今季からアントニオ・コンテが指揮を執るチェルシーは、9月16日のプレミアリーグ第5節リバプール戦で初黒星がついた。スコア上は1−2と僅差だが、リバプールが勝って当然という内容だった。「まだベストメンバーも模索中の状態で現実を直視させられた」という新監督のコメントが、国内メディアで報じられる結果となった。

 コンテは、同節前の会見での「そのうち練習場にベッドを用意してもらわなければ」という発言が冗談とは思えないほどのハードワーカーだ。オーナーから与えられている「トップ4返り咲き」という第一目標に向けて、開幕早々の脱線を未然に防ぐべく残業も厭わずにチームの現実を見つめ直すことだろう。

 その一環として是非、セスク・ファブレガスにリーグ戦で先発がない現状にも目を向けてもらいたい。2年前、当時のジョゼ・モウリーニョ監督(現マンチェスター・ユナイテッド)に「中核」として呼び寄せられたMFは、第5節までに計32分間ほどしかプレミアのピッチに立っていない。

リバプール戦で露呈したのは攻撃への意識の欠如。

 リバプール戦での2失点は守備の甘さが原因だった。しかし、負けるべくして負けた理由は、コンテ新体制下でのテーマでもあるはずの攻めの意識が不足していたことにあったように思う。チェルシーは、試合の立ち上がりから鈍い動きで、選手交代も84分まで持ち越されたことも含めて全てが受け身だった。「嫌な時にリバプールと対戦することになった。相手は乗っている」とイタリア人指揮官が残した試合前のコメントからして弱気だった。

 たしかにリバプールは第2節でバーンリーに零封負けしたものの、リーグカップを含む3試合で計10得点の2勝1引分けでこの一戦に臨んでいた。とはいえチェルシーも、同じくカップ戦を含む開幕5戦を4勝1引分けで終えていたのだ。しかも、リバプール戦はホームゲーム。強豪対決とはいえ、中盤センターにセスクという攻撃力を配して勝ちにいく姿勢を見せてもよかったのではないだろうか?

視野もパスのレンジも広いセスクの使い道は、ある!

 実際の試合では、敵の果敢なプレッシングを前に突破口を見出せずにいたエデン・アザールとウィリアンの両翼が、前線アウトサイドでロングボールを待つ姿が見られた。しかし、エンゴロ・カンテの手前にネマニャ・マティッチという新旧正ボランチによる中盤深部から、正確なロングレンジのパスが届く気配はない。

 その一角に、視野もパスのレンジも広いセスクがいれば話は別だ。後半途中からの投入ながらも今季初出場を果した第2節ワトフォード戦(2−1)でも、自陣深くでのインターセプトからいきなり相手CBコンビの間を狙ってパスを放ち、ジエゴ・コスタの決勝ゴールを演出している。

 もっとも、そのセスク自身も現実を直視する必要がある。いわゆる“ピルロ役”の採用は当面あり得ないという現実だ。セスクはコンテの就任が決まった今年4月、『スカイスポーツ』のゲスト解説者として「正直、万能タイプのMFじゃないし、守備面で機動力があるとも言えないけど、ロングパスを交えて前線を操るのは好きなんだ」という自己評価を口にした。

 あの時点からセスクは、コンテが率いたユベントス時代のアンドレア・ピルロのように、守備のハードワークは周囲に任せてパスを散らすことに専念する中盤最深部の策士としての役割に、新体制下で生き残る術を見出していた感がある。

プレミアのピッチには“ピルロ役”の居場所はない?

 ところが新監督は、プレシーズン中に時間を割いた4-2-4といい「攻守のバランス重視」を理由に開幕後の基本としている4-1-4-1といい、中盤中央に“ピルロ役”を設けることのできるシステムを採用する素振りは見せていない。セスクの能力というよりも、セリエAよりもはるかに忙しいプレミアのピッチには、優雅に攻撃を組み立てる“ピルロ役”の居場所はないという判断によるものなのだろう。

 セスクのベンチ降格には当人の責任もある。最終ライン手前の1枚としてはカンテを相手に勝ち目はない。だが、カンテの前方に位置する2列目中央でも、マティッチとオスカルに定位置を奪われているのだ。両者とも、コンテが「ラストパスやアシストは計算できるが守備面での貢献度が足りない」と注文をつけているセスクとは違う攻守両用タイプだ。マティッチは元攻撃的MF。オスカルはトップ下のイメージが強いが、「タックル好き」を自認するだけあって仕掛けるタイミングも良い。

守備面でも及第点の貢献度を示すことができるか。

 とはいえ、マティッチには、記者陣の間でもファンの間でも「一昨季を最後にパフォーマンスが下降線を辿ったまま」との意見がある。オスカルは、4年前の移籍以来、パフォーマンスに一貫性が見られない点が泣き所であり続ける。揃って存在感を欠いたリバプール戦でのチームは、アザールを鎮静化されるとチャンス創出に苦心した3シーズン前までのチェルシーを思い起こさせもした。つまり、翌年にその問題を解決したセスクには、スタメン復帰の可能性が十分に残されているはずだ。

 そのためにも、当人には守備意識の改善が求められる。守備能力でマティッチとオスカルに及ばなくとも、守る意識を疎かにすることさえなければ、攻撃面での秀逸な貢献に加え、守備面でも及第点の貢献度を示すことができる。厳密には、再び守備の意識を改善する必要があると言うべきかもしれない。

 セスクには前例があるのだ。リーグ優勝の原動力となった移籍1年目、序盤戦では中盤中央で先発しても実質的にはトップ下のようだったポジショニングが、月日の経過と共に深くなっていった。続く昨シーズンも、終盤戦にファンの間で「次期キャプテン」の呼び声が高まった背景には、行動で示すリーダーシップの一部として、攻守が入れ替わった際にコーナーフラッグ付近まで敵を追う姿が見られた事実もあった。

ユーベ、ミラン、インテルへの移籍も噂されるが……。

 巷には、コンテが望むハードワークは聞かないとして、今冬の移籍が妥当だとする声もある。ユベントス、ミラン、インテルといった強豪の興味も伝えられている。移籍はないとする報道にしても、ユース時代にアーセナルに移籍しているスペイン人MFが、チェルシーでは数少ない「ホームグロウン」ステータスの持ち主である点を理由に挙げていたりする。本来ならば、純粋な実力の面からチェルシーに残り、新体制下で先発レギュラーに返り咲いて然るべきだ。

 訪れたアピール第一弾の機会は9月20日のレスター戦(4−2)。控え組が中心となったリーグカップ第3ラウンドでの対決だが、これもまた現在のセスクが受け入れなければならない現実だ。「何より頭から試合に出られたことが嬉しいよ。自分に何ができるかはわかっている。力を発揮することに集中するだけさ」という試合後の発言を聞けば、本人が現実を直視できていたことが理解できる。

古巣アーセナル戦での今季プレミア初先発なるか?

 試合では2ゴール1アシスト、そして120分間フル出場を果たした。 納得の表情でコメントしたのも頷ける。マティッチとの2ボランチで先発すると、立ち上がり9分に、カウンターで走ったジェフ・シュラップを諦めずに追ってプレッシャーをかけ、右SBセサル・アスピリクエタによる対応を可能にしている。

 岡崎慎司の2発で優位に立ったレスターに対して、レスターが反撃の狼煙を上げたのは、セスクのCKに反応したギャリー・ケーヒルのヘディングシュートからだった。その直前には、相手ペナルティエリア付近でプレスを掛けてパスミスを誘い、ボール奪取に貢献してもいた。後半早々にアスピリクエタが決めたボレーもセスクの折り返しに端を発している。

 反省材料が見られたのは同点直後の51分。右サイドから中央に切れ込んできたシュラップにエリア手前であっさりと抜かれ、枠外ではあったもののシュートを打たせてしまった。だが、チェルシーに勝利をもたらしたのはセスクだ。80分過ぎから前線に押し上げられると、延長戦前半に2分間で2得点。アザールのバックヒールによるお膳立てから右足で正確に決め、目の前に落ちて来たルーズボールを瞬時にコントロールして左足で叩き込んだ。

 勝利を確定させる4点目を決めたセスクは、チェルシーファンが陣取る自軍ハーフまで両手を広げながら走ってのガッツポーズ。その姿はベンチ前のコンテの目にも飛び込んだに違いない。そして、最強メンバーを模索する指揮官のスタメン構想の中にも入ったと見られる。9月24日に迫った第6節アーセナル戦でセスクに今季プレミア初先発があるかどうかは、アウェイでのビッグゲームに臨む指揮官の勇気次第かもしれない。

 それでも勝利監督は試合後に言っている。

「こういうリアクションが選手から欲しい。激しいポジション争いを演じてくれれば、試合毎に最適なイレブンを選ぶことができる」と。

文=山中忍

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