英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースについてご紹介するこのコラム、今回は福島のお米についてです。正確に言えば、福島市大波地区の一戸の農家のお米についてです。そのコメから基準値以上の放射性物質が検出されたために、国は大波地区(稲作農家は154戸)の本年産米の出荷停止を県に指示したわけですが、そういう限定的な話に、多くの英語メディアが「Fukushima rice banned (福島のコメ、禁止)」などの乱暴な見出しをつけました。主な原因は、英語圏の新聞製作の仕組みにあります。福島との心理的距離感も関係ありそうです。そして、見出しだけがぐるぐる広まっていくこのネット時代、ニュース記事の見出し作りは難しいという、そういう問題でもあります。(gooニュース 加藤祐子)

○「特殊なケース」とは?

先週のコラムの終わりで、英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』のミュア・ディッキー東京支局長が、福島のお米を買ってきて、放射能は不検出だと確認した上で安心して食べたという話をご紹介しました。そのコラムを出した日の夜、福島市大波地区の一軒の農家のお米から基準値以上のセシウムが検出されたと報道されました。

「えっ!」と驚き情報を探し回るや(たとえば福島県の発表文、PDF)、1キロあたり630ベクレルの放射性セシウム(暫定基準値は500ベクレル)が検出されたのは、山間にある同地区154戸のうち1戸の農家が出荷せずにいたお米だったと理解。しかも農家自身の自主検査と自主申告によって明らかになったのだと。他の大波地区のコメからは今のところ不検出。翌朝の記者会見で「特殊なケース」と藤村修官房長官が言った通りなのでしょう。ただし、その記者会見の映像を見るに、「特殊なケース」という長官の言葉の意味を記者たちが確認せず、そして記事にも書かないのが、私は不満なのですが。

話がそれます。日本の新聞では、大きな話になればなるほど分業体制で情報をとって記事にするのが仕組みとして確立されています。個人の取材力ももちろん大事ですが、全体としては組織としての取材力が勝負を決めると言っていい。なので官房長官の定例記者会見を担当する記者は、官房長官のその時の言葉だけを正確に伝えればよく、その意味や背景を解説するのは、解説記事を書く担当の仕事——という風に、役割分担が別れている場合が多い。そしておかげで読者は、一本の会見記事を読んでも何のことかよく分からず、ほかの記事をあれこれ探さなくてはならなくなってしまう。新聞紙面で「面」として複数の記事が並んでそれで総合的に情報が提示されている場合はそれでもいいでしょうが、ネットに一本の記事が独立して掲載され、配信され、その見出しだけがツイッターなどを通じてグルグルッと広く拡散されていく今の時代、こういう短行記事は読者には不親切です。私もかつて、なんとか大臣の会見記事をほんの数行ずつ、ちぎっては投げ、ちぎっては投げるように書き飛ばしていたこともありますから、書く側の理屈は分かります。けれども読者としては不便です。

記事をたくさん並べて「面」で複合的な情報を見せる新聞紙面とは違い、インターネットの場合は「関連記事」として見出しを並べて、ニュースの広がりや厚みを見せることができます。最近登録した新聞社の有料サイトにこの「関連ニュース」がほとんどなく、その不便さに「うがああ」となっているので、つい熱く語ってしまいました。

福島市大波地区のお米に話を戻します。いずれにしてもこれは官房長官の言うように「特殊なケース」で、ごく一部のコメの話のようです。今の時点で「福島のコメ、禁止」という主見出しをつけていい話だとは決して思いません。FTのディッキー記者が食べたお米をはじめ、福島県産米としていま販売されている全てのコメは、放射能不検出のもの。だから流通しているのです。福島県の資料によると、福島県全体の稲作農家は5545戸(大波地区は154戸)、県全体の稲の作付面積は2312ヘクタール(大波地区は42ヘクタール)。出荷停止とされたのは、福島県全体からするとごく一部です。

これについてたとえば朝日新聞(デジタル版)の見出しは「福島市のコメから基準超セシウム 政府、出荷停止を検討」。読売新聞(オンライン版)は「福島市のコメ、規制値超セシウム…出荷自粛要請」。続報で「福島市大波地区のコメ出荷停止指示 政府、セシウム検出」(朝日新聞デジタル)、「セシウム検出、福島市大波地区のコメ出荷停止へ」(読売オンライン)となっていました。両紙とも初報の見出しの「福島市」もまだ範囲が大きすぎる気がしますが、続報では「大波地区」が見出しに入っている。二紙しか例示しませんが、日本の全国紙報道はこういう様子でした。

ついでに日本国内発行の英語新聞で言うと、『ジャパン・タイムズ』は「Fukushima to ban rice grown in Onami(福島、大波で栽培のコメ出荷禁止へ)」 という見出しでした。banは「禁止」が本来の意味、「出荷停止」や「出荷禁止」は意訳です。そして「ban」という言葉そのものには、日本語の「停止」に含まれる「一時的」という語感はあまりありません。なので、このコラムではあえて「ban」を「禁止」と訳しています。

『デイリー・ヨミウリ』は「Excess cesium detected in rice / Shipments from Onami district in Fukushima city banned (コメから基準値以上のセシウム 福島市大波地区からの出荷禁止」、『マイニチ・デイリー・ニュース』は「Excessive levels of radioactive cesium found in Fukushima rice (福島米から基準値以上の放射性セシウム)」、『アサヒ・ジャパン・ウォッチ』では(私が見た限り)セシウム検出段階の初報が見つからず、「出荷停止決定」の段階での見出しは「Government orders Fukushima to halt rice shipments (日本政府、福島に米出荷停止を指示)」と。なんというか、見出しを付ける人それぞれの、福島との心理的距離の遠い近いが伺える気がします。

対して英語の海外メディアでは、英BBCが「Japan bans Fukushima rice shipment due to contamination (日本政府、福島米出荷を禁止 汚染により)」。AFP通信が「Japan bans Fukushima rice for radiation (日本政府、放射能のため福島米を出荷禁止)」。ブルームバーグが「Japan Restricts Fukushima Rice Shipments After Radiation Found(日本政府、放射能検出で福島米の出荷制限)」。英紙『ガーディアン』が「Fukushima rice banned by Japan (日本政府、福島米を禁止)」。そして『フィナンシャル・タイムズ』(オンライン版)も当初は「Japan bans Fukushima rice shipments(日本政府、福島米の出荷禁止)」と見出しがついていました。

どの記事ももちろん本文や副見出しを読めば、放射能が検出されたのは福島県全体ではなく、一部地区のことだと書いてあるのですが……。