喉から手が出るほど欲しい先制点――。ところが、開始早々の得点が、ときに足かせになることがある。

 虎の子の1点を守りたいという意識が強く働いて、その後のプレーが消極的になることがあるからだ。それが、5連敗中の最下位チームであれば、なおさらだろう。

 だが、アビスパ福岡は最後までアグレッシブな姿勢が崩れなかった。

 J1セカンドステージ第12節。年間順位17位の湘南ベルマーレとの“裏天王山”で敵地へ乗り込んだ福岡は、3分に金森健志がPKを決めて先制点を手に入れた。

 それがプレッシャーにならなかったのは、すぐに追加点を奪えたからだろう。15分に平井将生がミドルシュートを突き刺し、差を2点に広げた福岡は、その後も、相手のお株を奪うようなプレッシングで湘南を慌てさせていく。

 たしかに湘南のシュートミスに救われたシーンが何度かあったが、切り替えやセカンドボールへの反応では福岡が上回る場面が多く、2-0と会心の勝利を飾った。

三門は精力的な運動量で、先制点のPKを誘発した。

 試合後の記者会見で「1週間どんなことを伝えてきたか」と訊ねられた井原正巳監督は、「本当に泥臭く、最後まで走りきるとか、ゴール前に入るとか、体を張って守るとか、90分間勝利のために悔いのない戦いをしようと話していた」と答えたが、この日の戦いぶりが、まさにそのコメントに凝縮されていた。

 敵に囲まれながら右足を振り抜いた平井のシュートは鮮やかだった。金森のドリブル突破は常に驚異的だった。亀川諒史の左サイドからの攻め上がりも光った。

 だが、この日の福岡のアグレッシブさを起動させるスイッチになったのは、この夏に横浜F・マリノスから完全移籍で福岡にやってきた三門雄大だろう。

 本職のボランチではなく、4-2-3-1のトップ下に入った29歳のMFは、開始早々に右サイドからのクロスで湘南のハンドを誘ってPKを獲得。その後も前線に飛び出したり、ボールを追いかけ回したりしてハードワークを切らさない。センターバックの實藤友紀が退場となった試合終盤には、ボランチに入って完封勝利に貢献した。

「チームのためにトップ下をやってほしい」

 この働きには井原監督も「奪ったボールをいい形で、間で受けて起点になったり、時間を作ってゲームをコントロールしてくれていた」と最大級の賛辞を贈った。

「ボランチへのこだわりはあります。でも、井原監督が『チームのためにトップ下をやってほしい』と言ってくれたので、僕の力がチームのためになるならと思って」

 試合後、いぶし銀の働きを見せた男は、試合中と異なる清々しい笑顔で振り返った。

「『マリノスでもやっていたでしょう?』と言われたので、きっとマリノスのときにやっていたようなことを求められているんだな、と思いました」

 トップ下と言えば、サッカーにおいて花形だ。敵の急所をえぐるようなスルーパスを通したり、ゴール前に飛び出してゴールを仕留めたりするような、勝敗に直結する役割が求められるイメージを伴うポジションだろう。

レスターの岡崎も、三門と似た役回りだった。

 だが、チームの戦術上、縁の下の力持ち的なハードワーカーが、その花形のポジションで起用されることがある。

 例えば、'98年フランス・ワールドカップへの出場を目指した第一期岡田ジャパンで、右の中田英寿、左の名波浩を生かすため、トップ下の位置から走り回ってスペースを捻出していたのは、“ミスター・ダイナモ”北澤豪だった。

 プレミアリーグのレスターで昨季、岡崎慎司が担った役割も、実はそれに近い。前線からボールを追いかけ回してプレッシングのスイッチを入れ、中盤とバーディーとのつなぎ役としても機能した。

 横浜でトップ下を務めた際に三門が思い描いていたのも、そうしたものだった。

「マリノスでトップ下に入ったときは、シュンさん(中村俊輔)とは違う色を出さないといけないと思っていたので、走ることで(齋藤)学やアデミウソン(現ガンバ大阪)が生きればいいなと思っていた。だから今日も、健志や城後がやりやすくなってくれればいいなと。それに最近、前線からのプレスでスイッチが入っていないのと、前でなかなかキープできていないので、そういうところも意識していました」

昨季まで横浜FMでレギュラーも、今季は出番が急減。

 流通経済大から'09年にアルビレックス新潟に加入した三門は、ボランチを中心にサイドバックでもプレーし、'13年にはゲームキャプテンも務めた。'14年には横浜F・マリノスに移籍し、2年目の昨季はレギュラーとして32試合に出場している。ところが今季は出場機会がめっきりと減り、ファーストステージは3試合の出場にとどまった。

 そんなときに声をかけてくれたのが、井原監督であり、新潟時代のスカウトだった鈴木健仁統括部長だったという。

「マリノスで'15年にあれだけ出たのに、今年に入ってなかなか試合に出られず、外されるときも監督から何もなく、僕としては非常に寂しい気持ちが正直、あって……。そういうなかで、福岡が僕の力が必要だと言ってくれたので、非常に嬉しかったですし、必ず残留させるんだっていう強い気持ちで来たんです」

 捨てる神あれば、拾う神あり――。こうしてセカンドステージから福岡に加わった三門は、ダイナミズムを備えたバランサーとしてここまで全試合で先発している。

ピッチ上でマイナスのことが起こらなくなった。

「ミカさんが来て、チームはガラッと変わったと思います」

 そう明かしたのは、古巣との対戦で平井のゴールをアシストした亀川だ。リオ五輪に出場した若き左サイドバックは、三門加入の効果についてさらに続ける。

「ピッチの中で一番戦っていると思うし、途中から入ったミカさんが頑張っているので、元々いた僕らがそれ以上にやらないといけないっていう気持ちにさせられている。ミカさんが入ってチームは確実に上向いているし、ピッチ上でマイナスのことが起こらなくなったと思います」

 夏に獲得したのは三門だけではない。FC東京から期限付き移籍で加入した元ワールドカップ戦士の駒野友一も、右サイドバックとしてチームに経験と安定を与えている。

 金森や亀川、為田大貴といったリオ五輪世代の若者たちや、U-19日本代表の17歳、冨安健洋が躍動できるのも、こうした経験者たちのバックアップがあるからだろう。

絶対的エースのウェリントンも負傷から復帰。

 ここにきて、絶対的エースのウェリントンも負傷からようやく復帰した。戦力が整いつつあり、残留争いのライバルたちと比べて、まとまりがあるように見える。それだけに、内容は悪くないのに勝点を落としてきたこれまでの戦いがもったいなかったが、この“裏天王山”での勝利が、流れを変えるきっかけになるかもしれない。

 残りは5試合。湘南を抜いて17位に浮上したとはいえ、降格圏外の15位・アルビレックス新潟とは勝ち点8差がついているため、難しい状況に変わりはない。だが、確かなのは、誰も諦めていないということだ。

「目の前の相手に対してしっかりと良い準備をして、毎試合が決勝戦のつもりで戦うしかない」と井原監督が誓えば、三門も「ここまで結果が出ていないので申し訳ないんですけど、責任感を持ってやって来たので、最後まで諦めない姿勢をしっかりと見せたいと思います」ときっぱりと宣言した。

 残留を争うライバルたちの結果がどうであれ、福岡がやるべきことはただひとつ。ネバーギブアップの精神で、残り5試合、アグレッシブなサッカーを貫くだけだ。それがクラブの“明日”につながっていく。

文=飯尾篤史

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