局的に伝えたアメリカ・メディアに対して、イギリス・メディアはこれまでもご紹介してきたように日常的に日本の政治情勢を詳しく伝えてきました。

日本の政治を長年取材してきたベテラン記者、ロイター通信のリンダ・シーグ特派員は、28日付のブログ記事で「日本政治を長年見つめ続け、いい加減この国にも真の二大政党制が生まれてもいいのにと思っていた人たちは、30日の選挙を二重に信じられない思いで見つめている。二重にというのは、自民党を政権の座から追いやるのにこんなに長くかかるなんて信じられないという思いと、長年思ってきたことがいよいよ現実になりそうで信じられないという思いの両方だ」と書いています。この国にも二大政党制をと長年思い続けてきた——というのは、シーグ記者自身のことだろうと。

それがついに実現した30日、シーグ記者は「一年以内には参院選が控えている。未経験な民主党はそれだけに、記録的な失業率や社会保障費を膨れあがらせている高齢化社会の急速な進展に対応し、有権者の支持を引き留めておくため、素早く動かなくてはならない」とさっそく釘を刺しています。

つまり政権交代のある国の政治報道というのはこういうもの。真の民主国家であるためには政権交代は必要だと書き続けて結果的に選挙中は野党を応援するような形になっていたとしても、いざ野党が与党になったら、厳しく容赦なく欠点を指摘する。政治報道の基本を見せてもらっている思いです。

やはり長年日本を取材している英タイムズ紙のリチャード・ロイド=パリー記者も、「民主党勝利、新しい政治の時代へ歴史的転換」という解説記事で、日本で今回のような政権交代が起きたのは初めてで、いかにこれが歴史的なことかを(政権交代が当たり前な)英語読者に解説。「大事なのはここだ。こんなことはかつてなかった。(中略)自民党は今回、まとまったリーダーシップと政策を備え、勝つ意志を持つ、れっきとした現代的な野党の挑戦を受け、そして容赦なくたたきのめされた。今回のこれはたとえば1997年のトニー・ブレアや2008年のバラク・オバマといった有名な選挙勝利とは違う、それ以上のもの。全く前例のない新しい展開だった」と評価した上で、「しかしここからの問題は、民主党が果たしてただ『2009年に勝った政党』としてのみ名を残すのか、それともきっちり成果を残すかどうかだ」とやはり、釘を刺しています。

このロイド=パリー記者は記事冒頭で、「とはいえ日本では誰も踊っていない」と。「日本では選挙はいつも日曜日だからかもしれない。もしかしたら日本人が本質的に控えめだからかもしれない。いずれにしても総選挙となると日本人は得てして、選挙結果にほとんど興奮してみせない。昨夜の東京に押し寄せた台風の大雨がなかったとしても、(政権交代だからといって)花火が上がることもないし、大勢が酔っぱらって大声で合唱することもないし、裸になって皇居のお堀に飛び込むなんてこともなかったはずだ」と。

そしてたまたまの一致でしょうが、英フィナンシャル・タイムズのロビン・ハーディング記者も(なんと開票速報をリアルタイムに追いかけていたブログで)、「民主党は劇的な勝利を収めたが、雨に濡れそぼつ東京の街中で踊っている人は目にしなかった。電車の中で面白い話をしている人もいたが、政治のことではなかった」と。

初の本格的な政権交代だというのに、日本人は踊っていません。日本はそういう国ではないので。阪神が優勝したりサッカー日本代表がワールドカップで勝ったりしたわけではないので。日本人は選挙結果に踊り出すような国民ではないのです。もちろん皇居のお堀に飛び込んだりもしません。良くも悪くも。ニューヨーク・タイムズ「伝統的に政治に無関心な日本の有権者(Japan's traditionally apolitical electorate)」と書いているのが、欧米基準からしたらそうだろうと思います。

つまり今回の民主党勝利を「オバマのような」と言うのはたやすいけれども、昨年のアメリカのような「政治の季節」が果たして今回の日本に訪れていたのか。今回の政権交代がどれだけの転換点になれるのか。あの感動と興奮を巻き起こしたオバマ大統領でさえ、就任半年以上たって、現実を前になかなかに苦戦しているだけに、そう思います。なので政権交代上等、二大政党制上等とこの展開を踏まえた上で、新政権が本当にきちんと仕事をするのか(特に、たくさんの新人議員たちがかつての「マドンナ旋風」や「小泉チルドレン」みたいなブームで終わりはしないか)、厳しく見守っていきたいと思います。
 


◇本日の言葉いろいろ

landslide=地滑り、圧勝
populism=人民主義、大衆迎合主義
・strategist=戦略家、参謀、知恵袋
apolitical=政治に無関心、非政治的
 

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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。

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