「チームのみんなが仲良い」

「みんなのためにやる」

 サッカーはチームスポーツ。選手たちの口からそういう声が聞こえるのは、決して悪いことではない。だが、そればかりになってしまうと、“ただの仲良しこよし”になってしまい、そこには競争や意地とプライドが存在しなくなり、ひどい状況になれば“馴れ合い集団”、“烏合の衆”になってしまう危険性がある。実際にそういうチームを見て来たこともある。

 今、インドの地でAFC U-16選手権を戦うU-16日本代表の選手の口からもそういう声が聞こえて来るが、彼らの目つき、そして雰囲気、より突っ込んだ言動を聞くと、その危険性はなく、むしろ非常に頼もしい健全さを感じる。

 それはどういうことか。このチームは間違いなく仲がいい。しかし、その中で個々がしっかりと自己主張をし、指揮官もそれを敏感に感じ取って、彼らに強烈なメッセージを言葉と行動で示している。

サブ組の中村敬斗がベトナム戦前に見せた“激しさ”。

 それはグループリーグ初戦・ベトナム戦の前の出来事だった。事前の茨城合宿で鹿島アントラーズユースと水戸ホーリーホックユースと2つの練習試合を行ったが、そこで調子が良かったMF鈴木冬一とFW山田寛人(ともにC大阪U-18)をレギュラー組に入れてトレーニングをしていた。すると森山佳郎監督の目に、ある選手の強烈な自己主張が映った。

「サブ組で出ていた中村敬斗(三菱養和SCユース)が、“いや、ふざけんな俺を出せ”という雰囲気を出していたので、ベトナム戦は鈴木と中村を入れ替えてスタートしました」

 もちろん言葉で文句を言ったという稚拙な行動を起こした訳では無い。“俺を出せ”という強い想いを、トレーニングに取り組む姿勢で示したのだ。より球際を激しく、より積極的に。「自分のコンディションはいいぞ」としっかりと伝えることで、指揮官の目に自らを映し出させた。

 そして、ギリギリでスタメン出場を勝ち取った中村は、ゴールこそ無かったが、2点目のゴールを素晴らしいスルーパスでアシストするなど、2アシストと1得点の起点になるなど、3点に絡む活躍を見せた。

森山監督が仕向ける“あいつに負けたくない”精神。

 この中村のアピールは、ある意味、森山監督が仕向けたことでもあった。なぜならば、森山監督が率いるU-16日本代表の中には、常に厳しい生存競争が存在する。チーム立ち上げの段階から、「いいか、このメンバーに選ばれたからと言って、必ずしもずっと選ばれる保証は無いし、将来的にプロになれる保証も無い。この年代に代表に選ばれて、後に消えて行く選手はいくらでもいる」と、厳しい言葉を選手に送り続けている。

 現にこの年代は早熟と晩熟の差がはっきりと現れ、早熟の方がメンバーに入りやすいが、一方でその後に伸び悩むという大きな壁に直面する選手もいる。だからこそ、選ばれたからと言って、そこであぐらをかかせるのではなく、常に次なる者は現れると競争を促している。競争をすることで、より成長を促し、チームとしての相乗効果を生み出して行く。

「お互い“あいつには負けたくない”、“こいつには負けたくない”という気持ちがあって、刺激し合っていくことが重要。例えば中村が物凄いシュートを打てるようになって、それで彼がどれだけ努力をしているか分かる。じゃあ“他の選手はどうだ?”と問いかけたときに、そこで変わらなかったら、それは“努力”とは言わない。“僕、頑張りました”ではダメ。そういう成長を遂げた選手が身近にいることで、それを見て“俺も負けたくない”と思って、代表でもチームでも高い意識でやってくれていると思う」(森山監督)

ベトナム戦で出番のなかった棚橋の心に火がついた。

 そして、2戦目キルギス戦の前日練習のことだった。スタメンを勝ち取った中村の活躍を見て、間違いなく雰囲気が変わった選手が数人居た。中でもFW棚橋尭士(横浜F・マリノスユース)と鈴木の雰囲気は際立っていた。今回、FWは山田、宮代大聖(川崎フロンターレU-18)、棚橋、中村、久保建英(FC東京U-18)の5人が選ばれているが、ベトナム戦で出場したのは棚橋を除く4人。その4人は前述したように、中村が2アシストを記録。他にも山田と宮代が1ゴールずつ、久保が2ゴール1アシストとしっかりと結果を残した。

 それだけに棚橋の中には悔しさもあったのだろう。練習では意欲的にゴールに向かい、レギュラー組のビブスを着ると、「絶対にこれは譲らない」という強い意欲を見せていた。練習後、棚橋に話を聞くと、こう口を開いた。

「ここに来た以上、競争なんです。他のFWの選手たちがいい結果を出したということは、僕もそこに負けないように、チャンスをもらえたら結果で示すことをいつも意識しています。やはり結果を出すFWが一番いいので」

闘争本能を燃やしたのはサブ組に回った久保も同じ。

 さらに「ベトナム戦のFW陣の活躍を見て、火がつきました?」と聞くと、少し笑顔を見せて「はい、もちろんです」と頼もしい返事が返って来た。

 そして、この前日練習でもう一人、ギラギラと闘争本能を燃やしている選手がいた。それがベトナム戦で今大会のオープニングゴールを含む2ゴール1アシストを記録した久保だった。この日、久保はサブ組としてトレーニングをしていた。紅白戦でも久保が積極的に声を出し、ボールを要求したり、周りと連携を確認したりと、端から見ていても「試合に出る」という強い気持ちがひしひしと伝わって来た。

 そして迎えたキルギス戦。レギュラー組だった棚橋と鈴木はもちろん、サブ組だった久保が、レギュラー組だった選手と入れ替わる形でスタメンに名を連ねた。

棚橋がハットトリック、久保と中村ともに2ゴール。

 このスタメン起用に、3人はしっかりと結果で示した。立ち上がりはキルギスのパワーに押し込まれる苦しい時間帯が続いたが、34分に棚橋が左サイドに届いたパスに反応しダッシュ。DFが先にボールに到達をしたが、外にクリアしようとしたボールを身体でブロックし、そのままマイボールにすると、GKとの1対1を制して、強烈なシュートを叩き込んだ。この棚橋のゴールを皮切りに、2試合連続のゴールラッシュをスタートさせると、そのままこの試合でハットトリックを達成。1アシストも記録し、文句無しの勝利の立役者となった。

 久保も棚橋の先制弾で掴んだ流れを確固たるものにする追加点を8分後に奪うと、4点目をアシスト。ラストの8点目も挙げて、2試合連続の2ゴール1アシスト。前日練習で気迫溢れるプレーを見せていた鈴木も、最初は右MF、途中から左MFとして両サイドで起点を作るだけでなく、自らの突破で得たPKを決めて、1ゴールをマークした。

 そして、悔しさと決意を持ってこの試合に挑んだのはこの2人だけではなかった。「前回点を取れなくて、悔しかった思いがあった」と、ベトナム戦ノーゴールの中村も、2ゴールを叩き出し、これでFW陣全員がゴールを記録することとなった。

「言われて動くような選手は出さない」(森山監督)

 試合後、久保のスタメン起用について話を聞くと、森山監督は包み隠さず、はっきりとこう口にした。

「アクシデントではなく、“言われて動くような選手は出さない”ということです。このピッチに立つには、心と身体も100%準備していないと出さないだけの話。やっぱり久保が一番“俺を出せ”と雰囲気を出している。サブ組で出したときに、“なんだよ、俺を出せよ”と言うのが一番伝わって来たので、“じゃあ出そうか”と思って出しました」。

 この言葉には森山監督が持ち続ける明確な条件がはっきりと示されていた。

「練習でギラギラしていた棚橋や鈴木を今日(キルギス戦)の試合に出して、きちんと結果を出してくれた。そうなると、次は今日試合に出ていない宮代、山田に火がつくと思う。“ふざけんなよ!”と思って、高いレベルで競い合ってくれたらと思います。最後、決勝トーナメントで前と横(ツートップと両サイドハーフ)の4人は本当に誰を出すか分からない。結果を出した奴が出れると思う」

 競争意識が生み出す相乗効果。それは指揮する監督が、その細かい部分まで目を配り、ぶれない基準の下でメンバー選考や起用、采配や反映させてこそ初めて意義あるものとなる。森山ジャパンには今それが活性化しているからこそ、U-17W杯のアジア最終予選であるAFC U-16選手権の地で、2戦連続の大勝を収め、勢いに乗ることができている。

 今後、よりその競争が激化していくことで、彼らは大きく成長をする。まずはこのインドの地で、準決勝進出チームまでに与えられるU-17W杯のキップを掴みとるべく。一つの目標に向かって、自己主張を持ったタレントたちが切磋琢磨で邁進し続ける。

文=安藤隆人

photograph by AFLO