■本日の言葉「fill up」(いっぱいにする)■

英語メディアが日本をどう報道しているかご紹介するこの水曜コラム、今週は当然のように新型インフルエンザ日本蔓延についてです。しかも、おそらく書いている記者たちも呆れながら苦笑していたのではないかと思える、日本の高校生の行状について。(gooニュース 加藤祐子)

○そこは培地かもしれないじゃないか

カラオケ・ボックスと言えば、あの密閉された空間はまさに(もしそこにウイルスがあるのなら)ウイルスにとって試験管とかペトリ皿のような、格好の培地だと思うのですが。だから避けよう……と思うのはオトナ判断というものだと、改めて思い知らされたこのニュース。日本メディアも取り上げましたが、英語メディアではまず仏AFP通信が「Karaoke clubs fill up as flu shuts Japan schools(インフルで学校閉鎖の日本でカラオケ店が満員に)」と。そしてAFPを追いかけた形で英BBCが「Flu prompts karaoke boom in Japan(インフルきっかけに日本にカラオケ・ブーム)」と。英仏の世界的なメディアによって、日本の高校生の行状が世界に配信されてしまいました。

「新型インフルエンザ感染拡大防止のために休校」と言われたら、「あ、そうですか」とばかりにその足でカラオケに行くというのは、まさにこれぞ高校生クオリティ……と、かつて自分も高校生だったオトナとしては苦笑するしかないのですが。

AFPの記事によると、大阪のとあるカラオケ店の店長いわく「一週間休校と発表された直後、いきなり高校生数人が来店した」とのこと。ただし同じ記事によると、別のカラオケ店の店長いわく「高校生のグループが10組ほど来店したが、休校中で自宅にいるべきだと分かったので、入店を断った」のだそうで。

やはり、(かつて高校生だったことのあるオトナとしては)高校生の高校生らしさから彼らを助けてあげるためには、大人が大人らしく毅然とあらねばならないと思うわけです。

○彼らを彼らから救いたまえ

ちなみに、この上のまだるっこしい表現「彼らを助けてあげる」云々が直訳風なのは、わざとです。英語でよくある表現で「save 誰それ from themselves=誰それを誰それ自身から救ってあげる」というのがありまして、それがこの場合によくあてはまるなと思ったので。

大阪の高校生たちはインフルにかかっちゃいけないから休校になったのに、その足で(もしそこにウイルスがあったら)シャーレに等しいカラオケに出かけいったと。そういう高校生の高校生らしさから、彼らを助けてあげなくてはならないと。つまり「誰それ」の生来の性質や行状が「誰それ」のためにならないとき(例・失言癖のある政治家、浮気癖のある芸人、浪費癖のある公務員など)、その「誰それ」の自傷行動を防いであげるために他人が何かすることを、「I did 何それ to save him (her) from himself (herself)」と言うわけです。

なのでこのカラオケ大好き高校生たちについては、「an adult has to do something to save the high school kids from themselves(高校生を自分たちの高校生クオリティから救ってあげるには、大人がなんとかしなきゃならない)」と、このニュースを読んでつくづく思った訳です。余計なお世話ですが。

ちなみに朝日新聞によると、「ジャンボカラオケ広場」というカラオケ・チェーンは「新型の豚インフルエンザの影響で休校となった学校の生徒・児童の入店を断り始めた」そうです。やれやれ。

○なぜ船や車が女性なのか

ここから英語解説です……という割には、もうかなり英語の話をしてしまいましたが。本日の言葉に選んだ「fill up=満杯になる、満タンにする」は、応用範囲が広い便利フレーズです。「fill」だけでも「入れる、満たす」ですし、「fill up」となると「いっぱいにする」。そこから発展して、ともかく何かをいっぱいにするのなら何でも使えます。その何かがカラオケ店でも、お腹でも、車のガソリンタンクでも。

休校中の高校生でカラオケ店がいっぱいになったのは、AFP記事の見出しにあったように「Karaoke clubs fill up」ですし、「カツ丼大盛りは本当にお腹がいっぱいになる」と言いたいなら「a large helping of katsudon really fills me up」となります。ちなみにカツ丼を説明したいなら「a bowl of rice topped with a deep-fried pork cutlet, egg, some soup and relish (豚カツレツのフライと卵と出汁少々に薬味のかかったご飯のどんぶり)」と丁寧に解説してもいいですし、ただ単に「It's something really yummy(すごいおいしいもの)」とだけ言っても事足りるかと。ただし相手がイスラム教徒やユダヤ教徒だったら、「It's not for you, it's pork(あなたは召し上がらない方が、豚肉なので)」と残念そうに首を振るべきです。

激しく脱線しました(カツ丼が食べたいのかも)。「fill up」の話でした。お店がいっぱいになったり、お腹がいっぱいになるほかに、アメリカのガソリンスタンドでよく使う表現として「fill her up」というのがあります。カッコつけて言うなら「fill'er up」。「フィラアップ」と発音します。もちろん最後に「プリーズ」を忘れずに。

これはつまり「満タンでお願いします」なのですが、なぜかここで言う「her」とは、自動車のことなのですね。

七つの海と七つの空を制した、かの英国海軍の伝統からこちら、英語では乗り物を女性呼ばわりするのが慣例です。艦船は「she」「her」と恭しく呼ばれますし、その延長で自動車も女性扱いされることが多いです。これはおそらく、船にしろ自動車にしろ(かつては)もっぱら男性が乗り回すものだったからではないか……と思うのですが、だんだん日中向けの話題ではなくなってきたので、本日はそろそろこれ切りに。

でも今どき自分の愛車を「she」だの「her」だの呼ぶのは気障すぎる…と思うなら、そこは普通に「fill it up, please=満タンでお願いします」で十分通じるので、大丈夫です。あるいはこのポリティカリー・コレクトな時代では、「fill it up」の方が普通かもしれません。ちょっと味気ないですが。


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◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。