妻と共に世界中を旅しながら飲み歩きを続けた世界のマイナー酒研究家・松本祐貴さん。これまで訪れた国は41か国。国によってまったく違うという世界の飲酒文化について聞いてみた。

――国によって飲酒文化ってちがうものなんですか?

松本:その国で作られる酒の種類によって文化も変わります。たとえばウイスキーとかテキーラなどの蒸留酒は、食事と一緒に飲まないですからね。あと、食事をしながら酒を飲むって、実は先進国特有の文化なんです。コース料理と一緒にワインを飲みましょうっていうのがヨーロッパや米国。アジアでは食事をしながらワイワイ飲みますが、それ以外のほとんどの国では酒と食事は別なんです。

――そういった食事以外で飲む国ではどんな飲み屋があるんですか?

松本:基本はバーですね。でも日本人が想像するおしゃれなバーとは違って、立ち飲み屋に近い感じの場所です。ボリビアとかペルーとか、貧しい国ほどそういったスタイルになるんです。

――特に変わったお酒ってありましたか?

松本:たとえばこれ、見た目は点滴みたいですが、タンザニアのお酒なんです。どこの売店でも売られているメジャーな酒で、ふたを切ってチューチュー吸って飲んでる。

――袋入り! ジンフレーバーって書いてありますね。タンザニアでは瓶より、こちらが多いんですか?

松本:もちろん瓶もあるんですけど少し高い。もっとリーズナブルにして手軽に庶民が楽しめる価格にしたのがこれですね。海外でよくたばこを1本売りしているのと同じ感覚ですね。袋入りは、もう少し大きなサイズもあって、選べるようになっている。日本でいうカップ酒みたいなものですね。

――携帯用っぽく見えますが、そういった酒を路上でチューチュー吸ってるんですか。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1202467

松本:いや、路上で飲むのは違法なんです。だから酒屋が店の一角で酒を出す、日本でいう「角打ち」のような場所で1袋だけ飲んで帰る。道ばたで飲んでいい国って、実は珍しいんですよ。あと、家の外で酔っ払うことがマナーの悪い恥ずかしいこととされてる国も多い。そこも日本との違いです。日本の酒と酔っ払いに対する寛容度合いは世界でも屈指といえます。そのぶん他のドラッグには厳しいですけどね。酔っ払った人がたくさん乗ってアルコール臭い都内の終電に海外の人が乗ったら、衝撃を受けると思いますよ。

――つまり日本とは酒に対する意識が違う国がほとんどなんですね。

松本:そもそも飲酒自体が禁止されている国も結構あります。イスラム圏だとイランやUAEなど宗教に信仰の厚い国だと街でも外資系のホテル以外、酒が売られていない。インドも州や地域によっては禁止ですね。ヒンドゥー教も酒を飲むのはよくないことだとされている。

――それは日本でいう麻薬のような扱いなんですか?

松本:私も最初はそうかなって思ってたんですけど、現地で聞いてみると、日本の麻薬に対する取締りよりは、厳しくないことがわかった。たとえばインドで仲良くなった現地人と話してるとインド人の90%以上は酒を飲んでるって言うんです。おおっぴらに飲むのはダメだけど、家のなかでもこっそり飲んでるぶんにはお咎めがないんです。

――州や地域によって違うというのはどういうことですか?

松本:州によって規制の度合いが違うんです。基本的には田舎に行けば行くほど厳しくなる。インドだと、南部の大きな街へ行くと飲み屋がある。掘っ立て小屋の前にビールメーカーの看板が出てるので、たぶんここに入ったら飲めるなっていうのはかろうじてわかるんですけど、入り口が非常にわかりにくい。イメージとしては日本の風俗店に近いですね。法的にはOK。でも人々に、どこかうしろめたいという意識があるんでしょうね。薄暗い店内でプラスチックの椅子に腰掛けて現地の若者がウイスキーをがぶ飲みしてへべれけになってる。インドの若い人たちのあいだでは、飲酒が文化として根付きつつある。

――向こうでは、酒よりも大麻のほうが手に入りやすく規制もゆるいですよね?

松本:やっぱり禁止されてると飲みたくなるんでしょうね。だから他のドラッグはあるけど、あえて酒を飲む。ただどの国も禁止されてるといっても、捕まってもそこまで重罪じゃない国がほとんどです。だからほんと日本の風俗のグレーな感じに存在自体も近いっていうか。アフリカの国々にもそういった飲み屋が街に結構ありましたね。

――海外ではつまみはどういったものを食べるんですか。

松本:先ほども言ったように、先進国以外だと食事とは別に酒を飲むので、本当に酒のあてって感じのものが多いですね。アフリカだと塩豆が多かった。タンザニアはゆで卵を食いながらウィスキーを飲んでる。インドでもゆで卵にガラムマサラをかけてるのをよく見かけました。変わったものだと南米でワニや、リャマっていうアルパカみたいな見た目が非常にかわいい動物の肉を見かけることもありましたね。

――日本の文化に近い飲み方をする国ってありましたか?

松本:中国ですね。酒と酔っ払いに対して、かなり寛容ですね。中華料理を食べながらみんなへべれけになるまで飲む。日本でよく見かける紹興酒もあるにはあるんですがあんまり飲んでないですね。白酒(パイチュウ)や老酒(ラオチュウ)という酒をよく飲む。味の薄いビールもありますね。日本と決定的に違うのは、1杯だけ飲むって文化がない。だからボトルを頼んで飲みきることになる。なので少人数だと確実にへべれけになります(笑)。

――日本の飲酒文化は、世界的に見てもかなり整備された部類に入るんですね。居酒屋に慣れた日本人が行っても馴染みやすい国はどこでしょう?

松本:スペインです。向こうではお昼をしっかり時間をかけて食べて、そのあと長い昼休憩・シエスタがあるんです。夕方まで休憩して、また遅い夜まで働いて、仕事が終わるとタパスという小皿料理の出る居酒屋のような店をはしごする。だから深夜2時頃まで開いている店が多い。深夜までやってて、いろんな小皿料理を食べるっていう、日本の酒文化にいちばん近い国です。

――酒好きにとっての楽園といえる国はどこですか?

松本:個人的にはやっぱりジョージアですかね。旧ソ連から独立した国で先日、日本名がグルジアからジョージアに変わったんですけど、ワイン発祥の地といわれてる国なんですね。とにかくタダで飲める機会が多かった。安宿に泊まったんですが3か所に泊まって、どこもワインが飲み放題でした。ぬか漬けみたいな感じで自家製ワインを作ってるんですね。朝からポットでワインが出てくるから、みんな水代わりに飲んでる。で、朝から飲み過ぎて観光にまったくいけなくなるっていう(笑)。

――では最後に、世界中の酒を飲み歩いて、わかったことはなんですか?

松本:飲酒に対する価値観の違いには驚きましたね。あと、酔っ払いが飲んだくれてベロベロになってるのは万国共通ってことですかね(笑)。

⇒【写真】はコチラ http://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1202470

 仕事を辞めた松本夫妻の1年半の世界一周飲酒旅行。“ 笑えて、泣ける ”飲酒紀行『泥酔夫婦世界一周』は好評発売中だ。

取材・文/河上 拓 写真/チュ・チュンヨン