インテルは、予想屋泣かせのチームだ。

 地方チームや無名クラブにコロッと負けたと思ったら、王者相手の大一番を熱いゲーム内容で逆転勝ちしたりする。

 18日のセリエA第4節、ユベントスとの“イタリア・ダービー”も戦前の予想は敗色濃厚だった。下馬評通り、66分に先制されたが、インテルはエースFWイカルディとFWペリシッチがそれぞれヘディング弾を決めて、鮮やかな逆転勝ちを収めた。

 新監督フランク・デブールにとっても、サン・シーロに駆けつけた張近東オーナーや元FWミリートら3冠OBの眼前で挙げた会心の勝利だったにちがいない。

「先制されたときにも冷静さを失わずに、最後の1分まで戦いぬくことができた。選手たちが私のチーム作りの考えをわかり始めた」

 遅まきながら、ようやくエンジンは回り始めた。インテルはシーズンの再スタートを切ったのだ。

EL初戦の大金星献上でいきなり手腕に疑問符も……。

 ユーベ戦前日まで、デブールとチームは前会長モラッティが「煮えくり返った鍋の中にいる」と危惧したほど、一歩間違えば大火傷間違いなしという苦境に立たされていた。

 何せ低予算クラブの代名詞のようなキエーボ相手の開幕戦でまさかの2失点完敗を喫し、続くパレルモ戦でも先制されてドローに追いつくのがやっとの体たらく。

 第3節ペスカーラ戦でようやくリーグ戦初白星を上げたが、実際のゲーム内容は昇格クラブに苦戦する有様。後半残り15分で3人同時交代という前代未聞の奇策の末に、ドサクサ紛れで勝ち点3を拾った印象が強かった。

 さらに、大幅なターンオーバーを施して臨んだ15日のEL初戦で、ハポエル・ベアシェバに0−2の完敗。グループ最弱とされる無名チームを迎えたホームゲームで金星献上の失態を演じたことで、デブールの手腕に大きな疑問符がつくことになった。

 開幕4戦で1勝1分2敗という低成績は、5年前にわずか3戦で解任されたガスペリーニ(現アタランタ)の暗黒のスタートを思い起こさせるものだった。

「イタリア流サッカーをやるつもりはない」と強気。

 前監督マンチーニが辞任し、後任として昨季までアヤックスを率いていたデブールが急遽招聘されたのは、開幕まで2週間を切っていた8月8日のことだ。

「今季の目標はCL出場圏。カウンターに頼るのは選手が疲弊したときだけ。イタリア流に“前線に2人だけを残して、後は守備”なんてサッカーをやるつもりはない」

 就任時に強気の抱負を語る一方、「インテルが完全に私のチームになるのは4カ月後、つまり1月だ」とシーズンの長丁場も見据えていた。

 ただし、現役時代にアヤックスやバルセロナで鳴らしたかつての名ストッパーに、時間的余裕はまったく与えられなかった。

 米国ツアー参加組はシーズンに向けた体力作りや戦術指導などを欠いたまま長期間の連戦と移動で疲弊し、EURO出場組のコンディションはバラバラ。初めて知り合う選手たちと理解し合うために最適な場であるはずのテストマッチもセルティックとの1試合だけ。何より英語での指示が、選手たちにほとんど理解されない弱点も浮かび上がった。

開幕戦では付け焼き刃の3バック採用で周囲が唖然。

 心身ともに準備不足のまま敗れた開幕キエーボ戦で、監督デブールはぶっつけ本番で3バックを採用して周囲を唖然とさせた。試合後、「(EUROに出場した)MFカンドレーバとFWエデルは、イタリア代表で3-5-2に慣れているはずだと思ったから」と、付け焼き刃の3バックに賭けた理由を説明したが、闘将コンテ(現チェルシー)が古巣のユーベ守備陣をベースに2年間心血注いで鍛え上げたアズーリと、就任して13日のインテルを並べるには無理がありすぎた。

 ペスカーラ戦で見せた3人同時交代という策も、言い換えれば、デブールの先発の人選と対戦相手への研究が誤っていたことの証左に他ならない。

 選手たちの間からも「俺を3冠時代のマイコンやサネッティと比較されても困る」(DFダンブロージオ)といった愚痴が噴出し、移籍市場での赤字に起因するFFP(ファイナンシャル・フェアプレー規定)違反処分によって、今季のELにFWヨベティッチやMFコンドグビアなど大枚はたいて獲得した選手たちがことごとく出場できないことも判明。チームマネージメント上の問題は山積している。

補強予算は1億ユーロ超えで“ブランニュー”化。

 それでも、南京の蘇寧グループの資本下に入ったインテルは、今夏の補強予算としてリーグ2位にあたる1億1380万ユーロを費やした。

 EURO王者ポルトガル代表の中心であるMFジョアン・マリオはすでにセリエAへ順応し始めているし、今はまだ調整中のリオ五輪金メダリストのFWガビゴル(ガブリエウ・バルボサ)が攻撃陣に加われば大きな起爆剤になるだろう。EL王者セビージャから引き抜いたいぶし銀の司令塔MFバネガも、入団当初の試運転状態からいよいよパスワークのギアを上げてきた。

 インテルを1台のレーシングカーに喩えるなら、今季のチームは、メインフレームからサスペンションまで基幹パーツをごそっと入れ替えたブランニューモデルだ。

 新パーツに相当する新入団選手が性能アップをもたらすのはわかっている。しかし、彼らが本来の性能を発揮するには、各ポジションに置かれたパーツ同士が馴染み、連動して狂いなく動き続けねばならない。そのためには、高品質の潤滑油がいる。

新顔が多い中、7シーズン目の長友が“潤滑油”に。

 キャプテンマークを巻くのはエースFWイカルディだが、潤滑油としての働きを期待したのはDF長友佑都だ。

 長友はインテルでの7シーズン目を迎えた。

 開幕スタメンの後、右ふくらはぎを故障し2節パレルモ戦を欠場した。代表ウイークをリハビリに当て、ペスカーラ戦でベンチに復帰。調子を尋ねると「大丈夫です」と気丈な答えが返ってきた。

 現在のサイドバックには、右にDFダンブロージオ、左にサントンのイタリアコンビが入る。右サイドには新加入DFアンサルディが故障明けに入る可能性が高く、左のサブには指揮官とオランダ語で話せる19歳のDFミアンゲが抜擢された。

 移籍市場の度に過酷なポジション争いを強いられる長友だが、今シーズンは輪をかけて厳しいものになりそうだ。背番号55の主戦場は、国内外のカップ戦になるかもしれない。

 ただし、元々の強固なベースがないところに個性派の新顔がまた多く加わった今季のインテルにおいて、ロッカールームのまとめ役として長友以上に適役は見当たらない。

 先発フル出場したEL初戦は屈辱的敗戦を喫し、チーム全体が「練習試合のつもりか。真面目にやれ」と現地メディアから叱責を受けた。古株の長友にとって汚名返上のチャンスは、今月29日の第2節スパルタ・プラハ戦でやってくるはずだ。

「タイトルをとれるだけのプレーヤーは揃っている」

 一つの大きな勝利は、チームを好転させるスイッチになる。

 ユベントス戦の78分、逆転の決勝ゴールをFWペリシッチが叩き込んだ。その直後、クロアチア人ウイング目がけて、インテルのベンチ組が全員飛びかかり、歓喜の渦を作った。

 90分に退場者を出したインテルは、王者相手に6分のロスタイムを10人で耐え凌ぐと、値千金の大きな白星を手にした。総額1億6170万ユーロの巨大補強をした5連覇王者ユベントスを撃破しての一勝は、確実に単なる勝ち点3以上の価値がある。

 それでも、指揮官デブールは浮かれない。

「今夜の結果が自信をもたらしてくれるのは確かだ。しかし、我々はリアリストであるべきだよ。ユーベに勝ったからといって、次のエンポリとその次のボローニャに負けることだって十分に起きうる。今日の試合で見せたチームスピリットこそ、どこが相手でも毎試合見せていくべきものなんだ。大事なのはチームとしてのプレーを信じ抜くこと、最後まで戦い抜くことだと思っている。(タイトルを)勝てるだけのプレーヤーは揃っているのだから」

 同点弾をアシストしたMFバネガは「俺たちはここから勝者になるぜ。今夜のサン・シーロの雰囲気は最高だった」とチームの転機を強調し、やはり新加入組のMFカンドレーバも「俺たちはここから再スタートだ」と同調した。

 ギスギスしていたパーツたちが擦り合わさって、オイルが浸透し、循環する。インテルのエンジンは滑らかに回り出した。

 次節エンポリ戦から、インテルと新監督デブールにとって本当のシーズンが始まる。

文=弓削高志

photograph by AFLO