英語版と日本語版の内容が違う、それこそ「島国根性」では 国会事故調報告

gooニュース・JAPANなニュース2012年7月12日(木)08:30

英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、大変お久しぶりになってしまった今回は、福島第一原発事故に関する国会事故調査委員会の報告書についてです。厳しい東電批判、規制当局や政府への批判は実にもっともだと思ったのですが、それだけに前書きは残念だった。なぜかというと、英語版と日本語版が違ったからです。原発事故は「Made in Japan」な事故で、そして事故原因は「Japanese culture(日本文化、国民性)」だという評価が、英語版にしか書かれていなかったからです。(gooニュース 加藤祐子)

○ 英語と日本語で内容が違う

福島第一原発事故に関する国会事故調査委員会の最終報告書が公表された7月5日午後、私はTwitterを見ていました。日本の報道各社が次々に「人災」という部分に焦点を当てて記事を書いてくるのを見て、「そりゃそうだろう」とまず思いました。けれどもそれと同じくらい、官邸の過剰介入批判にも焦点をあてているのを見て、「またしても、菅直人前首相ひとりの責任にするつもりか。去年のあの異様だった『菅降ろし』報道の続きか」と辟易としてもいました。報告書の要約を見てみれば、「東電は、官邸の過剰介入や全面撤退との誤解を責めることが許される立場にはなく、むしろそうした混乱を招いた張本人であった」(日本語要約版PDF18ページ)と書いてあるのに、なんで官邸の過剰介入の方だけことさらに取り上げるんだと。

そうこうしているうちに、英語メディアの記者たちも事故調報告についてツイートを開始。私が最初に気づいたのは、英『タイムズ』紙のアジア編集長、リチャード・ロイド=パリー記者(@dicklp)でした。ロイド=パリー記者は報告書が「What must be admitted – very painfully – is that this was a disaster "Made in Japan" (非常に辛いことだが、これは『メイド・イン・ジャパン』な大惨事だったと認めなくてはならない)」と書いていると速報ツイート

そして続けて、「Its fundamental causes are to be found in the ingrained conventions of Japanese culture (根本的な原因は、日本文化に根ざす慣習に見いだすことができる)」ともツイート。さらに、「our reflexive obedience; our reluctance to question authority; our devotion to "sticking with the program"; our groupism; and our insularity(私たちの反射的な従順さ、権威をなかなか問い質そうとしない姿勢、決まり事を熱心に守ろうとする姿勢、私たちの集団主義、そして私たちの島国的閉鎖性)」が原因だったと、報告書には書かれているとツイートしてきました。

こうして内容を連続ツイートした後、ロイド=パリー記者は「これはすごい。こんな高い地位にある組織がこんなに直接的な批判をするのは見たことがない」とコメントしていました。

この一連のツイートを見ていた私は、「え? そんなことが報告書に書いてあるの? なのに日本の報道各社は官邸介入批判を真っ先に挙げてるの?」と「???」状態に。

そこで日本語の要約版の最初の方を急いで読んでみたのですが、そのものズバリの部分は検索しても見つからない。確かに「ほぼ50年にわたる一党支配と、新卒一括採用、年功序列、終身雇用といった官と財の際立った組織構造と、それを当然と考える日本人の「思いこみ(マインドセット)」(日本語要約版PDF5ページ)という批判はあるけれども、「Made in Japan」とか「ingrained conventions of Japanese culture」に該当する日本語が見当たらない。

そのため私がさらに「???」となっていると、今度は英紙『フィナンシャル・タイムズ』のミュア・ディッキー東京支局長も、「Fukushima crisis ‘made in Japan’(福島の事故は『メイド・イン・ジャパン』)」という見出しの記事を書いてきました。そしてやはり、「ingrained conventions of Japanese culture」と引用。おかしいなあと思いながら記事を読み進むと、なんと! これは英語版の前書きにあった表現だけれども日本語版とは中味がかなり違うと説明してある(全文の日本語訳はこちらです)。

まさか、というのが最初の反応でした。歴史的な文書になるだろう国会事故調査委員会のこのような報告書で、まさか英語と日本語の内容を変えてくるとは。ただでさえ色々な陰謀論にまみれてしまっているこの原発事故について、なんでことさらにそんな、李下に冠を正すような真似をするのかと。

けれども英語版を見てみると、確かにその通りで。「Made in Japan」や「ingrained conventions of Japanese culture」などの表現が確かにありました。そして、日本語版にはない。

報告の大部分をなす、東京電力や原子力安全・保安院や政府に対する厳しい批判は優れていました。たとえば、「関係者に共通していたのは、およそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり、世界の潮流を無視し、国民の安全を最優先とせず、組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思いこみ、常識)であった」(日本語要約版PDF17ページ)というくだりがそうです。そして東電については、「東電は、シビアアクシデントによって、周辺住民の健康等に被害を与えること自体をリスクとして捉えるのではなく、シビアアクシデント対策を立てるに当たって、既設炉を停止したり、訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていた」、 「東京電力経営陣の姿勢は、原子力を扱う事業者としての資格があるのか」(同18ページ)と。

保安院については、「推進官庁、事業者からの独立性は形骸化しており、その能力においても専門性においても、また安全への徹底的なこだわりという点においても、国民の安全を守るには程遠いレベルだった」(同)など。政府と官邸については「政府の事故対応体制は、その本来の機能を果たすことができなかった」(同33ページ)、「事故対応を主導した官邸政治家について(略)は、真の危機管理意識が不足し、また、官邸が危機において果たすべき役割についての認識も誤っていた 」、「総理の福島第一原発の視察も含めた官邸の直接介入が、指揮命令系統の混乱、現場の混乱を生じさせた」(同35ページ)などなどと、これでもかと書き連ねています。

民間の組織ではなく、国会に設置された委員会がこれほど真正面から東電や規制当局を強く批判したことは、評価されるべきだと思います。ロイド=パリー記者も、ディッキー記者もその点は評価しています。他の英語記事も、報告書による東電や当局批判とそれにもとづく提言を、詳しく伝えています。それだけに、英語版と日本語版で前書きの内容が違ってしまったことが、残念でなりません。

(ちなみに、何度も出てくる「Japanese culture」は「日本文化」とも「国民性」とも訳せて、どちらかというと「国民性」の方が近い気もします。けれども「国民性」には「national character」という表現もあるし、「国民性」という表現には「日本文化」にない、人種や民族といった要素も入り込んでいる気がするので、あえて以下では「日本文化もしくは国民性」とぎこちなく訳してあります)。


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