WBC世界バンタム級チャンピオンの山中慎介(帝拳)が16日、エディオンアリーナ大阪で指名挑戦者のアンセルモ・モレノ(パナマ)を7回1分9秒TKOで下し、防衛のテープを11に伸ばした。

 両者は昨年9月に対戦し、山中が2−1判定勝ちを収めたが、スコアは2人が115−113で山中、残りが115−113でモレノというどちらに転んでもおかしくない試合だった。“完全決着”に挑んだ山中はどのようにして会心の勝利を手に入れたのだろうか。

 山中vs.モレノ第2戦の見立ては、第1戦と同じようにモレノの卓越したディフェンス技術に山中が手を焼き、“神の左”はなかなか炸裂しない─―というものだった。

 そんなイメージを漠然と抱いていたのは、偏屈なライターだけではなかったのではないだろうか……。

モレノが詰めてきた距離は、山中にとっても倒せる距離。

 しかし、試合は予想に反し初回から激しく動いた。先に勝利への強烈な意欲をリング上で表現したのはモレノだった。かつてWBA王座を12度防衛した実力者は、前回よりも距離を詰め、左を叩き込んで赤コーナーを慌てさせる。コンビネーションも容赦なく浴びせ、いきなり先制点を挙げる形となった。

「前回は複雑な試合展開になってしまったが、今回は明確に勝つためにラウンドごとに勝利を印象付ける。そのためにはパンチをたくさん打つことが必要だ」

 公開練習で語っていた通り、モレノはアグレッシブに攻めた。いきなり先制パンチを食らった山中だったが、決してひるんだわけではなく、「距離が近いな」と感じていた。モレノがリスクを冒して前に出てきているということは、倒される危険性が高いと同時に、自らの左が火を噴くチャンスも広がることを意味する。

 ラウンド後半、前がかりのモレノに山中が左を打ち込む。これがカウンターとなって決まると、パナマ人は尻からダウンした。完全決着を求める両雄の強い決意が、第1戦とは打って変わったスリリングな展開を生み出した。

右フックを封印し、必殺の左主体に組み立てを変更。

 一進一退の攻防が続く中、4回はモレノが勝利に半歩前進する。山中の右フックの打ち終わりに右カウンターを合わせ、V10王者をキャンバスに転がした。山中が力任せに右を打ち込んだところにパンチを合わされるのは、10度目の防衛戦でリボリオ・ソリス(ベネズエラ)に喫した2度のダウンの再現を見ているようだった。試合後、山中は苦笑いしながら明かした。

「思い切り打つ分、開きが大きくなってしまって……。わかっていながら我慢できずに打って1回ダウンしました」

 山中は右ガードの甘さという悪癖を再び突かれ、5回に右を食らって大きくバランスを崩した。セコンドからは「右フックは打つな。シンプルにワンツーでいけ」という指示が飛ぶ。伝家の宝刀たる左ストレート主体の組み立ては、山中がこの試合に向けて取り組んだテーマでもあった。

左ストレートについていた“錆”を落として。

 今年3月のソリス戦で、山中は2度のダウンを喫しただけでなく、中盤以降に何度も左をヒットさせながらソリスを仕留めることができなかった。大和心トレーナーが表現するところの「1点に力が集中するような、アイスピックのような左ストレート」に狂いが生じ、本来の力を発揮できなかったのだ。

 だから今回の試合に向け、山中は左ストレートの錆をきれいに落とし、ていねいに磨く作業を繰り返した。わずかにズレていたパンチを打ち出す角度、タイミングを調整し続けた。さらに試合中「左を当てるコツをつかんだ」。右の捨てパンチをうまく使い、左の照準は徐々に合い始めた。

 そして6回、山中の左ストレートは、スコープの中でゆらゆらと揺れていたモレノをピタリと中心に捉えた。山中が引き金を引くと、モレノがもんどりうって倒れる。ここまでくれば、フィニッシュまでは一本道だ。7回早々、左を炸裂させた山中がこの日3度目のダウンを奪うと、モレノが痛烈にキャンバスに沈む。何とか立ち上がったものの、再び左を浴びてダウン。主審はノーカウントで両腕を交錯した。

「こんな形になるとは」と本人に正直に告げると……。

 試合翌日、「再戦がこんな形になるとは予想していなかった」と本人に正直に告白すると、山中は「そうでしょう」と言いながら実にいい笑みを浮かべた。

「たぶんみんなそう思っていたと思うんです。だから自分で言うのもなんですけど、今回は納得できるというか、反省もありますけど、達成感のようなものがありますね」

 自画自賛の勝利を成し遂げ、11度の防衛は内山高志(ワタナベ)に並び、具志堅用高の持つ国内最多記録V13に次ぐ2位となった。問題は今後、山中にどのようなステージが用意されるかだ。今後について帝拳ジムの本田明彦会長は次のように明かした。

「これだけ防衛しているわけだけど、次だれとやるかがまた問題。ボクシング人生が終わりに近づいているのは確かなわけだから、いい相手がほしいですよね」

 山中は試合翌日の記者会見で次のように語った。

「記録というのは、超えたからといってその人よりも評価されるとは限らない。それよりも違うベルトがほしいですね」

 いまのところ他団体王者との統一戦が実現する見通しは立っていない。なかなかライバルが見当たらない中で、モレノという好敵手は、山中の存在を十分に輝かせた。モレノとの完全決着にケリを付けた孤高のチャンピオンはライバルの出現を粘り強く待つ。

文=渋谷淳

photograph by Tsutomu Takasu