液化天然ガス(LNG)の需要家企業が自社で使うだけでなく、第三者に転売するトレーディング事業重視の姿勢を鮮明にしている。ウクライナ情勢で2022年に高騰したLNGのスポット価格は足元では下落傾向にある。それでも、中国やロシアの動向次第では冬場にかけて再び上昇する可能性もあるなど予断を許さない状況だ。実需を安定調達するだけでなく、戦略的な取引で収益拡大につなげる意義が増している。

「目を皿のようにしてチャンスを探っている」。JERAグローバルマーケッツ(JERAGM)の葛西和範最高経営責任者(CEO)はこう語る。

東京電力ホールディングス(HD)の子会社と中部電力が折半出資するJERAは、フランスの電力大手EDFとの間でスポットや短期契約によるLNG取引事業を19年に統合。シンガポールを拠点に本格的なトレーディングに乗り出した。

その効果は、年間約3700万トン規模のLNGを扱うJERAという安定顧客を背にした調達力にとどまらず、欧州のLNG基地や船舶へのアクセスといった最適化につながっていると分析。とりわけ流動性が高まる欧州のガス市場においては「現地事情を知らなければ痛い目に遭う」(葛西氏)ことを実感したという。

供給源と供給先を確保した上で、仕向け地自由なLNGや柔軟な運用を実現する船団を組み合わせる最適化戦略が奏功。22年度はトレーディング事業で前年度比741億円の増益をもたらした。

トレーディング事業をめぐっては東京ガスも20年に子会社を設立し本格参入。この4月からは東京、英国、シンガポールの3極が連動した24時間取引を始めたばかりだ。30年にはLNG取扱量2000万トンのうち500万トンをトレーディングで扱うことを目指している。関係者の間では今後は中国企業をはじめ参入企業が増えるとの見方もある。

日本の伝統的なLNG契約は長期契約が主流で、かつ売り先を限定する契約が一般的だったが、米国のシェールガスなど近年開発される産地の契約には仕向け地条項がないため、トレーディングの重要性が増した。

日本企業が購入した米国産LNGを欧州企業が契約するアジア産LNGと交換することで、輸送費用や日数を減らせる利点もある。LNGは環境負荷が相対的に低く、世界的な脱炭素の流れで石炭からシフトする傾向にあることから今後も一定の需要が見込まれる。