お立ち台で11.5ゲーム差をつけられたときの心境を尋ねられた栗山英樹監督は、清々しい表情でこう答えた。

「ずっと言ってきたように、あきらめていませんでした」

 そう、あきらめないのがファイターズの真骨頂。

 正直に告白すると、ぼくはほとんどあきらめていた。

 6月下旬から7月半ばにかけて、球団記録を更新する15連勝を樹立しても、まだ信じていなかった。なぜなら、この2年間でホークスの強さが骨身に沁みていたからだ。

 昨シーズン、ファイターズは2位でリーグを終えた。2位独走。優勝したホークスに、12ゲームという途方もない差をつけられた。

 昨年末、本サイトの「プロ野球・ゆく年くる年」のファイターズ編で、ぼくは次のように書いた。

《ホークス戦を観るのは、洗面器に張った水にずっと顔をつけているような体験だった。ずっと息苦しいのだ。柳田、内川、李大浩、松田、中村……。(中略)野球は確率のスポーツ。これが三巡、四巡すれば、やがてどこかで打ち出すことになる。》

 この文面から伝わってくるのは、2位で上出来、優勝はホークスで決まり、というあきらめにも似た心境だ。

叫ばずにはいられなかった「シンジラレナ〜イ!!」。

 ところが今季のファイターズは独走する王者を捕まえ、最後に逆転した。こうなると、かつての名将の言葉を叫ばずにはいられない。

 シンジラレナ〜イ!!!!!!!

 もしかすると、この言葉に大逆転の秘密が隠されているような気がする。

 北海道移転後のファイターズは、球界の常識に捉われない大胆な補強、用兵を次から次へと繰り出してきた。この球団には、自由な発想で可能性をひたむきに追求する風土がある。

実にファイターズらしい優勝の形じゃないか。

 今季の優勝にしても、ふたつの「信じられない」なくしては考えられない。

 開幕前にこう予言されたら、果たしてあなたはどう思うだろう。

「昨季、最多勝に輝いたエースが3割20本打つよ」

「抑えのエースがローテの柱になるよ」

 そんなわけないでしょうよ。

 大谷と増井、このふたりの八面六臂の活躍がなければ、ホークスの牙城を崩すことはできなかったはずだ。

 前半戦のエースが、後半戦には強打者となって打線を牽引した。それが土壇場になってふたたび無敵のエースになり、チームを優勝に導く――。実にファイターズらしい優勝の形じゃないか。

 これから先、ぼくたちは2016シーズンの大逆転優勝をどんなふうに語り継いでいくのだろう。

陽岱鋼のビッグプレーを死ぬまで忘れない。

 物語の主役は、やはり二刀流を進化させた大谷。だが、もうひとつ忘れられないことがある。

 それはホークスとの最後の2連戦、9回裏2死ニ、三塁という大ピンチで飛び出した陽のファインプレーだ。

 江川の放った打球が、センター後方にぐんぐんと伸びていく。

 このとき、ぼくはサヨナラ負けを覚悟した。このボールが広大な外野に弾んだ瞬間、逆転優勝も消えてしまうのだと覚悟した。だが次の瞬間、陽がガッツポーズを見せていたのだ。

 それは絶体絶命のファイターズを救うビッグプレーだった。

 メジャーリーグには、《THE CATCH》という名で語り継がれる伝説のプレーがある。それは「完全無欠のプレイヤー」と呼ばれたウィリー・メイズが、1954年のワールドシリーズでセンター頭上を超える大飛球を捕球したものだ。

 信じられない反応と脚力によって、落下点に到達した陽のキャッチ。それはメイズに勝るとも劣らない、鳥肌が立つようなプレーだった。ぼくは死ぬまで、あの瞬間を忘れないだろう。

文=熊崎敬

photograph by Takuya Sugiyama