北朝鮮の狙いは? アメリカの専門家の間でも見解分かれる
国際ニュースの話題を取り上げるこのコラム、今週の国際ニュースの話題と言えば北朝鮮の韓国砲撃です。北朝鮮の真意は何なのか。今回もまた挑発なのか。アメリカを交渉の場に引き出すことが目的なのか。それとも本当に武力による半島統一を目指しているのか。専門家の間でも意見の分かれるこのテーマについて、英語メディアに掲載されたいくつかの見解をご紹介します。(gooニュース 加藤祐子)
○暴れ者は何がしたいのか
中国について先日使った町内会の比喩を、北朝鮮による韓国・大延坪島(テヨンピョンド)砲撃に関しても使い続けるなら、これは「よいご近所さん」と町内で思われていない大地主が、鉄砲玉のようでありながら妙に冷静で計算高い暴れ者を子分にして好き勝手させているようなものです(なぜか浮かぶのは、前近代的な情景ばかり)。
この「暴れ者」について、たとえば米統合参謀本部議長のマレン提督はCNNで金正日総書記について「予測不能だという一点だけが予測可能だ(predictable only in his unpredictability)」と発言。それはご町内(=アジア)において迷惑なだけでなく、「秩序」とか「安定」を最重視する国際システムにとってもまったく最悪の存在と言えます。核という大量破壊兵器を手にしつつあるこの「暴れ者」がいったい何を考えて暴れているのか、マレン提督の言うように「予測不可能」で、意見が割れているからです。暴れ者は自分の身内に「大したもんだ」と言わせるために暴れているのか、町内の旦那衆に自分の存在を認めさせるために暴れているのか、それとも自分もいっぱしの「親分」になるため敵を全て倒してでものし上がろうとしているのか。
26日付の「ニューヨーク・タイムズ」は北朝鮮の砲撃に対して、韓国が手詰まり状態にあると書いています。李明博(イ・ミョンバク)政権は対北強硬姿勢を掲げて成立したものの、北朝鮮に対する武力行使を支持する国内世論は多くないし、中国の温家宝(ウェン・ジアバオ)首相も韓国と北朝鮮のいずれも武力による挑発行為に出ることに反対していると。
加えて英「フィナンシャル・タイムズ」のこちらの記事によると、韓国と北朝鮮の対話のチャンネルは断絶してしまっているので、当事者同士の交渉はもしかすると期待できないかもしれない。さらに同紙のこちらの記事によると、中国はあくまでも自分たちと駐韓米軍との間の緩衝地帯として北朝鮮を重宝しているので、厳しい態度に出ることはなさそうだと。
それでも北朝鮮を武力行使や経済制裁以外で何とか出来るのは、今のところは中国しかないというのが複数メディアの共通認識です。前述のマレン提督も「ほかの誰より北朝鮮にはっきりと影響を与えられるのは中国だろうと、かなり前から確信している」と発言しています。北朝鮮の挑発行動はアジア地域を「不安定化させるし、こういう行動で中国だって失うものは多いのだから」と。
25日付の「ニューヨーク・タイムズ」によると、オバマ政権は北朝鮮を押さえ込むために中国の協力をとりつけるべく、大々的に行動を開始したとのこと。オバマ大統領と胡錦濤・中国国家主席の電話協議の準備を始めたほか、クリントン国務長官をはじめ複数の米政府高官がそれぞれに中国政府の相手方と電話協議をする見通しとか。
ただし同紙は、権力継承プロセスのただ中にある北朝鮮の不安定化を望まない中国が、北朝鮮に対して経済力や軍事力を意味ある形で使うとは思えないという専門家の意見も紹介。これに対してオバマ政権は、米韓合同演習に空母「ジョージ・ワシントン」を派遣。米政府高官は同紙に対して、「もし北朝鮮がウラン濃縮やアメリカ国益を侵害する形で韓国を攻撃するようなことがあれば、中国の利益に悪影響を与える形でアメリカは反応すると、これが中国に対するメッセージだ」と話しています。つまりもし中国がこのまま北朝鮮の行動を座視するなら、アメリカは付近の海上行動を拡大するぞと、メッセージを送っているのだということです。記事によると、オバマ政権はさらに、追加の米韓合同演習も検討。地上部隊の演習さえ検討しているとのことです。
○専門家でも分かれる意見
では北朝鮮の狙いは何なのか? ロイター通信は一般によく言われているいくつかの説を並べて提示しています。
(1) 偶発的な誤解が原因。韓国の演習を北朝鮮側が本当に誤解して、応戦してしまった。しかし韓国の演習はよくあることなので、これはあまり考えにくい。
(2) 北朝鮮はまた国際社会を脅し揺すろうとしている。北朝鮮はこれまでも問題行動を起こしては国際社会の譲歩を引き出してきたので、今回もこれでアメリカを交渉の場に引き出そうとしているのだろう。
(3) 北朝鮮は権力継承の段階に入ったため、後継者・金正恩を「若き将軍」としてもり立てて軍部の支持を取り付けるのが目的。
(4) 北朝鮮の経済状況はますます悪化し、食糧は枯渇しているので、軍幹部さえ困窮し、破れかぶれになっているのではないか。
(5) 金正恩を後継者として支持しない軍部が、金総書記の意向を無視して勝手に暴発しているのではないか(これを主張するのは、日本人にもおなじみ、ブッシュ政権下で6カ国協議の米国首席代表だったクリストファー・ヒル元国務次官補)。
(6) あるいは上記5つ全て。
同様の分析は、複数のメディアや専門家がそれぞれに展開しています。さらに英「ガーディアン」紙はこれに加えて、「北朝鮮はすでに十分な核抑止能力を手に入れたと思っているので、今までより大胆な行動に打って出たのかもしれない」と書いています。
では、北朝鮮の真意はどこにあるのか? 外から見ていても正解が分かるはずもないのが、英語報道では「reclusive state(引きこもり国家)」とか「hermit state(引きこもり国家)」とか「secretive state(秘密主義の国家)」と枕詞が付く北朝鮮の北朝鮮たるゆえんですが、「ニューヨーク・タイムズ」紙は、砲撃が起きるとたちまち、アメリカの対北朝鮮政策に長く関わった専門家や研究者の論説をサイト上に並べました。
たとえば、米中央情報局(CIA)と米国防情報局(DIA)で20年にわたって情報活動に関わり、CIAでは朝鮮半島情勢の分析責任者だったブルース・クリングナー氏は、朝鮮半島の情勢は緊迫しているが「戦争につながることはないだろう。『天安』が攻撃された時に強く対応できなかったのとまったく同じ理由に、韓国政府は今回も手を縛られている」と分析しています。同氏によると北朝鮮のねらいは、半島西方の海域に主権を確立することと、なによりアメリカと韓国に制裁などの圧迫戦術を止めさせること。そして、アメリカを交渉の場に引き出すことだと分析します。しかも、北朝鮮は外交目的達成のためにはなりふり構っていない様子なのが心配だと。自制をかなぐり捨てた姿は、権力継承と関係があるのかもしれないが、国内の政治経済情勢の悪化が原因で必死になっているのかもしれない、これまで滞っていた状況が解けはじめたのしれないと。
それに対してブッシュ政権の対北朝鮮交渉に参画していたジョージタウン大学のビクター・チャ教授は同紙に対して、北朝鮮の狙いはアメリカを交渉の場に引き出すことだという考えは、自分の経験上まったく違うと思うと断言しています。チャ教授は「北朝鮮の行動は、不安定な権力継承を実施する間、世界と自国民に強さを見せつけることを目的とした、意識的な戦略だ」と言明。2009年4月のミサイル発射実験、同年5月の核実験、今年3月の哨戒艦「天安」撃沈と続く一連の流れの中でとらえるべきだと言うことです。北朝鮮のような国家は「内部が弱くなっている時に受け身になったり優しくなったりしない。内側が弱くなっている時こそ、攻撃的な態度に出るのだ」と言うのです。
さらに「ニューヨーク・タイムズ」紙には、「The Cleanest Race(もっとも清い民族)」という北朝鮮研究書の著者、韓国・東西大学校のB.R.マイヤーズ氏が寄稿(「The Cleanest Race」はたまたま出た当初に知って読んでいたのですが、実に興味深い本です)。北朝鮮は軍国日本によく似た教条的イデオロギーの国だという説を著作で展開している同氏は、「北朝鮮は絶対にお行儀よくなどならない」というタイトルで、「我々は挑発は無視するのに限るものだと教わっているし、韓国はこれまでそうしてきた」が、そのせいで北朝鮮はこうした行為を今後も繰り返すだろうし、韓国が自国を防衛できないとなるとアメリカにとって困った状況になると指摘。またアメリカも、金正日総書記のやることは全てワシントンの関心を引いて反応を引き出すためのものだという風に軽視しがちだと。アメリカの「政府高官たちは公然と(総書記のことを)関心を引こうとしてうるさく泣きわめく子供扱いしてきた」のだと。
しかしマイヤーズ氏は、北朝鮮の核実験や韓国に対する敵対行為を「挑発」に過ぎないとそうやってあしらうのは誤っていると書きます。北朝鮮は武力によって半島を統一すると宣言しているし、それは本気でそう思っているのだと。北朝鮮は軍国主義的なイデオロギー国家であり、全面戦争に勝てるとは思っていないが、敵対行為を徐々にエスカレートさせていくことで、韓国の意志を挫いて諦めさせるか、最低でも半島の共同統治を受け入れさせることができるのではないかと、本気でそう考えている。アナリストたちは北朝鮮の権力継承が挑発行為の原因だと思いたがっていて、金正恩の権力基盤が確実になれば北朝鮮の敵対行為も落ち着いてお行儀よくなるだろうと期待しているが、そんなことはあり得ない。なぜなら北朝鮮は、戦いに勝つことを自らの使命とする軍事独裁国家なのだから。それは経済を最優先する国にとって経済成長が必要なのと同じで、軍事を最優先する北朝鮮は、かつての軍国日本と同様に、勝ち続けることが国家存続のために必要なのだ——と言うのです。
北朝鮮が韓国を砲撃する前の時点で英「フィナンシャル・タイムズ」のコラムニストがすでに(主に中国を主題に)、様々な領土紛争を抱えるアジアが19世紀末欧州の「発火寸前の状態を思い起こす」と書いていました。19世紀末から20世紀初頭にかけての欧州は、新興国ドイツと覇権国・英仏の覇権争いによって発火寸前から戦争に至ったわけで、当時はバルカン半島が「欧州の火薬庫」と呼ばれていました。では21世紀のアジアでは、朝鮮半島が(核兵器の入った)火薬庫になってしまうのでしょうか。もしマイヤーズ氏の言うように、北朝鮮の狙いが単なる挑発にとどまらないのなら……。大量破壊兵器をもったならず者国家は、それこそチェイニー前米副大統領が最も恐れた最悪のシナリオのひとつです。やっぱりブッシュ政権のやり方は正しかっただなどと、そういう結論に世界はたどり着いてしまうのでしょうか。
一方で前述の「ガーディアン」紙はこう書きます。「韓国政府や、あるいはアメリカ政府には、なにができるのか? 冷静さを保つこと。真の『人民の英雄』になる方法は北朝鮮経済の発展にあると金正恩が気づくよう期待すること。そう気づくよう、しかるべきインセンティブを与えること。中国政府もそうするよう期待すること」だと。
飴か鞭かで言うならば、飴です。核を持つ相手には結局は武力ではなく、経済を通じて、独裁体制の緩やかな変化を促していくしかないというのが、もしかすると対ソ関係や対中関係で西側が得て来た知見なのかもしれません。しかしこれも、相手の国が(マイヤーズ氏の言うような)軍国日本のように「経済を犠牲にしてでも軍事的勝利を」という軍国思想をもっていないことが条件なのですが。
もちろん、結論など出ません。結論など出るはずもない「北朝鮮」という難題を前にウーン……と考え込んでしまったので、このコラム、木曜日に間に合わず土曜日になってしまいました。だから——と言うのは脈絡がありませんが、「ニュースな英語」コラムはまたしばらく不定期更新とさせていただきます。
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◇筆者について…
加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊や爆笑問題と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼でイギリス英語も体得。オックスフォード大学修士課程修了。全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。最新の訳書に「策謀家チェイニー 副大統領が創った『ブッシュのアメリカ』」(朝日新聞出版)。
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