中国の習近平国家主席はカンボジアを訪問し、バングラデシュを経由してインド入りした。中国による猛烈な抱き込みが進む中、露印が防衛協力を強めるなど、親米ではない動きが渦巻いている。ネパールの動きも見逃せない。

習近平国家主席、カンボジア訪問

 カンボジアと中国との関係は、7月25日付の本コラム<チャイナマネーが「国際秩序」を買う――ASEAN外相会議一致困難>で触れたように、中華人民共和国誕生後あたりから考えると、先のシハヌーク国王が中国に亡命したことに象徴される。シハヌーク国王の墓が北京にあることからも分かるように、中国は現在のシハモニ国王(シハヌーク元国王の息子)とも仲がいい。今般のカンボジア訪問に当たり、習主席はシハモニ国王とだけでなく、モニニャット王太后(シハヌーク元国王の夫人)とも会っている。モニニャット王太后はフランスとイタリヤとクメールの血を引くことが影響しているのか、王室らしい気品に満ちた顔だちを、中国の中央テレビCCTVが映しだした。

 我が国の安倍首相と会う時にはあれだけ傲慢極まりない表情をする習主席が、よくぞここまで下手(したで)に出ると思われるほど、うやうやしい面もちで会談していた。

 その習主席がカンボジアのフン・セン首相との会談となると、突然、自信に満ち満ちて、「中国の一帯一路(陸のシルクロード経済ベルトと海の21世紀海上シルクロード)構築に伴い、中国はカンボジアと、生産能力、貿易投資、農業、観光およびインフラ建設などにおいて協力を進め、二国間経済貿易協力は迅速に進んでいる」とした。

 またカンボジア側としては、人民元決済を促進させ、一帯一路により構築された経済回廊を軸としてカンボジア経済を発展させていく旨の意向を示した。

 カンボジアとの経済貿易協力を後押しして、カンボジアを完全に中国側に引きつけて離さない勢いだ。

 ラオスはもともと一党支配の社会主義国家。旧ソ連の崩壊とともに中国との緊密度を増している。

 これで、フィリピンのドゥテルテ大統領を含め、ラオスとカンボジアとの蜜月関係を継続していけば、南シナ海問題に関して「怖いものなし!」。

 この自信は日本に向けられ、東シナ海での覇権を強める傾向に結びついていくことだろう。

 なにしろ、カンボジアとの共同声明では、「南シナ海問題に関しては、関係国同士の話し合いによって解決する」という文言を明記してしまったほどだから。

 街道には習主席とシハモニ国王の肖像画が並べられていた。

ひれ伏さんばかりのバングラデシュ

 バングラデシュは、習主席が北京空港を飛び立ち、カンボジアのプノンペンに向かう途中から軍用機による護衛飛行をしていたが、プノンペンからバングラデシュに向かう時にも数機の軍用機で護衛を続けた。飛行場では習主席の写真と五星紅旗をかざす大勢の子供たちが、タラップから降りた習主席を熱狂的に迎えた。飛行場から進むすべての街道に、習主席とハミド大統領、ハシナ首相のかなり大きな写真が交互に並べられ、その光景をCCTVが繰り返し伝えた。

 習近平国家主席はハミド大統領やハシナ首相らと、白と赤の花に彩られた会議場で会談した。

 ハミド大統領との会談で習主席は、「このたびの訪問期間に、双方は各分野での協力メカニズムを充実させ、重点分野での大型プロジェクト協力を積極的に実施し、一帯一路建設をともに推進し、両国国民に幸福をもたらし、この地域の相互連携と発展繁栄に貢献していくことに同意した」などと述べた。

 それに対してハミド大統領は、「習主席のこのたびの訪問は両国関係を新たな水準に押し上げるもので、中国はバングラデシュの最高の戦略的協力パートナーになった。双方の貿易、投資、インフラなどの各分野での協力の潜在力は巨大だ」と述べ、ハシナ首相もまた「バングラデシュは一帯一路建設に積極的に参加し、『中国・バングラデシュ・インド・ミャンマー経済回廊』の開発を支持する」と返した。



 さらにハミド首相は「バングラデシュは『1つの中国』の政策を固く支持する。中国との互いの核心的利益について支持したい」と付け加え、習主席を喜ばせた。

 会談後、両国指導者は「一帯一路」の共同建設、生産能力協力、情報通信、エネルギー電力、外交、海洋、防災、気候変動などの分野における多項目の協力文書に調印した。たとえば「中国がバングラデシュに200億ドル(約2兆円)の融資を行うこと」や、「136億ドル(約1兆4000億円)規模の貿易投資協定」などがある。

インドのゴアでBRICS首脳会談

 習主席は15日にはBRICS(新興5カ国。ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)第8回首脳会議に出席するためにインドのゴアを訪れた。9月4日に中国の杭州で開催されたG20においてもBRICSの臨時会議を開催したが、今回は正式の首脳会談となる。習主席はインドのモディ首相の歓迎を受けたあと、BRICS各国首脳およびネパールの首脳とも会談した。以下、各国との会談内容は、CCTVや「新華社」および「人民網(人民日報のウェブサイト)」以外に、「中国青年報」も参考にし、筆者の解説を加えながら概況を述べる。

(1)中露首脳会談

 習近平:中国とロシアは国連安保理常任理事国であり、新興主要国であり、かつ上海協力機構(NATOに対抗した、中国やロシアを中心とした安全保障機構)の仲間なので、力を合わせて新興国および発展途上国に利益をもたらすように国際秩序を形成していこう。

 プーチン:中露関係を緊密にしていくことに全力を尽くしたい。来年のBRICS首脳会議開催国としての中国を全面的に応援したい。エネルギー、インフラだけでなく、航空、宇宙開発においても協力したい。

(2)中印首脳会談

 習近平:中印関係の発展には目を見張るものがある。戦略的パートナーシップを強化し、BRICSのみならず、上海協力機構(インドは今年、正式に加盟)、南アジア地域協力聯盟および東アジアサミットにも協力したい。

 モディ:中印の戦略的パートナーシップを強化し、21世紀を「アジアの世紀」に持って行こう。来年のBRICS議長国としての中国での成功を祈り、全面的に協力したい。

(3)中国・南ア首脳会談

 習近平:中国は南アフリカとの戦略的パートナーシップが非常に勢いよく強靭になっていることを大変うれしく思っている。中国は南アフリカだけでなくアフリカの全ての国が、それぞれの国情に応じて発展し、外来勢力の干渉を受けないことを願っている。(筆者:中国は外来勢力ではないのだろうか?)
 
 ズマ:中国がインフラ建設や、人材養成など多くの領域において協力してくれていることを心から感謝している。全面的に中国に協力していきたい。

(4)中国・ネパール首脳会談

 10月16日の新華社は、特に習主席が15日、ネパールのプラチャンダ首相と会談したことを大きく報道した。プラチャンダ氏はネパール共産党毛沢東主義派のトップ(書記)で、今年8月に新首相に選ばれた。実はプラチャンダ氏が首相に当選するのは、これで2回目で、第一回は2008年8月〜2009年5月。就任期間は1年にも満たない。政権を奪ったのはネパール統一共産党の党首。いずれにしても「ネパール共産党」の党派によって政権が短期間で変わっている。2008年の第一期プラチャンダ政権から第二期までの間に6人も首相が変わっているので、政権は不安定だ。また途中に一回だけ無党派が首相になっているので、中国のような形での共産党支配とは異なる。

 習近平:中国とネパールは国交を正常化してから半世紀以上経ち、政治的にも交流がある。地震災害後の支援を続けるだけでなく、今後はさらにインフラ建設や民生の回復支援および中国の大企業の投資を強化していく。上海協力機構などの協力枠組みを向上させたい。
 
 プラチャンダ:中国はネパールにとって最も信頼できるパートナーだ。積極的に一帯一路建設に関わっていきたい。

 (筆者:ネパールは実は親インドと親中の間で揺れてきた。中国としては「親中」で固定させたい思惑がある。インドの経済成長のポテンシャルが高いからだ。)

(5)印露首脳会談――ロシア、インドに軍事協力約束!

 個別会談は複層的に行なわれ、インドのモディ首相とロシアのプーチン大統領との間でも開催された。

 フランスのAFP通信がインドの軍事関係者の話として伝えたところによれば(と中国メディアが伝えた)、両国は国防を中心として数百億ドルにおよぶ協定を結び、印露は少なくとも200機以上の軍用ヘリ、カモフ(Kamov)の共同製造に合意したという。またロシアはインドに最先鋭の地対空ミサイルS-400を提供するとのこと。

 AFPがロシアのメディアがインド軍関係者を取材した報道を引用している部分もあり、情報源がかなり複雑だ。

 インドは日米露そして中国に対してと、顔を使い分けているように感ぜられる。

 しかしBRICS諸国における今回の一連の動きでは、少なくとも親米ではない要素が互いを結びつけていることは確かだ。

BRICSの可能性と中国

 いずれにしてもBRICS枠内諸国のGDPは全世界の20%を越えており(購買力に換算すると2014年で30.2%。EU16.6%、アメリカ15.9%。The World Factbookより)、人口に至っては40%を越えている(42.7%)。

 他の西側先進諸国が経済成長の鈍化に悩む中、BRICSとその周辺諸国(発展途上国)には経済成長の潜在力、ポテンシャルがあり、今後の発展空間が残されている。特にインドにはその可能性が高い。

 ただ、中国のような一党支配による独裁国家は、一党支配ゆえに、限りない腐敗と不正を招く。中国の経済発展が鈍っているのは、この腐敗と不正だ。一党支配を続けている限り、そこには限界がある。中国の戦略はたしかにしたたかだが、民主のない世界制覇にはつねに危機が潜んでいる。日本の外交手腕に注目したい。

[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット 言論をめぐる攻防』『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』『完全解読 中国外交戦略の狙い』『中国人が選んだワースト中国人番付 やはり紅い中国は腐敗で滅ぶ』『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)



※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)