優勝までマジック1と迫った9月28日の西武戦、日本ハムのマウンドに立ったのは大谷翔平だった。

 日本ハムの勝敗にかかわらず、2位ソフトバンクがロッテに敗れれば優勝が決まるという流れだが、大谷のピッチングからはそういう他人任せの気分が微塵も感じられなかった。

 打たれたヒットは5回の森友哉による単打1本だけ。5回から8回までの12アウトのうち10アウトが三振によるもの。ストレートはすべて150キロを超え、155キロ未満は1球しかなかったと思う。9回を投げ1安打完封、奪三振15の迫力に、西武プリンスドームで観戦していた私は、途中まで「勝てば優勝」という局面をすっかり忘れていた。

 打者としては規定打席にこそ到達していないが打率.322、本塁打22、打点67。

 投手としては規定投球回に達していないが防御率1.86、10勝を記録。もし仮に、30日にある今季最終戦のロッテ戦で3イニングだけでも投げたとしたら防御率1位も確定する成績である(この原稿を書いている9月29日現在、パ・リーグの防御率1位はロッテ・石川歩の2.16)。

まるで少年漫画の世界のような出来事。

 大谷がプロ入りした直後、私も含めたマスコミは投打二刀流に懐疑的な視線を向けたが、大谷はそれを力で封じ込め、少年漫画の世界でしかあり得ないような打者としての打率3割、100安打、20本塁打超え、投手としての10勝超え、防御率1点台を記録した。この大谷の活躍がなければ日本ハムの逆転優勝はなかったはずだ。

 6月24日時点で首位のソフトバンクと3位日本ハムの間には11.5ゲームという大きな差がついていた(ソフトバンクと2位ロッテは7.5ゲーム差)。それが8月25日には首位が逆転し、さらにそこから約1カ月間熾烈な優勝争いが続くとは思わなかった。ちなみに、6月25日の毎日新聞朝刊運動面の見出しには「首位タカ単独飛行」とあった。

 日本ハムがこの強いソフトバンクに迫ることができたのは6、7月の好調に負うところが大きい。6月19日から7月11日にかけて破竹の15連勝を遂げ、17日前に11.5あったゲーム差はこの時点で5に縮まっていた。ソフトバンクが低迷していたわけではない。6月の成績は16勝6敗と好調を維持し、日本ハムに5ゲーム差に迫られた7月11日時点での勝率は、まだ6割8分4厘と圧倒的だった。

金田正一を抜いて、投手の通算本塁打数記録を更新中。

 このソフトバンク追撃に大きく貢献したのが打者・大谷だ。

 15連勝したときの成績は打率.389という高率で、先発投手を務めた6月26日のオリックス戦は指名打者制のパ・リーグでありながら「5番・投手」、7月3日のソフトバンク戦は「1番・投手」に入り、3打数1安打、2打数1安打の成績を残し、投手としてはオリックス戦が7回無失点、ソフトバンク戦が8回無失点という快投を演じている。こういう選手はちょっと記憶にない。

 今季20号ホームランを打った時に、通算本塁打数は38本になり、これは投手の通算本塁打数としてはプロ野球記録と並ぶこととなった(9月29日現在は22本。通算40本)。それまでの記録保持者・金田正一氏は「ピッチャーで登板して打ったホームランと、DHで打ったホームランと区別して発表しなさいよ。中身が違う」と自分のホームラン記録のほうが価値が高いと異議を申し立てたが、ピッチャーの余技として打席に立つ選手と、指名代打として確実な成果を期待されて打席に立つ選手とでは、それに対する投手の心構え、本気度が違う。

 もちろん、大谷の記録のほうが価値が高いと思う。

打者に専念した2カ月間は、圧倒的な打撃成績に!

 7月10日のロッテ戦で右手中指の皮がむけて途中降板してから約2カ月間はほぼ打者に専念した(投手としてはこの間、2試合3イニングの登板にとどまる)。

 それまでの打撃成績は打率.341(安打42)、本塁打10、打点27。

 こういう立派な成績を残した選手に対する攻めが厳しくなるのは当然で、一刀流になった当初の3試合(7/12〜18)は11打数2安打1打点と苦戦する。

 しかし、一刀流の助走期間を終えた7月20日から9月11日までの40試合、大谷のバットは154打数50安打33打点、打率.325と好調で、ホームランは12本を数えた。

 二刀流に戻った9月13日以降も打撃は好調を維持し、1ゲーム差で首位だった9月25日の楽天戦では8回裏に同点打を放ち、延長11回には先頭打者として二塁打を放ち、三塁に進塁したのち相手投手の暴投でサヨナラのホームを踏んでいる。

勝ち試合では必ず大谷の打撃が寄与している。

 大谷の各種記録を調べて驚かされるのは重要な試合での勝負強さである。9月29日現在、勝ち試合と負け試合の打撃成績をくらべてみよう。

◇勝ち試合……200打数75安打54打点16本塁打、打率.375
◇負け試合……110打数26安打10打点5本塁打、打率.236
◇引き分け……8打数1安打2打点1本塁打、打率.125

 勝ち試合での好成績をみればチーム内での打者・大谷がいかに大きな存在になっているかわかる。昨年まではボールゾーンに落ちる変化球を追いかけて凡打、空振りに倒れる場面が多かったが、今年はキャッチャー寄りでしっかりボールを捉えられるようになり、ミスショットが少なくなった。差し込まれても逆方向に持っていける自信がついたことが、そういう懐の深いバッティングを可能にしたのだろう。

 首位を争うソフトバンク戦での好成績も見逃せない。

 19試合に出場してヒットが出なかったのは7月30日の1試合だけで、あとの18試合はすべてヒットを放っている。

ソフトバンク戦では、投打に突出した成績を誇る。

 ソフトバンク戦では複数(マルチ)安打が9試合もあり、このうち3安打以上の猛打賞が3回もある。

 対戦成績は次の通りである。

◇ソフトバンク戦の打撃成績……打率.411(安打30)、本塁打9、打点16

 首位ソフトバンクまで6ゲーム差に迫った8月6日の試合では千賀滉大、嘉弥真新也からそれぞれホームランを放っている。1本目は千賀の外角高めの148キロストレートをヤフオクドームのレフトホームランテラスへ、2本目は左腕嘉弥真の138キロストレートを捉えてセンター方向へ推定130メートルの大アーチとなった。

 大谷はピッチングでもソフトバンクを圧倒している。

 4試合に先発して2勝0敗、防御率1.26という迫力で、奪三振率10.05、与四球率3.5と投球内容も安定している。そこそこのコントロールでありながら死球が4と多いのは、いかに大谷がソフトバンク各打者の内角を攻めているかを表していると見る。

 ストレートがプロ野球最速の164キロを計測したためストレートにばかりスポットライトが当たるが、今季は最初からエンジンを全開にせず、ここぞというときのために160キロ超えの豪速球を温存する投球術にも光るものがあるのだ。

 交流戦の巨人戦ではフォークボールから入ってスライダー、ストレート、あるいは158キロのストレートで入り、2、3球目にカーブを続けるということがあった。この試合では1、2回にストレートが150キロを超えたのは1球しかなく、フォークボールをスライダーのような感覚で使う配球が目を引いた。それが3回からストレート主体のピッチングに変わり、結果的に150キロ超えが40球、160キロ超えが5球という力のピッチングを展開、2失点完投で巨人を封じ込めた。

もはや「二刀流の是非」は意味が無くなった。

 この技巧色が加わったピッチングがバッティングに好影響を与えているのか、奥行きを増したバッティングがピッチングに好影響を与えているのかわからないが、以前のような「二刀流の是非」で大谷の未来を占うような批評は意味をなさなくなった。

 9月29日現在の投打の成績は次の通り。

◇投手成績……21試合、10勝4敗、防御率1.86 ※規定投球回まであと3イニング。
◇打者成績……104試合、打率.322、安打104、本塁打22、打点67、OPS 1.004

 空想の世界では1シーズン投手で10勝、打者で100安打というのがあった。

 しかし、それはあくまでバーチャルな妄想世界の話で、まさかそれを現実にしてしまう選手が現れるとは思わなかった。ある部分で大谷はイチローに匹敵するスーパースターと言っていい。

文=小関順二

photograph by Nanae Suzuki