「ふぅ〜」

 試合後のミックスゾーンに現れた岡崎慎司は大きなため息をついた。

 9月27日チャンピオンズリーグ第2戦。ホームにポルトを迎えての一戦でも岡崎に出場機会は訪れなかった。前半に挙げた1得点を守り切ってレスターは勝利したが、シュートの精度を欠いたポルトに救われるような内容だった。

 前半は何度もカウンター攻撃を受けていたし、後半は押し込まれた展開でセカンドボールも拾えない。昨季見せた組織的な力を見せることもなかった。終始安定感が乏しく、ボランチのカンテの不在の大きさと共に、岡崎がいればと思うシーンが何度も訪れた。

「なんでこんな、おいしいっていうか、一番、自分を出したら安定するだろうっていう試合展開なのに……。もっと前からの守備ができれば、うまく運べたと思う。正直、このサッカーをしていたら、勝ったり負けたりが続くと思う。

 昨季のサッカーじゃダメだと監督は考えているのかもしれない。もっと個の力でゴールをこじ開けたいと。だけど、監督の意図を考えても仕方がない。俺は俺のできることを増やしていくしかない。強い気持ちを持たないと、ここで出られないことに苛立っても、正直自分の自信だけなくなる。ほんと続けるだけですね。今はそういう構想に入っていない気がします。でも、いつチャンスが来るかわからないから。こういう状況は理解するしかないっすね。飲み込むしかない」

 言葉の端々から悔しさがあふれ出てくる。そして、同じくらいの自信も伝わってきた。

CLの遠征に帯同したのに、ベンチにも入れず。

 プレシーズンマッチでも、先発起用はほとんどなかった。昇格したばかりのハルに敗れた開幕戦では途中出場だったが、第2節、第3節では先発出場し、1勝1分とチームに安定感をもたらし、昨季同様の存在価値を見せることができた。

 しかし、潮目が変わったのが9月10日のリバプール戦だった。前半で1−2とリードを許すと、ラニエリ監督は早々に岡崎を下げて新加入FWのムサを投入。しかし1−4と大敗してしまう。その直後の9月14日チャンピオンズリーグ初戦ブルージュ戦では、8月31日に加入したばかりのアルジェリア代表のストライカー、イスラム・スリマニが先発起用され、遠征に帯同していたにもかかわらず、岡崎はベンチ入りすらできなかった。

 初めてのチャンピオンズリーグで、自身にとって初めてのベンチ外。動揺は小さくはなかった。昨季積み重ねた自信を失いそうになった。

ラニエリ「なぜここでシュートを打ったんだ」

「昨シーズン、こんなところでシュートを打ったりしなかっただろう? なぜシュートを打ったんだ」

 リバプール戦の映像を見ながらのミーティング。ラニエリ監督は岡崎がミドルシュートを打ったシーンでそんな言葉を発したという。昨季のような必死さや献身性がチームに欠けているということを熱弁していた流れでの発言ではあったが、指揮官が自分のことをどう認識しているかがわかってしまった。シュートではなく、パスを選択する選手。ストライカーとしての存在感を監督に示せていないのだ。

「5得点しか決めていないことに満足していないのは僕だけじゃないということ。だから、FWを2人も獲得したんだと思う」

 守備力や献身的なハードワークへの評価は、ストライカーとしては「危険なサインでもある」と岡崎は常々語っている。その危機感が現実のものとなった。

自分を見失わず、そのうえで付加価値を。

 9月17日第5節のバーンリー戦。スリマニが2ゴールと活躍するのをベンチで見ていた岡崎は、自身が直面している現実を前にある思いに至った。ブンデスリーガで2季連続二桁ゴールを挙げ、ドイツ国内の強豪クラブからのオファーを蹴って、レスターへの移籍を決意したときの気持ちだ。

「マインツでゴールを決めていても、ワールドカップやアジアカップでは何もできなかった。ストライカーとして新たな高みを目指すためには、プレミアリーグ、新天地へ挑戦しなければならない。たとえ試合に出られなくて、代表に呼ばれなくなったとしてもレスターでチャレンジしなくちゃいけない」

 今のこの状況こそが、自分を進化させるために必要な環境だと気づいた。

 気持ちが整理され、焦りも不安も消える。昨季身に着けた自信を手放してはならない。そして、自分らしくプレーし続けていくこと。そのうえで今はない付加価値を示し、監督の認識を変える。

チェルシー戦の2得点は「なかった」ことに?

 9月20日、リーグカップのチェルシー戦に先発出場した岡崎は、2ゴールを決める。雪辱というよりも「自分は自分のプレーをする」と平常心で挑んだ結果だった。

 続くマンチェスター・ユナイテッド戦も出番はなかった。しかし、1−4と敗れたことでポルト戦出場の可能性が広がったかに見えたが、結局それも叶わなかった。チェルシー戦の活躍でも、指揮官の認識を変えることはできなかった。

「まあ、なかったような感じですね(笑)。負けたし(延長戦の末2−4と敗れている)」

 岡崎はそう苦笑いする。もうそうするしかない。

「俺がやれることを続けるだけですね。こんなことを言ったらあれですけど、自分が目指すFWの形を突き詰めて、昨季はそれを監督が好きだと言い、使われた。だからそれを貫いて、1年間を戦い抜くということだと思います。まあ、しょうがないですけど、これが今の僕の現在地だから」

「今は、日本代表のことは考えていないですね」

 良いスタートを切れた今季だったが、AマッチウィークでのW杯アジア最終予選でUAEに敗れ、続くタイ戦では出場がなかった。10月2日からまた代表でクラブを離れる。今回はオーストラリアへの遠征もある。クラブでの現状と代表での活動。そのふたつを岡崎はどんなふうにとらえているのか最後に聞いた。

「代表に選ばれたら光栄だし、もちろん、そのために頑張ります。でもこれは正直な自分の考えですけど、代表だけのためにやっているわけじゃないから。まあ僕らも30(歳)だし、経験がある。多少クラブで試合に出ていなくても使われればできる自信はあるから。

 代表は代表で今は問題を抱えていると思う。ちょっとこうチグハグというか、みんなが自信を持ってプレーができなくなっているので。僕らベテランは、試合に出る、出ないということだけじゃなくて、みんながもっとやりやすい環境にしていきたい。集まった選手がすぐに力を発揮できるような場を作るというか。代表のスタイルがまだ定まっていないと思うし、監督の意図っていうのもあると思うけれど。

 まあでも、代表とクラブとは別問題だから。今は、日本代表のことは考えていないですね」

 個の能力が高い選手が揃うプレミアリーグ。そこでどう生き抜くか。岡崎が乗り越えたい壁は昨季も今季も変わらない。昨季はリーグ優勝という結果を手にし、それに貢献したという自信は揺らがない。クラブ内での厳しい競争の真っ只中で、もっとも危険なのは、自信を失うことだ。

 もちろん足りないものはある。それでも、自分の武器を見失ってしまえば、あっという間に崩れてしまうだろう。現実から逃げてしまえばプレミアリーグへ来た意味も自身の進化もありはしないのだから。

文=寺野典子

photograph by AFLO