不満や危機感を覚えなくて、いいのだろうか。

 今季のチャンピオズリーグ(CL)のホームでの初戦で、ドルトムントはレアル・マドリー相手に2−2の引き分けに終わった。

 ところが、ドルトムント側から聞こえてきたのが、比較的なポジティブな感想だった。

「この結果については満足できるよ。内容を考えれば妥当な結果でもあるね」

 そう語ったのは、指揮官のトゥヘルだ。負傷がいえてから初めてメンバー入りし、途中出場から87分に同点ゴールを叩き込んだシュールレの感想もこうだ。

「レアル相手に2度にわたってリードを許したのに、それなりの戦いはできた。だから、良い気分だよ」

 彼らがポジティブでいられるのは、なぜなのか。そこに、現在のドルトムントの状況を解くカギがある。

今季が初のCLである監督と選手たち。

 レアル戦のスタメンのなかでは、GKのビュルキ、MFではバイグル、ゲレイロ、デンベレが“ポジティブ派”だ。途中出場した選手のなかでは、MFモルとプリシッチ。そしてトゥヘル監督。

 彼らに共通するのは、今シーズンキャリア初のCLを戦っていることだ。

 初めてCLに挑戦する者が多いドルトムントは、2試合を終えて勝ち点が4、総得点は8を数える。

 一方で、現在もドルトムントに所属し、'12-'13シーズンのウェンブリーでのCL決勝メンバーであるゲッツェ、シュメルツァー、ピシュチェク、ベンダーらが初めてCLに挑戦した'11-'12シーズンには、ヨーロッパリーグ(EL)に回ることさえできないグループ最下位に沈んだ。今季のほうが、はるかに良い状況にある。

 なぜ、彼らが満足感を示したか。その理由は、昨シーズンをもってドルトムントの1つのサイクルが終わり、新たなサイクルを迎えているということだ。

主力が移籍したのは、ドルトムントでの限界が影響?

 サイクルの終わりを象徴する出来事が、今シーズン開幕前にフンメルス、ギュンドガン、ムヒタリアンという主力の移籍だった。彼らがドルトムントを離れた理由は、国内外のビッグクラブからオファーがあったからという単純な理由だけではない。彼らは、ドルトムントで新たなモチベーションを見出すことに限界を感じていたのだ。

 毎年のように補強を続けてきたのに、バイエルンにリーグ4連覇をゆるした。ドイツ杯では3年続けて、決勝で敗れた。優勝を狙っていたELでも、大会の歴史に残る逆転劇を演じたリバプールの引き立て役となって準々決勝で敗退した。

 その背景に目をむけると、彼らが何を考えていたかが分かる。トゥヘル監督の下、昨シーズンの途中で攻撃的な戦いから相手に合わせた守備的な戦いへの変更を選手たちは受け入れた。これまでと異なる戦術に戸惑いながらも、そのなかで戦い続けてきたのは、結果を残したかったから、タイトルに飢えていたからでもあった。

 しかし、ブンデスリーガのなかで最も長いシーズンを戦った彼らの手元に残ったのは、CL出場権だけだった。悔しい想いを味わってきて、昨シーズンも悲願は叶わなかった。そんな状況で新たなモチベーションを見出すのは難しい。それも、フンメルスたちが移籍する大きな理由だった。

 つまり、トゥヘル体制で2年目を迎えたドルトムントは、2011年にクロップ監督のもとで9年ぶりのリーグ優勝を達成した時のサイクルが終わり、次のフェーズに突入しているのだ。

レアル戦には10代の選手が3人も出場していた。

 2011年にリーグ優勝を果たしたチームの平均年齢は24.2歳。今季からドルトムントに新たに加入した8選手の平均年齢は、22.3歳(*レンタルからの復帰選手は除く)。レアル戦で出場した選手のなかには10代が3人、22歳以下の選手が6人もいた。香川真司も先日、こんな風に話している。

「やはり、18歳や19歳の選手たちの存在は、すごく勉強になります。彼らはポテンシャルがすごく高いし、プロフェッショナルな選手が多い。そういう選手がどうやっていくのか楽しみですし、刺激もありますから」

 彼らの現時点での経験値や、これからの成長の余地を考えれば、CLの滑り出しは確かに上々。つまり、ドルトムントは“未来”を見ているのだ。成長の可能性が十分に残されているという事実が、彼らをポジティブにしているのだ。

では、香川真司の立場はどれほど危ういのか。

 それでは、この試合でベンチ外となった香川の場合はどうだろうか。

 まず、この試合でベンチ外になるかどうかは、ギリギリに決まったと言われている。シーズンは長い。そして、トゥヘル監督は状態のよい選手を起用するタイプの監督である。この試合でベンチ外となったことだけで、香川のポジションを騒ぎ立てるのはナンセンスだ。

 ただ、懸念されることが2つある。

 1つ目が、チームのサイクルの問題だ。マンチェスター・ユナイテッドでプレーしていた時期があるとはいえ、香川はクロップの作った旧サイクルに属する選手だ。しかも同じく旧サイクルのピシュチェク、ベンダー、シュメルツァーらと異なるのは、新加入選手の大半が攻撃的なポジションの選手だということだ。

 しかも、“ベテランの外国人”であるという立場は、不利に働きこそすれ有利には働かない。香川と同じ能力のドイツ人選手がいれば、ドイツ人選手が起用される。そして香川と同じ能力の若い選手がいれば、こちらも若い選手が起用されるだろう。

トップ下争いに、また1人強敵が出現。

 そして、もう1つの懸念が、ここに来て急激に評価をあげているゲレイロの存在だ。EURO王者として今季から加入したこのポルトガル代表は、当初サイドバックの選手として加入した。

 しかし、ドルトムントでは中央のポジションで存在感を放っている。レアルとの試合では左MFで先発したが、シュールレが左MFとして途中出場するタイミングで交代を命じられたのは彼ではなく、それまでトップ下を務めていたゲッツェだった。シュールレの途中出場にあわせ、ゲレイロはトップ下にポジションを移し、チームは同点に追いついた。

 今季のドルトムントはここまで4-1-4-1を基本とした布陣で戦ってきているが、トップ下を争う香川のライバルとしてはゲッツェ、カストロに加えて、現在は怪我で戦列を離れているロイスがいる。そして、ここにきてゲレイロもこのポジションでレギュラー争いに加わり、輝きを見せている。

「周囲を活かす」という武器さえも……。

 印象的なのは、ゲレイロが移籍後初ゴールを含む1ゴール、2アシストをマークし、ヴォルフスブルクに5−1で大勝した試合のあとのトゥヘル監督の発言だろう。

「ゲレーロは素晴らしい才能を持った選手であり、彼がピッチに立つことで『周囲の選手のパフォーマンスが向上する』のだ」

 香川は今シーズンの意気込みをかたるなかで、ドルトムントにやってきてから最も激しいレギュラー争いについてこう話していた。

「トップ下とサイドは求められるものが違うし、サイドのアタッカーが多い。だから、バイタルで受けられるかどうか、中盤で上手くボールを受けられるかどうか、という意味では、(新加入選手たちの)特徴は僕とは違うところがあると思うので、そういうところでは自分のメリットは感じています。もちろん彼らのスピードだったり、ドリブルの威力はすさまじいクオリティがあるけれど、それ以外のコンビネーションだったり、仲間を活かすことだったり、そういうところをうまく基盤にしてやっていきたいです」

 最近の試合におけるゲレーロのパフォーマンスとトゥヘルの評価をあわせて考えると、開幕前にほとんどの人間が予想していなかった形で、香川は真価を問われることになった。

2015年から取り組んできたトレーニングの成果は?

 ただ、激しいレギュラー争いは香川自身を大きく成長させてくれるハードルでもある。

 さらに、2015年2月からトレーナーと契約して取り組んできたトレーニングの成果が、そろそろ出てきてもおかしくはない。試合に向けて、以前よりも集中して良い心理状態で臨めるようになるなど、メンタル面での効果はすでに出ていた。本格的に取り組み始めてから1年半がたったことで、フィジカル面での成果も期待できる。

 決して楽観できる状況ではない。ただ、レベルがあがり、未来にむけて注目が集まるほど、チーム内での競争はやりがいのあるものとなる。新たなサイクルを迎えるドルトムントにおいて、香川はどんな振る舞いを見せていくのだろうか。

文=ミムラユウスケ

photograph by AFLO