<ブレグジットで泣くのは、EUかイギリスか――。その答えは両方かもしれない。金融業界では、いちばん恩恵を受けるのはニューヨーク市との見方が出はじめている>

 ブレグジット(イギリスのEU離脱)が6月に決まって以来、ロンドンの金融センター、通称「シティ」がヨーロッパ大陸に移転する可能性が囁かれていた。離脱による規制強化の悪夢を避けるためだ。パリやアムステルダム、フランクフルトが候補地とされてきた。

 しかし、世界を驚かせた国民投票の衝撃が収まった今、イギリスを離れていく金融機関の行き先はヨーロッパにならないとの見方が出はじめている。恩恵を受けるのは、おそらく大西洋の反対側だ。

 ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの投資銀行が、ブレグジット対応策を検討。その結果、複雑な国際金融取引に不可欠な規制枠組みを持つ都市は、ほかにニューヨーク市しかないことが明らかになった。ブルームバーグが報じたように、ロンドンは各投資銀行の最大もしくは2番目に大きな拠点が集まる都市だが、同じことがニューヨークにも当てはまる。本社機能をヨーロッパ大陸に構築するよりも、ニューヨークに集約させるほうが安上がりで理にかなうのだ。

モルガン・スタンレーCEO、ロンドン証券取引所CEOが発言

 テリーザ・メイ英首相は10月2日、離脱の手続きについて定めたリスボン条約(EUの基本条約)50条を来年3月末までに発動する方針を明らかにした。離脱によりEUとの結びつきがなくなれば、イギリスはGDPの8〜10%を占める金融セクターを失うおそれがある。

 業界内部ではすでに、ヨーロッパよりむしろアメリカへという動きを察知し始めている。10月初旬、ワシントンで開かれた会議での講演で、モルガン・スタンレーのジェームズ・ゴーマンCEOは言った。「ブレグジットのいちばんの勝者はニューヨークとアメリカだ。より多くのビジネスがニューヨークに移るだろう」

 ロンドン証券取引所グループのグザビエ・ロレCEOも同調し、先日、17種類の主要通貨の取引を扱えるのはウォール街だけだと発言した。「(ロンドンから)ヨーロッパに行くビジネスはほんのわずかだ」と、ロレは言う。

【参考記事】ブレグジットで泣くのはEUだ 欧州「離婚」の高すぎる代償



「離婚」の形が決まらず、金融機関はビジネスを見通せない

 理由の1つは規制にある。EUの巨大官僚機構が投資銀行業務をヨーロッパに移転させるための事務処理にうまく対応できるのかがはっきりしない。これは、国民投票前に金融業界がブレグジットに反対していた理由の1つでもある。

 現在、イギリスとEUとの「離婚」がどういう形になるかが決まっておらず、それゆえ金融機関も、イギリスやヨーロッパでのビジネスがどうなるかを見通せない。ニューヨークであれば、そんな心配とは無用だ。

 もう1つの理由は文化的なものだ。コンサルティング会社のZ/Yenグループが発表する世界金融センター指数(GFCI)によれば、ロンドンは金融業界で働く人が住みたい街ナンバー1である。2位はニューヨークだ。フランクフルトは19位、パリは29位と大きく差をつけられている。

 また、国民投票前にブレグジットへの賛否を表明しなかったシンクタンクのオープン・ヨーロッパは、金融機関にとってはヨーロッパ大陸よりも、ニューヨークやシンガポール、香港のほうが移転に望ましいとする報告書を17日に発表した。

 さらに理由を挙げれば、離脱によりイギリスは、商品やサービス、人の移動の自由が保障されたヨーロッパ単一市場へのアクセスを失う可能性がある。ドイツなど多くのEU構成国はアクセスを制限したいと考えているが、そうなればイギリスの金融機関にとって、5億人の消費者を抱える市場でのビジネスが困難になる。

 果たして、シティはどうなるのか。イギリスの中央銀行であるイングランド銀行のジョン・カンリフ副総裁は10月初旬、金融機関がアメリカに移転する可能性について聞かれ、端的にこう答えている。「ニューヨークに移る可能性があるか? もちろんだ。すでにニューヨークにあるのだから」

【参考記事】「ハードブレグジット」は大きな間違い?

From Foreign Policy Magazine

デービッド・フランシス