リオデジャネイロパラリンピックで、日本が獲得したメダルは、銀10、銅14の計24個。前大会のロンドンパラリンピックでは金5、銀5、銅6の計16個だった。

 金メダルはなかったが、メダル総数では、ロンドンよりも大きく増えている。

 メダルに届かなかったとしても、自己記録を更新する選手も少なくなかった点も含め、幅広く活躍が見られる大会となった。

 その前提があった上でも、金メダルには届かなかったのも事実であり、その理由について、現場から共通した声が聞かれた。

 ひとことで言えば、海外の競技力の向上である。

「予想していた以上に記録が伸びていた」

「レベルが上がっていた」

パラリンピック委員会会長も認める競技力の向上。

 この感覚は現場レベルだけでない。9月12日、国際パラリンピック委員会のクレーブン会長も大会の中間報告として会見を行ない、こう語っている。

「競技力の飛躍的な向上が証明されました」

 その時点で、世界新記録はすでに100を超えていた事実を、そう評したのである。その後も世界新記録が相次ぎ、計209という驚くべき数に達した。それだけの新記録が生まれた理由は、今までは競技として成熟しきっていなかったという側面がひとつ挙げられる。だからこそ、ここに来て各国の強化が本格化していることの証左でもあった。

 上位選手の中には、プロとして活動する選手も珍しいことではなくなってきている。競技に専念することで得られる練習量、トレーニング理論が増えた。また、もしくは用具を使用する競技では、その用具自体の開発も進化した。

 対する日本はどうか。競技環境という点では、上位の国の中でひけをとる面があるのは否めない。

「長水路の屋内プールを、もっと使えるように……」

 例えば競泳である。

 オリンピック選手の場合、たいがいのスイミングクラブは拠点となるプールを持ち、選手はそこで日々、練習することができる。「明日はここ、あさってはそこ」とプールを転々とすることはない。

 パラリンピックでは異なる。有力選手が少なからずいるスイミングクラブでも、決まった練習場所がなく、その都度プールを借りながら、数カ所で練習していたりする。

 銀2、銅2の計4つのメダルを獲得した木村敬一を指導する野口智博コーチは、「必ずしも環境だけではない」と語りつつ、課題をあげる。

「長水路の屋内プールを、もっと使えるようになれば。また、どうしても施設の優先順位があるし、(オリンピックの)ジュニアの強化を、ということでどかないといけないこともありました」

 そしてこう加える。

「来週からそういう施設を作ってほしいですね。既存のものでも、速やかに」

選手1人あたり年間約147万円の自己負担をしている。

 8月には、日本パラリンピアンズ協会が、2014年のソチ、リオの日本代表選手、コーチら計248人を対象に実施し、175人からの回答によるアンケートの結果を公表した。その1つとして、21.6%の選手が施設利用を断られる、条件付きで認められた経験があると回答している。理由は、施設に傷がつく、危険などであった。日本代表であっても、およそ5人に1人は施設利用を断られてたことがあるという件も、練習環境を想起させる。

 競技力と切り離すことができないことに、活動資金もある。

 前出の調査では、選手1人あたり平均して年間約147万円の自己負担をしていたことが明らかになっている。'12年にも同種の調査を行なっているが、そのときは平均144万円だったから、3万円増加したことになる。

 リオでも、いくつか経済的な負担の話は聞いた。例えばボッチャは今年になってから改善されたものの、海外遠征や用具代など、自己負担の割合が大きかったという。競技介助者も必要な選手もいるから、その分の費用ものしかかっていた。

「交通費が出て、家計に優しくなりました」

 今回、出場権を得られなかったシッティングバレーボール女子の場合も、国内合宿、海外の大会に行くときなどの交通費、宿泊費はすべて自己負担だった。しかもほぼ毎週、合宿を行なって強化してきたから、負担額は大きかった。

 最近こそ、協賛企業の支援などで変化しつつある。北京パラリンピックで主将を務め、ロンドンにも出場した金木絵美も、笑顔でこう語った。

「交通費など出るようになって、家計に優しくなりました」

 ただ、長年にわたって選手それぞれがやりくりし、競技に打ち込んできたことには変わりはない。そして協会そのものも、トップに立つ会長が私財をつぎこむなどして運営してきたように、競技団体そのものに資金がない現状がある。

五輪との最も大きな違いは「一般の人の関心」。

 アンケートではオリンピック選手との違いで感じることという項目もあった。

 選手で最も多かったのは、「一般の人の関心」(40.5%)、「競技環境」(36.0%)、「競技団体の組織力や経済力」(33.3%)。一方でコーチ・スタッフの回答では「競技環境」(51.6%)、「競技団体の組織力や経済力」(46.9%)、「一般の人の関心」(39.1%)。順位は異なっても、3つの項目が上位であることに変わりはない。

 日々の練習環境、指導体制の充実、支援スタッフ、技術開発、合宿、国際大会参加――競技力向上の大きな部分を占める基盤の整備が、今後の鍵となる。

 そしてトップレベルのみでなく、広く裾野から取り組める環境を整えられるかどうかは、2020年に限定せず、その後も見据えた課題である。

文=松原孝臣

photograph by AFLO