世間からの評価なんて、いつも、遅れてやってくる。

 現在ドイツで巻き起こっている「ハラグチ・フィーバー」は何を意味するのだろうか。

 原口元気は開幕戦で2ゴールの起点となると、第2節では2つのゴールをアシストした。『キッカー』誌は、2節連続でヘルタの試合のマンオブザマッチに原口を選出した。

 香川真司や岡崎慎司、清武弘嗣でさえ、2試合連続でマンオブザマッチに選ばれたことはない。さらに、第2節終了時点で同誌のつける各選手の平均採点ランキングで3位タイに名を連ねた。

 また、多くの新聞が拠点を置くベルリンの新聞も競うように原口について報じるだけではなく、インタビューを行なうほどの力の入れようだ。

「ゲンキは信じられないくらいに成長した。今では素晴らしいサイドアタッカーとなった」

 ダルダイ監督も原口に対する賛辞を惜しまない。

ボールを持った時にも周りが見えている感じがある。

 もっとも、この過熱ぶりは、原口が突然変異を起こしたことを意味するわけではないだろう。

 原口は、ここまで結果を残してきている要因はいくつかあると考えている。

「昨シーズンは『いっぱい、いっぱいだな』という感じがありました。でも今はボールを持ったときに下を向かずに、パーッと周りが見えている感じがある。シーズンが始まったばかりでコンディションがいいというのはあるけど、オフに良いトレーニングが出来たというのも大きいでしょうね」

 もちろん、原口が2014年1月からロシアW杯までの4年半という期間を一つの目安にして、個人トレーナーとともに継続して身体を鍛えてきたことも大きい。

「去年やってきたものが、少し形になってきたかなというところかな。何かを変えたわけじゃないし。結局、全てはその延長線上にあるから。チームとしても、自分自身のやっていることも」

チームの勝利プラス、毎試合ゴールを獲るつもりで。

 スピードが出ても怪我をしないような身体のコアを鍛える段階は終え、今度はスピードをつけて、さらに増していくための準備にとりかかっている。その成果が周囲の目にもはっきりわかるものになってきたということだろう。

 そして、忘れてはならないのが、ゴールやアシストなどの結果への意識を高めたことだ。

 原口はこう語る。

「昨シーズンは、自分はとにかくチームが勝てばいいと考えたり、チームのために、という意識が強かったです。それは変わらないけど、今は毎試合、点を獲るつもりでいます。点を獲らなければ、このチームで常に試合に出られないですし」

 これは自身のトレーニングの計画とも関係している。

 昨年4月半ばに、チーム得点王だったカルーからかけられた言葉を原口はこう明かした。

「ゴールを決めたいのなら、守備はほどほどにして、攻撃に力を残しておくべきだ」

 かつてはチェルシーでもプレーしたチームメイトの意見を聞きながら、原口は当時の状況について思考を巡らせていた。

「シーズン10点以上獲れるサイドアタッカーに」

「その考えもわかるのですが“今は”サロモン(カルー)のほうが能力的に高いから、美味しいところはサロモンが持って行くべきなのかもしれない。アイツは14得点を獲っているわけでしょう? 悔しいけど、14得点を獲るのは“今の”能力では無理だと思うから」

 当時の原口は、ゴールやアシスト以外の形でチームへ貢献できる力を優先させていた部分があったわけだが、そこにもきちんとした計画性があったわけだ。

「走って、チームのためにやってきたからこそ、ヘルタはこの順位にいるし、自分も試合に出続けてきた。それをやっていったほうが、むしろ、攻撃でも良い形でボールが来たりもするし。常に100%でやっていかないと、成長もしないと思うし。目先の評価とかを気にするよりも、2年後、3年後に、自分がどうなっていたいのかが大事なわけで。

 周りからはゆっくりとした成長と言われるかもしれない。でも、ゴール数にしてもシーズンごとに上げていって、最終的にはシーズンで10点以上は獲れるようなサイドアタッカーになれればいいと思いますね」

「連戦に耐えられる力をつけなければいけない」

 そんな原口なら、ヘルタがELの予備予選3回戦で敗れた現実をもプラスに変えていくのかもしれない。

「もちろん、ELに出たかったですよ」

 そう話した上で、原口はこう続けた。

「個人的にも、(運動量を求められる)ヘルタのプレースタイルを考えても、やはり最後まで頑張って走りきらないとチームは勝てない。そう考えると、もう1回、チームとして力をつける必要があるし、自分も連戦に耐えられるだけの力をつけなければいけないな、と。オレらはキツい練習をしているけど、その間に(CLやELに出るような)他のチームは試合をしているわけで……」

 そうした発言が安易なポジティブ思考とかけ離れているのは、原口は周到な計画性とともに取り組んでいるからだ。

“原口ノート”はコンディションを保つための記録。

 例えば、原口は自らのトレーニングを細かくノートに記録している。どういうトレーニングを、どのようにやったか。あとですぐに見返せるようにしているという。それだけではなく、コンディショニングに関しても同様にしっかりと記録して、改善や工夫を重ねている。

「コンディショニングについても、今は相当気を使ってやっていますね。例えば、交代浴を何分やったかなども記録していますし。以前はトレーニングをしても、やりっぱなしの状態でした。ただ、トレーニングの負荷が上がったことによって、ケアをしないと、チームのトレーニングが出来なくなってしまうようではダメ。やはり、良いトレーニングをするためには、良いコンディショニングをしないといけないから」

 原口と同様に個人トレーナーをつけ、長期的な成長を遂げるために熱心に取り組んでいる香川真司からの話も、状況を前向きにとらえるヒントになった。香川はヨーロッパにやってきてから、全てのシーズンでヨーロッパのカップ戦とリーグ戦を並行して戦っている唯一の選手だ。

指揮官から求められる「6ゴール、6アシスト」。

「真司くんが言っていたのは、(ヨーロッパのカップ戦があると)じっくりトレーニングをしたくても、なかなか時間が取れないということ。それだと、今のオレにとっては、問題というか……。もちろん、ELに出たかったけど、出られなくなって(試合の間隔が)1週間ある週が多いということは、身体を作れる時間があるということ。もしかしたら、自分にとってはラッキーだったかもしれない」

 もちろん、メンテナンスのために原口はマッサージ師を呼んで、身体のケアをしてもらうことも多いという。当然ながらお金もかかるが、それも必要な投資だと考えている。

 全ては最高のトレーニングを積み、選手として成長するためにある。

 ダルダイ監督からは、今季の目標として「6ゴール、6アシスト」を求められているという。もちろん、昨シーズンから「これからゲンキが身につけるのは得点力だ」と監督は話していた。原口はそれを受け止めながら、成長するために必要なことに優先順位をつけ、丁寧に取り組んで来たにすぎない。

 しっかりとした計画を立てたうえで、地道に努力を続けてきて、成果が表れ始めた。その進化にようやく周囲が気づいたというのが「ハラグチ・フィーバー」の実情なのだろう。そして、この状態がこれから来るさらなる活躍の幕開けを告げるものだとしても、偶然ではなく必然のもののだ。

文=ミムラユウスケ

photograph by AFLO