<サウジアラビア政府を相手取ってテロの損害賠償を求める訴えを起こすことができる「テロ支援者制裁法」が米議会で成立。しかし逆にテロ戦争に携わる米軍人が外国で訴えられるリスクも高まる>(写真:ホワイトハウス前でオバマの拒否権発動に抗議するテロの遺族ら)

 米議会は先月末、オバマ大統領の拒否権を覆して「テロ支援者制裁法(JASTA)」を成立させた。これで9・11米同時テロの遺族らは、サウジアラビア政府を相手取って損害賠償の訴えを起こすことが可能になる(テロ実行犯のうち15人はサウジ国籍だった)。

 これには議会共和党の指導部も困惑し、JASTAは意図しない結果を招く恐れがあると指摘した。オバマも同じ理由で拒否権を行使したのだった。

 米国民が外国政府に対して損害賠償訴訟を起こせることになれば、逆に対テロ戦争に携わる米軍人が外国の法廷に立たされるリスクも高まるからだ。

 一般に、主権国家は他国の法律によって裁かれないという「主権免除」の原則がある。だがJASTAは、米国本土で起きたテロ行為については「主権免除」を認めないとする。

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 アメリカには今もテロ支援国家に対する訴訟を可能にする法律があるが、JASTAの下ではそれ以外の国も、自国民が米国本土でテロを実行したというだけで訴訟の対象になる。

「米軍関係者を外国での訴訟に巻き込むリスクを冒すことなく、9・11犠牲者の権利を守れるよう法案を修正する道があるはずだ」。下院議長のポール・ライアンはそう語った。ちなみに上院外交委員会のボブ・コーカー委員長(共和党)は、大統領選後の会期で同法を再検討する可能性を示唆している。

 当然のことながら、アラブ諸国は反発している。ツイッター上にはベトナムなどにおける米軍の「テロ行為」や、アブグレイブ刑務所に収監された全裸のイラク人の写真が出回った。「JASTAが施行されたら、こっちもアメリカを提訴してやるぞ」というわけだ。アラブ首長国連邦の政治学者アブドゥラカレク・アブドゥラも、アラブ諸国はサウジアラビアの側につくだろうと警告した。

 一方で元米国防次官補のチャールズ・フリーマンは、米軍爆撃機の上空通過を拒否するなど、サウジが報復に出る可能性を指摘。対テロ戦争における「協力関係が台無しになる」と嘆く。
サウジがアメリカから多額の資金を引き揚げる恐れもある。

[2016.10.11号掲載]
マーシー・クライター