「もう、やる気自体がないから」

 試合後のミックスゾーンでその率直な言葉を聞いた私たち記者陣は、一様に苦笑いを浮かべた。しかし、その男は「いや、まあ、それが本音で」と、こちらの反応に対して決して冗談ではないという表情で話を続けた。

 浦和レッズの興梠慎三は17日のFC東京戦で途中出場すると、後半42分に駒井善成のクロスを頭で合わせて決めた。チームの勝利を決定づける3点目は、7月13日のベガルタ仙台戦以来、2カ月以上離れていたゴールの味だった。

 その仙台戦と翌週の大宮アルディージャ戦を最後に、興梠は一度チームを離れている。リオデジャネイロ五輪のメンバーに、オーバーエイジとして参加したからだ。しかし、そのメンバー参加にあたっては逡巡があった。興梠のメンバー入り内定が発表されたのは6月下旬で、まさに浦和がファーストステージの終盤戦を戦っていたころ。勝負どころのゲームで3連敗を喫し、優勝の可能性を失った時期だった。

悩みに悩み、仲間に背を押されて五輪出場を決意。

 その時に興梠は、試合に対して「常にモヤモヤしたまま臨んでいた」と明かしていた。「オーバーエイジは即戦力というイメージがあるので、それに見合ったプレーをしなければいけない。調子が悪いなかで呼ばれて『こんなので良いのか』という思いもありましたし、そんなんじゃやっていけないとも考えていた」のだという。

 その様子をチームメートの柏木陽介も感じ取り、背中を押したのだという。

「慎三は恥ずかしがり屋というか、嬉しいのを素直に受け入れられないところがあるから。こんなチャンスがあるのに行かないのはもったいないよと。あの大舞台で活躍できたら年齢に関係なく素晴らしいことだし、オレは慎三が出ていた方が見たいと思うから、全力でやってほしい。人生は一回だし、3人しかない枠(オーバーエイジ)に監督から出てくれと言われるのは、そんな光栄なことはないよと。そういう話はしました」

 悩みに悩んで、仲間にも背中を押されて、興梠は五輪への参加を決断した。「行くからには最大限の力を」と、リオへ旅立った。結果は伴わなかったが、全力を出し尽くして帰国した。だが、その大舞台に対して高めたモチベーションが、諸刃の剣となってその後の興梠を苦しめた。それが、冒頭の言葉につながったのだ。

「これが燃え尽き症候群なのかなと」

「サッカー人生で一番出し切った感じがありますね。燃え尽き症候群ってどんなのかなって思っていたけど、これがそうなのかなというくらい。何もモチベーションも上がらないし、筋肉も言うことを聞いてくれない。もう、やる気自体がないから」

 逡巡した思いを振り切るように、そして体の中から絞りつくすように気持ちを高めた大会が終わり、喪失感もあったのだろう。いつの間にか、自分の中身が空っぽになってしまった。

 2013年に浦和に加入してからずっとこだわり続けてきたタイトルも「年間順位とか、そういうことも考えられないくらい自分で精いっぱいだった」のだと話した。

監督から“ほぼ名指し”で告げられた苦言。

 帰国してからの興梠のプレーは、明らかに精彩を欠いていた。フル出場は一度もなく、ゴールも生まれない。トレーニングでも、どこか存在感が希薄だった。9月10日の鳥栖戦後の記者会見では、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督から、明らかに興梠のことだと分かる言葉を投げかけられていた。

「名前は言わないですけど、交代で入った選手のプレーに関して、私は非常に不満を持っています。そのことは私だけでなく、選手自身も自分で感じ取れたことだと思います。今がよくなければ、日々のトレーニングを大事にして、しっかりトレーニングするという原点に立ち返ってやってほしい」

 手厳しいコメントを残した監督だが、実際にはトレーニングの後に何度も興梠と個人的に話をしている。練習場の大原サッカー場でペトロヴィッチ監督の“指定席”である、室内練習場の入り口にあるテーブルで、2人は会話を重ねた。その中で、興梠自身も監督に正直な自分の状況を伝えていたのだという。

「監督と毎回しゃべって、正直にモチベーションが上がらないと伝えていた。それで出てチームに迷惑をかけるのもダメだと思いますので、そうやって自分のコンディションを伝えることがチームのために良いことだと思って」

久々に興梠が発したポジティブなコメント。

 切れてしまった気持ちをつなぎ直すには、時間が必要だった。幸か不幸か、浦和のFW陣はタレント揃いだ。興梠が絶不調に陥っている間に、ズラタンや高木俊幸が調子を上げてレギュラーの座を奪い、チームは勝ち点を積み重ねた。途中出場という立場の中で、「トレーニングでも普段は動かないようなところで動いてみたり」と、何とかしようともがいた。

 そして、監督がメディアの前で厳しいコメントを発してから1週間、「今週すごく良いトレーニングができた」と手応えを得て臨んだのが、今回のFC東京戦だった。

「自分のコンディションが上がらない中で、この1点は簡単なゴールだったけど、すごく重みのあるゴールだった」

そして「僕は絶好調になると思いますよ」。

 気持ちと体がバラバラになっていた時期を耐え、ようやく自分でも復調を感じていたタイミングで結果を残したことが嬉しかったし、ホッとしたのだろう。どこかネガティブなものが多かった彼の言葉も、前を向き始めた。

「スッキリしたというか、それがFWだから。点を取らないと勢いがつかないからね。こうやって結果を残した今は、スタメンを貪欲に狙っていきたい。100ゴールまであと4点で、今日決めてあと3点になった。自分の目標はそこだから、スタメンで出ればあと3点は取れると思うので頑張っていきたい」

 このゴールで、J1通算ゴール数が97に伸びた。リーグの残りは5試合だ。鹿島アントラーズで数々のタイトルを獲得した男は、常に「最後の5試合が勝負だから」と言い続けてきた。その戦いが始まろうとしている。

 そして最後に「僕は絶好調になると思いますよ」と言い残してスタジアムを後にしていった。サッカー人生を懸けた大舞台を終えて一度は燃え尽きた浦和のエースが、完全復活を遂げようとしている。

文=轡田哲朗

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